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第三話「勇者変身」③

「ありゃりゃ、チビちゃん……ハズレ職引いちゃったの? ちょっと残念ね……せっかく、チュートリアル役もらって、色々予備知識も持ってたのに……でも、あんま気落ちしちゃ駄目だよ。まぁ、なんだかんだで世の中ってバランス取れるようになってるのかしらね」


 ニートさんが心底同情って感じで、話しかけてくる。

 でも、どことなく上から目線。

 

 まぁ、ゲーマー感覚だと、そうだろうね。

 

 魔法使い好きって事なら、アタッカーでゴリ押し大好きパワープレイ派っぽいし。

 回復職や生産職は、あんまりやってないんだろうな。


「生産職を侮ったら、駄目なのですよ? この世界の回復ポーションって、本来は傷の治りが早くなるとか、その程度のショボい代物なんだけど、勇者の作るポーションは袈裟懸けにバッサリやられてるような重傷でも、死んでなきゃ回復できたりするのですよ。要するにチートアイテムメーカー……それがどう言う意味を持つか、ゲーマーさんなら解るでしょ?」


 もちろん、マジックユーザーの生命線、魔力ポーションだって作れる。

 街売り品はショボいけど、勇者お手製はワンランク上だって、お姉ちゃん情報で知ってる。

 

 おまけに、武器防具の強化……エンチャントや、能力値の一時向上、インスタントブーストも使えるともなれば、戦闘職の戦力を何倍にも引き上げることが出来るって事。

 

 それに、この手の錬金術師って、自分は戦わずに、ゴーレムとか使い魔なんかを戦わせるってのも、よくあるパターン。

 ……やり方次第で、それなりに戦力になると思う。


「……お、おぅ、そうなんだ! あ、うんっ! ……アタシ、おチビちゃんと初めて会ったときから、こんなコが妹だったらなーって思ってたんだ! 仲良くしましょっ! あ、アタシ、東条理奈とうじょうりな! リナって呼んでいいよ!」


 ……さっきまでの上から目線の同情は何処へやら。

 気持ちが良くなるくらいの手のひら返し……なんかもう、返す言葉もない。


 握手を求められたので、笑顔でその手を握り返す。

 

 ……ううっ、ここは耐え忍ぶべき局面。

 笑顔引きつってる気もするけど……耐え忍ぶのだ。


「奇遇だな……僕もだ。妹系キャラってやっぱいいよね……あ、僕は山崎幸生やまざきゆきお。でもユキオとか、なんかモブっぽいから、コウって呼んでくれ……一応、ソシャゲなんかではキャラネームの定番にしてるけどね」


 なんかのアニメの主人公で居たなぁ……コウ・なんとか。

 

「コウ……あ、解った! 危ない薬を打ちながら、ゼロ距離アタックする人だ!」

 

 お姉ちゃん、結構なオタク趣味で、色々DVDとかBD借りて来ては一緒に見てたから、私もそれなりに解るんだけど。

 なんか、こう……断片的に変なふうに覚えてる。

 

「うへっ、そう来る? むしろ、凄いなぁ……あんな昔のアニメ見てる女の子なんて居たんだな……。あれ、軽く20年くらい前だと思ったんだけどな」


「まーかせて、これでもオタク趣味とか、結構イケるクチなのですよ? あの作品の見所はヒロインとライバルと主人公が三角関係で、危機的状況の中、ドロドロした愛憎劇が繰り広げられるのが、むしろ素敵なのですよ! あと、オジさん中尉が渋くてカッコいいっ!」


 ……ヲタク界隈では、巨大兵器同士の決戦とかが語られることが多いんだけど。

 わたし的には、見どころはそっちだと思う。


「……そこ評価する所? あのヒロイン……三大悪女の一角って呼ばれるほどなんだけど……。確かに中尉はいいキャラだったよね……散り際なんか理不尽だったけど。というか、君ってもしかして、オッサン好み属性だったりする?」


「ゴメン、アタシ……君らが、何の話で盛り上がってるのか、良く解んないんだけどさ」


「んー、機動戦士系の話だよ。まさか元ネタが解るなんて、軽く驚愕しているところだよ」


「あー、アタシ……機動戦士は詳しくないわー。さすがにね。でも、ドロドロの三角関係ロボアニメってむしろ、興味湧くわ」


「僕は、あれってメカが主人公だと思うんだけどなぁ……巨大モビルアーマー同士の決戦とか熱すぎるでしょ」


「女子は、そう言うのあんまり興味ないのですよ」


 そこら辺は、お姉ちゃんも一緒だった。

 ロボの違いとかよく解んない……赤いのは三倍で、白いのが味方なんだよね。


「だねぇ……女子にロボの良さを語られても、ふーんで終わるのがデフォだよ。もしかして、筋肉とかおじさんキャラとか好きだったりする?」


「どっちも大好物なのですよ?」


 うん、定番のイケメンよりも、細マッチョとか、渋ダンディーとかが好き。


「にゃはは、いい趣味してるじゃない……。やっぱ、男はワイルド系か、渋み系だよねー!」


 なんか、リナさんと意見が一致。

 あまりいい印象なかったけど、ヲタク談義したら楽しいかもしれない。

 

 それに、オシャレ助言くらいしてあげたいな……せっかくいいスタイルしてるんだし、髪の毛とかも可愛くしてあげたい。


 お姉ちゃんは、そう言うのパーフェクトだったから、全然やり甲斐無かったんだよね……。


「そ、そっか……そうなんだ。でもまぁ、確かにそう言う話も聞くしね。うん、僕も人間関係ドラマとか、嫌いじゃないよ。あはは……」


 コウさん……引き気味な笑顔。

 それは、いいんだけど……目線、チラチラ胸に向けられるのって、思ったより不快なんだね。

 

 学校とかでも、ランニングとかしてると、たまに男子にガン見されたりするけど……。

 向こうは、きっと気付いてないと思ってるんだろうけど、そう言うのって結構解る……嫌だ、嫌だ。

 

 でも、こう言う人にも、可愛がられるようにしないと。

 いざって時に守ってもらえる……わたしの生き残る道は、まさにそれ。

 

 あざとかろうか、卑怯だろうが……わたしは絶対に生き残る。

 そうでないと、幽霊になってまで、戻ってきてくれた姉の思いが無駄になってしまう。

 

「あはは……なら、コウお兄ちゃんって呼びましょうか?」


 そう答えると、あからさまに動揺した感じで、コウさんの目が泳いで、なんだかだらしない顔になる。

 ……なんと言うか、チョロいのですよ?


「あ、あはは……お兄ちゃんとか、実際呼ばれると照れるね。大丈夫! 君のことは、ちゃんと僕が守ってあげるからさ!」


「……おっ! コウ君、なんかそう言うセリフ……主人公フラグっぽいね! まぁ、確かにこう言うバックアップ系の子とは仲良くしとかないと、色々困ったことになりそうだしねー」


「そ、それじゃ、僕が打算で動いてるみたいじゃないか。でも、確かにネットゲームでも、そう言う生産職の人達ってのは、必ずいたね。NPC売りのアイテムとかせいぜい最下級ポーションどまりとか、売ってても数量限定だったり、コスパ悪いとか、そんなのがお約束。何より、戦闘職側にとっても、生産職の人達は使いみちのない素材やドロップアイテムを買い取ってくれたり、クエストを発注してくれたり、持ちつ持たれつって関係になる。そんなもんだよね」


「そうなのですよ。それにアイテム生産とか、単純作業や繰り返し作業って人によって、向き不向きが激しいのですよ。例えば、さっきの酔っぱらいさん……あなたは、延々と葉っぱグツグツ煮込んだり、化学実験みたいなことやりたいですか?」


 酔っ払いさんは、さっきまで威勢良かったけど。

 酔いが冷めてきたのか、でっかい斧を手に、ちょっと気まずそうに、輪の外で立ってるところだった。


 ちなみに、コスチュームは上半身裸で肩と胸の辺りに、プロテクターがあって、前を開けたベストを羽織ってるだけと言うワイルドなスタイル。

 

 ……何の仕事してるのか知らないけど、結構鍛えてる感じのいい筋肉してる。

 お、おう……これはまた……イイね! でもなんか、仲間はずれみたいにされてるような……こう言うの嫌いっ!


「あ? お、俺か……あ、ああ……そうだな。確かにそんな事やってられねぇよ。と言うか、俺はなんなんだよっ! こんな斧とか……まさか、木こりとか言うんじゃないだろうな!」


 思わず、ガン見してたんだけど、吠えられるように言われて、我に返る。


「お、斧の勇者は……パワー系ファイターなのです……攻撃力ならトップクラスの接近戦専門ジョブなのです。必要なのは勇気? その……ちょっとカッコいいのですよ?」


 上半身裸で筋肉とか……生で見ると、なんと言うか。

 凄い……普段見慣れないから、思わずキャーとか言いたくなる。

 

 こ、これが大人の魅力……? ゴ、ゴクリ……。


「……必要なのは……勇気か……。カ、カッコいいかな? 俺」


「モンスターとかおっかないの相手に、直接、目の前まで殴りに行くとか、勇気がないとやっていけないのですよ……。斧とか剣みたいな近接戦の勇者の武器は、勇気あるものにその身を委ねるらしいのです。つまり、酔っ払いさんは勇気を認められたってことなのですよ……それに、結構鍛えてるんですよね? ナイス筋肉です!」


 そう言って、親指を立てて笑いかけると、それまで訝しげな顔をしてた筋肉さんが、一瞬ポカーンとしたと思ったら、相好を崩す。


「そ、そうか? ま、まぁ……俺は喧嘩で逃げたことだけはねぇのが、自慢なんだ! それに土方仕事なんてやってるからな……この筋肉は伊達じゃねぇぞ? へへへっ! つか、俺は酔っ払いじゃなくてだな! く、倉木洋次クラキヨウジってんだ……うん、ちゃんと名乗らないと変な名前で呼ばれかねない流れだったから、俺も仕方なく……だな?」


 ……最初の粗暴な印象はどこへやら、褒められると弱いのかヨウジさんもすっかりデレた感じになって二の腕の力こぶを披露してくれる。

 すっごいなぁ……力こぶだけで、わたしの太ももくらいの太さがあるよ! 


「ヨウジさん……名前覚えたのですよ。でも、女の子には、優しくしないと駄目なのですよ?」


「そ、そうだよな……。さっきは……その……なんだ。すまなかった! 俺も色々動転してたし、酒入ってたしな。なんかシラフになったら、ちょっと悪いことしたなーって、少し反省してたんだ。わるかったな! 俺も大人気なかった!」


「反省できるのは、良いことなのですよ?」


 そう言って、ニッコリと笑いかけると、照れくさそうにボリボリと頭を掻いてる。

 

 うん、ガラは悪いけど、女の子におだてられて、満更でもない様子。

 まぁ、背の低い年下の女の子相手に、イキがるとか、普通に考えてみっともないし、この人多分ツンデレ系。


 男の人でツンデレってどうかと思うけど、ヤンキーキャラとかだと、一応定番どころ。


 最初の印象が悪くても、こう言う可愛げのあるところを見せられると、女子としてはちょっとポイント高いし、この筋肉は、評価に値すると思うのですよ!


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