第三話「勇者変身」④
「……って言うか、土方のアンちゃんって……。思いっきり、ガテン系脳筋野郎じゃん! チョーウケる……脳筋DQNとか。まぁ、その筋肉は評価してもいいけど、さすがに、さっきのアレは思慮が足りなさすぎだったよねぇ……」
「そうだね……。まぁ、パーティ組んでも、人の言う事聞かずに真っ先に死ぬタイプだろうな。悪いけど、君と組むのは遠慮しとくよ」
……せっかく、いい感じに和んでたのに……。
なんで、要らない喧嘩売るかなぁ……このオタクどもは……。
「んだとゴラァッ! なんなら、やるか……このオタク野郎!」
ヨウジさん、煽られて案の定キレちゃった……。
結構重そうな斧なのに、軽々と振り回して、構えをとってる。
重そうな斧を両手で肩の辺りで構える、いわゆる八双の構え。
剣道だと、使えない構えって評判らしいけど、重たい斧を使うとなると、この構えは振り下ろしで斧の重量を乗せられるし、縦に構えることで、バランスも取りやすいから、斧を使って戦うとなると、多分ベストの構え。
このヨウジさん……すでに斧の勇者として、順応してるっぽい。
戦闘系の勇者の武器って、所有者として認められた時点で、半ば無意識にその武器を効率良く扱えるようになるって聞いてる。
なんて言うか、ベストの使い方が降りてくるって感じ。
だからこそ、勇者ってのは初陣だろうが、問答無用で強い……武器が人を選ぶってのも納得がいく。
対して、コウさんは足を大きく開いて、姿勢を低くした上で刀をやや下で真っ直ぐ構える、突きの構えで応戦する構え。
お姉ちゃんにちょっと教えてもらったけど、下段構えだったかな?
……ヤクザのドスの構えとも言う。
流浪人の斎藤サンの必殺技が有名だけど、アレとはちょっと違う。
両手で構えて、腰だめにするような感じだから、やっぱりヤーさん突貫の構えってのが近い。
……剣道だと、構えは基本、中段一択なんだけど。
実戦だと、突きでの突貫ってそれなりに厄介なんだって!
剣道の試合なら、そんなのやられても、そっこー面あり一本とかで終わりだけど、実戦だとそうもいかない。
迎え撃つ側は、とにかく、一撃で行動不能にさせないと止められない。
致命傷を与えたとしても、最後の力で刺されたら死ぬ。
完全に、防御は捨ててる超攻撃的な構えなんだけど、死なばもろともの捨て身の突貫とか……本気でヤバイ。
スピードでは、コウさんの方が上だろうから、斧の振り下ろしでの迎撃を掻い潜ってってなると、この突き突貫は対抗戦術としては、かなり有効。
ヨウジさんも、後の先狙いで待ちの構えってのは、パワー系ファイターの戦術としては定石。
……どう見ても、二人共実戦経験とか無さそうだけど、どっちも構えの時点では互角。
どっちが勝っても全然、おかしくない。
と言うか、わたしも……こんな目の前で一触即発ってなってるのに、双方の戦術とかスラスラ読める。
わたしって、そこまでこう言うのに詳しかったっけ?
今もこの二人が、読み合いで殺気の応酬を繰り広げてることだって、解る。
もしかして、これもランタンの力なのかも。
実際、ランタンから青白い光が漏れてて、何らかの力が発動してるのが解る。
「まったく、血の気の多い方ですね……そんな大物でこの間合。さすがに無理じゃないですかね。スピードでは間違いなく、こっちに分がありますよ? と言うか、リナさんこれって、この時点で勝利フラグですよね?」
緊張感に耐えられなくなったのか、コウさんが軽口を叩く。
「そだね……こう言う血の気の多いパワー系噛ませチンピラと主人公の対決。これもまた定番よねー。よっしゃ、そう言う事なら、このアタシも助太刀つかまつろう……二人で、軽くボッコボコにしてやろうぜい!」
……リナさん、ヨウジさんの横に回り込んで、長めの短剣を抜くといわゆる猫脚の姿勢、つま先立ちで軽く膝を曲げて、身体を横に向ける構えを取る。
多対一での戦いで、アサシンともなれば、側面攻撃が定石。
……これは、かなりイヤらしい。
「うひひ……ならば、某も加勢しちゃいますお。某、勝ち馬に乗るタイプですしおすし」
落ち武者おじさん……両手に短剣持って、お手玉みたいにクルクルと空中で弄んでる。
こっちもさりげなくと言った様子で、リナさんの向かい側に立つ。
黒ローブに黒い革鎧、目元だけ覆う怪盗みたいな仮面被ってるんだけど、身体がとにかく貧弱……言葉使いもキモいし、態度も悪い……何が某だよ。
今の所、落ち武者おじさんいいトコなし。
双剣士とか……どう見てもイメージ違うし。
なんで、勇者の双剣もこんなのを選んだんだろう? 訳、解んない。
……無理して、怪我しなきゃ良いんだけど。
とにかく、4人はもう一触即発って雰囲気。
ヨウジさん……喧嘩っ早いのはいいけど、オタクとは言え三人相手だと、さすがに厳しいんじゃないかな。
実際、三対一とかなって、さすがに少し怯んでる様子。
そこで一歩下がって、なるべく全員を視界に入れた上で、構えを斧を横に構える脇構えに変化させる。
多対一となると、振り下ろしに拘るより、なぎ払いで、まとめて薙ぎ払うってのが最適。
ヨウジさん……やっぱり戦士としてはかなり優秀。
と言うか、一人相手に三人がかりとかって、どっちが噛ませなんだか……ちょっとズルくない?
むしろ、ヨウジさんの方が主人公っぽい。
心情的には、こっちの方を応援したくなる……判官贔屓って奴なのかもしれないけど。
そろそろ、誰か止めて欲しいなぁ……なんて思いながらも、見守るわたし。
ここで、喧嘩やめようって間に割り込めたら、まさに大正義ヒロインの面目躍如って感じだけど。
……これはちょっと勇気を試されるな。
お姉ちゃんをチラッと見ると、むしろワクワクした顔で見守ってる。
うーん、ここはむしろ止めないほうがいいのだろうか?
いかんせん、わたしは戦闘力皆無……この4人がガチで戦いを始めちゃったら、止めようがない。
変身中は、死なないって話だけど、痛いのとかどうなんだろ……。
個人的には、せめて一対一で、正々堂々戦いなよーとか言いたいんだけど……。
「お前達! 王の御前である! 争いは止めよ!」
わたしが逡巡していると、唐突に、大きな声が響いて、壁の真ん中あたりに扉が開いて、移動式のベッドみたいなのに乗せられた王冠かぶったオジサンが出てきた。
うん、多分この人が王様だ。
……姉を死地に追いやった……そう言う意味ではある意味、わたしの仇とも言える。
だからこそ、敵意を込めて睨みつけたつもりだったけど。
すぐにそんな思いは、あっさりと霧散してしまう。
王様……今にも死にそうな感じだった……。
顔色は青ざめてるし、生気が無い……病院なんかでたまに見かける、棺桶に片足突っ込んでる人。
まさに、そんな感じ。
まどかさんも、こう言う人は見慣れてるみたいで、引きつった顔をしている。
……ああ、この人はもう、ほっといても死んでしまう。
本能的にそれを理解してしまったから、もう敵意も何も無くなってしまった。
けど、王様以外にも、甲冑着て槍を持った兵士がぞろぞろと何十人も出て来て、わたし達を取り囲む。
剣呑な雰囲気を察したのか、何人かは武器を構えて、兵士たちに向き合う。
「貴様らっ! 何をしている……早く跪かんかっ!」
兵士の中でもリーダーっぽいのが大声を張り上げる。
鎧とか兜もピカピカで色々装飾ついてて、特別な立場だってすぐ解る。
うーん、騎士団長とかそんな感じ?
けれども、王様もプルプルと手を震わせながらも、騎士団長を押し止める。
「よい……この者達に、跪かれるような資格など、わたしにはないのだから」
「王よっ! 何を気弱な……こう言うのは、最初が肝心なのですぞ!」
「アレキサ騎士長……構わん……この者達を力で御し得るなどと思うな。ひとまず、争いは止めて欲しい。……勇者たちよ」
……騎士長さんは、それでも敬意を示す為か、無言で跪くと、囲んでいた他の兵士も無言で跪く。
一触即発だった4人も、ひとまず武器を下ろす事で争う意思がない事を示す。
まぁ、偉い人相手に跪くとか、そんな習慣、日本人には無いからね。
とりあえず、軽くペコリと会釈くらいはする。
皆、ああそれで良いのかって感じで、何となく真似してる。
まぁ、体裁は整ったかな。
「……あ、貴方が、この異世界召喚を仕組んだ王様って事で、よろしいですかね?」
騒ぎの中心だったことを自覚してか、コウさんが緊張した様子で、王様に向き合う。
「いかにも……」
渋く重みのある一言に、コウさんが一歩下がる。
どうも、威厳に圧倒されてる感じみたい。
オロオロとリナさんや落ち武者さんに、視線を送ってるんだけど、どっちもどうぞどうぞみたいに手を払う仕草をしてる。
このコミュ障どもめ……。
さすがに、この人じゃ……リーダー格として、王様の相手するのは、荷が重いって感じがする。
ここは、選手交代……だよねぇ。




