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第三話「勇者変身」②

「アイテムバックLLって何? そんなの持ってたっけ?」


 謎のアイテム名に思わずツッコミ。

 そんなモン知らんよ?


「アイテムバックは……多分、その背中に背負ってる登山用リュックが、そう言うアイテムに変化したんじゃないかな? アレだよアレ……容量無限異次元バック的な、お約束アイテム。そいや、私の学生カバンもそんな風になってて、結構重宝してたんだった……説明し忘れてたね。ごめん」


 インベントリとも言う。

 ゲームによっては、拡張するのにリアルマネー寄越せってなる。

 確かに、異世界ラノベじゃ定番だけど、話が進むと大抵空気になるヤツだ。


 お姉ちゃんも存在忘れてたとか言ってるくらいなんで、空気になってたんだろうね。


「な、なるほど……。妙に軽くなってると思ったら、そんなことに……。そりゃ、確かに便利そうだね。でも、これ向こうにいる時に欲しかったよ。色々、持ってくるの諦めたのいっぱいだったし……真空パックとかしまくって、容積稼いだ努力はなんだったの? けど、なんで、こうもいちいち、ゲームちっくなんだろうね? まぁ、こんなの見ても、事前に聞いてた通りだったから、別に驚かないけどね」


「さすがシズルちゃん、冷静だよね。元々、これってこの世界の神様が、半分お遊びで作り上げたシステムで、勇者システムって言うんだって。けど、その神様も何者かに倒されちゃったから、使用者を異世界から召喚する召喚システムと、元々概念的存在である勇者の武器自体を現界させる武器召喚システムって形でしか、残ってないらしいのよね。で、王国はその神様の残した武器と勇者の召喚システムを使って、幾度もなく繰り返された魔族の侵攻や世界の危機を、勇者の力で救ってきたって訳ね」


 神様……か。

 神様が実在する世界……そこは、問答無用で納得は出来る。


 でも……この話を聞くだけでも、きっと、ろくでもない神様だったんだって事はなんとなく解る。

 

 全知全能気取りで、好き勝手やって、観戦者気取って……。


 この勇者の武器だって、世界のためとか、人々を救う為とか、そんなんだったとはとても思えない。

 案外、ゲーム感覚で勇者同士をお互い相争わせたり……とかやってのかもしれない。

 

 そんな事をやっているうちに、何処かの誰かの逆鱗に触れた。


 ……神を狩るもの。

 そんな神様とか倒すなんて、どうすりゃいいんだかって話なんだけど。

 

 ……要するに、上には上がいるって事。

 願わくば、そんなのを相手にすることになったりしませんように……。

 

「な、なぁなぁ、君っ! もしかして、この世界にいる間、俺はずっとこんな姿なのかい? って言うか、これ思いっきりどっかの配管工じゃないか! 訴えられたりしないかな……」


 ……えっと、社長さん。

 確かに、社長さんみたいなおじさんにもなると、こんなファンタジー感いっぱいのコスチュームとか辛いか。

 

 でもまぁ、某配管工に似ちゃったのは、そのヒゲのせいだし。

 ちらっとお姉ちゃんに視線を送る。

 

 説明を要求する……。

 このソシャゲキャラのようなコスプレの事は聞いてないよ?

 

 ……姉とわたしは、長年の付き合いでその程度の意思疎通、アイコンタクトでこなせる。

 

「今の皆の姿は、通称「勇者モード」パワーアップ変身してる状態って言えばいいかな。初回はお試しで問答無用でちょっと長めに発動する。その姿になることで、勇者の武器の力が最大限開放されるし、勇者本来の姿になることで、戦闘スキルとか能力値補正が劇的に上がる上に、死ぬようなダメージを受けても変身が解けるだけで済むのよ」


 劇的に上がって、アレなのか……思わず、自分の弱さに絶望する。

 まぁ、覚悟はしてたけどね。


「なるほど、わたしはパワーアップしても、どってことないってことね。まぁ、緊急回避程度に思っとくよ。けど、その代り、色々制限あるんだっけ」


「そそ、勇者モードでいられるのは、最初はせいぜい15分位だし、一日三回しか使えない。レベルが上がると時間も回数も増えるんだけど、とにかく使い所が重要。変身解けちゃうと、ジョブ・クラスに応じた基礎スキルと自前の地の能力頼みになるし、素の状態で死ぬようなダメージ受けると、本当に死んじゃうから、調子に乗ったらダメ。とにかく、何があっても最後の一回分だけは、変身のストック残しておくってのが、基本だからね。変身回数が残ってる限りは、素の状態でも、勇者の武器の緊急回避措置が発動して、死ぬのだけは回避できるから……突発事故死とかしたくないでしょ?」

 

 ……さすが経験者。

 要するに、これは切り札的なものだと考えるべき。

 

 ボス戦とか……ピンチの時。

 緊急回避としても使えるって考えると、残機的なものとも言える。

 むしろ、シューティングゲームのボム的かも?

 

 ……使い所が重要ってのも解る。

 とりあえず、お姉ちゃんの言葉をそのまま社長さん達に伝える。

 

「な、なるほど。これは勇者モード……そう言うものなのか……。あれかな? 光の国からやってきた巨人みたいな感じかな?」


「……社長さん、例えが思いっきり昭和っ! でも、言いたいことは解りますけどね……。しかしまぁ、変身ヒーロー系とは……まぁ、ネトゲのエンドコンテンツなんかで、ありがちではありますな」


「そうだねぇ……。そうなると、日付変更タイム待ち作戦とかもありって事かなぁ」


 ああ、うん。

 そういや、あったなぁ……午前0時が日付変更線だからって、ボス部屋前で日付変わるまで、おしゃべりタイムで時間潰すとか。

 

 日付変わると、ログインボーナスとか、無償復活が全快するとか、そう言うのがあるからって、日付をまたぐタイミングでダンジョン攻略行くとかそんな感じ。

 

 ダンジョンアタックで、募集かけて微妙な人数しか集まらなかったりとかで、背伸び攻略する時とかによくやってたよ。


「実際それやったら、ボス部屋からさっさと挑んでこいやーってなって、問答無用で、ボス戦突入ってなるんじゃないかな……。さすがにそこまでゲームしてるとは、思えないよ……」


 実際のダンジョン戦とかよく解んないけど。

 

 ボスキャラとかの目の前で、そんな悠長なことやってたら、普通に襲いかかってくると思う。

 常識的に考えてそうなるだろうし……。


「そりゃそうか。ボス部屋の前なんかで、ゆっくりボス戦準備やってたら、襲いかかって来るに決まってるよねぇ! こっから先は出れません……みたいだったら、さすがに笑えるっしょ」


 ……そんな話をニートさん達としてると、お姉ちゃんがドヤ顔で割り込んでくる。

 自重しない幽霊……さすが姉だ。

 

「あ、はい、はーいっ! それ何気に常套手段だから。ダンジョンのボスって、大抵ボス部屋から自分で出れないって謎の制約かかってるから、ボス戦前では、ポーションとかでステータス万全にして、バフ魔法かけまくって、日付変わってから非戦闘員は部屋の外に待機させて、ボス戦突入ってやるの。割とその辺……ホント、ゲームちっくなのよね……」


 ……なんだか、頭抱えたくなった。

 でも、とりあえず重要な情報だと思うので、例によって姉の言葉そのまま伝達。

 

 と言うか、なんなのそれ? もしかして、こっちが勇者システムとか持ってるように、魔王軍側も魔王システムとかダンジョンシステム的なのを持ってるとか、そんなんなんだろうか?


 いや……なんか、それはそれでありえるなぁ……。

 お姉ちゃんは、そう言うバックグラウンドとか、細かいこと気にしない人だけど、わたしは気になる。


 そう言う世界の謎を解き明かすとかも、お約束だけどね。


「マ、マジ? ホントにそうなんだ。そうなると、ダンジョンボスとかって、目の前で準備したり時間稼いだりしてるのを、ぐぬぬってやりながら、見てるだけとか、そんなになるんだ……ちょーキレてそうだな。むしろ」


 メガネさんの眼鏡がずり落ちて来て、慌てて直してる。


「なにそれ、笑うとこ? でも、おチビちゃん、さっきと言ってること変わってるよね? もしかして、チュートリアル精霊とか、そんな感じのが憑いてて、色々教えてくれるとか? うわっ、チート居たよ。チート」


「まぁ、そんなところなのですよ……。でも、チートってもそこまでチートじゃないと思うのですよ? 確かに便利だとは思いますけどね」


 姉の存在は、多分伏せといた方がいいような気がする。

 ある意味、姉はわたしの切り札のようなものだし……なにぶん、他の人からはお姉ちゃんの存在ってのは、認識されない。


 認識できない存在がいることを証明しろと言われても、どうしょうもない。

 

 お姉ちゃんみたいに、皆の先頭に立って導くとか、わたしはそんな器じゃないって解ってる。

 である以上、あまり過大評価されたり、まとめ役とか期待されても困る。

 

 わたしは、あくまで弱者でいること……多分、それが生き残り戦略として、わたしが取るべき道だった。

 でも、姿なき助言者の存在を匂わせるくらいなら、多分問題ないだろうから、その辺にとどめておこう。


「……それもそっか。君が色々説明してくれるから、アタシらも途方に暮れずに済んでるし、ちゃんとアタシらに、こうやって色々な情報伝えてくれてる。そう言う事なら、アタシらにとっても、別に損な事じゃないしね。ごめんね、変なこと言って……」


「そうだな……チュートリアル役って事なら、それくらいありだろうさ。実際、色々情報提供してもらって、助かってるよ。もしかして、むしろヒロインポジって奴?」


 実際は、違うけど。

 そう言うふうに認識されてるなら、それはそれで構わないか。


 確かに気がついたら、わたしの話を聞くためなのか、皆、輪になってて、わたし……囲まれてるようになってる……。


 なるべく、威圧しないように、距離を保ってくれたり、前の人は姿勢を低くして、しゃがんでくれてたりと、少しは気を使われてるのは解るので、文句は言わないでおこう。


「俺は、どうも鍛冶師らしいんだが。これはどう言うクラスなんだい? いかんせんゲームと言っても、10年、20年前くらいの古いのしか知らなくてねぇ……。ゲーム部門の企画会議に顔出しても、全然ついていけないんだ。変身はいいけど、回数制限って何なんだい、それは?」


「古めのゲームでいうと……変身=残機って考えると、解りやすいのですよ。変身使い切ってやられると、ホントに死んじゃうから、変身は計画的にってことです」


「ああ、それなら解るよ。つまり、残機が無くなったら、ゲームオーバー……ちょっと洒落になってないね。けど、こんなトンカチ持った鍛冶屋なんて、どうなんだろう? どう見ても強そうじゃない気がするよ」


 社長さんのハンマーは柄が長くて、大きめの金属製の頭が付いてる感じ。

 スレッジハンマーってのに似てるけど、そこまでゴツくない。


「鍛冶師は当たりジョブだと思うよ? そこそこ戦えるし、回復も出来るし、鍛冶スキルで武器や防具なんかも作れる。戦闘、回復、生産なんでも出来る万能タイプってところかな」


「うーん、それって器用貧乏とも言わないかい? けど、そう言う事なら、俺は武器とか作って商売するのとかもありなのかな? こんなハンマー振り回して、戦ったりとか出来る気がしない。実はぎっくり腰持ちなんだよ。こんなのフルスイングとかやったら、確実に腰が逝くね」


 でっかいハンマーを軽く持ち上げながら、そんな事を言う。

 でも、ぎっくり腰……それは辛そう。

 

 なにせ、うちのお父さんもぎっくり腰持ち……あれって、やっちゃうと本気で固まっちゃうらしい。

 タンス動かそうとして、ぎっくり腰になって、抱えたままの姿勢で、硬直してそのまま救急車に乗せられていったのを見送った覚えがある……。


「わたしも生産職なのですよ。最前線ではとても戦えそうもない……回復薬とかパワーアップアイテムとか作れるけど、戦闘スキルはないねー。戦力的には間違いなく最弱クラスなんじゃないかな……なので、お守りよろしくなのですよ!」


 まぁ、戦闘スキルが皆無って時点で、ダンジョン探索なんかも護衛が必須。

 要介護のお荷物って奴……悲しい事に。

ぼちぼち、デイリー二回更新は止めて、通常デイリーペースにしますね。


意外と好評? いい手応え感じてます。


面白いとか、続き読みたいって思ったら、ぜひブクマを!

感想とか評価もお待ちしております。

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