第三話「勇者変身」①
そんな風に思っていると、ランタンがパァッと光り輝き、その光が身体を包み込んでいく。
まどかさんの前には、予想通りヒーラー系のメイスが取れと言わんばかりに浮かんでる。
社長さんのところには、ハンマーが……うわっ、それ当たりっ!
前言撤回……社長さんとは仲良くしよう!
無事に帰れたら、将来、関連会社にコネ就職とかさせてくれるかも知れないし、人をまとめることに関しては、絶対手慣れてるから、むしろリーダー候補ナンバーワン。
寄らば大樹の陰……この路線で行きましょう。
「な、なにこれ……触っていいの?」
ちらっと死体の山に目を向けるまどかさん。
自分も、ああなるんじゃないのかって、目で訴えてる。
「受け取っとくべきだと思うよ。素のままだと、この世界、長生きなんて出来ないみたいだから」
わたしがそう言うと、まどかさんも慌てたようにメイスを抱きかかえる。
そして、身体がぱぁっと光ったと思ったら、あっという間に十字架マークの入った青い袖の白いローブ姿になる。
「な、なにこれ! コスプレ?」
まどかさん……見た感じ20代後半くらい?
まるで、ゲームのヒーラーみたいなカッコは恥ずかしかったらしく、しゃがみ込んでる。
なんせ、やたら胸を強調するピッチリとしたノースリーブに、修道女みたいな帽子。
袖の部分は、分かれてて、ボタンでノースリーブ側と繋がってると言う謎な仕組みになってる。
そして、腰に深いスリット入った際どいタイトスカート……と言うより、腰布?
なにより、腰の所にはあるべきはずの下着が見えない……つまり、履いてない。
まどかさんも、腰のあたりを気にしてる様子から、多分その推測は間違ってない。
ハッキリ言って、とってもエッチなカッコ。
かく言うわたしも、さっきまで光の粒子に包まれてたんだけど、大きなつばのとんがり魔女帽子に緑色のケープコートみたいなのを羽織った姿になってる。
露出はあんまりない上に地味だけど、むしろセーフだと思う。
どっちかと言うと、タロットカードの隠者って感じのイメージ。
社長さんは、耳元まで覆うポワポワ付きの飛行機乗りが被るような帽子と、紺色のサロペット姿になってる。
口ひげとサロペットのせいで、なんだか既視感が凄い。
あれだ……世界的に有名な某イタリア系配管工兄弟だ、これ!
「社長さん、巨大化したり、めっちゃワンナップとかしそうですね。ふむ、僕は刀ですか……。コスチュームもサムライって感じで、割と好みですな……なんと言うか、眼帯つけて独眼竜とかやりたくなりますね。フフフッ……」
眼鏡の人は、日本刀風な片手剣で、和風な鎧姿……魔法も使える剣士……刀の勇者。
何故か、お腹丸出しスタイルで、むしろ、腐女子に大人気って感じ……熱い視線を送ってる如何にもな人もいる様子。
典型的なアキバ系ヲタク青年って風貌ながらも、少しは身体鍛えてたのか、腹筋も割れてて、ちょっと格好いい。
うん、やっぱ男子は筋肉だよね?
でも、めっちゃワンナップって? わたしなんかは、ゴーカート乗ってレースしてるイメージ強いんだけど。
本来は、そんななんだ……京都の花札屋さんのゲーム機が最近の携帯ゲームの主流なんだけど、お姉ちゃんが居なくなってからは、ゲームもあんまりやってないからなぁ。
「うひひ……兄さん、意外といい腹筋してますなぁ。思わず、撫で回したくなるくらい……女子的には、それ割とポイント高いっすよ? アタシは短剣……アサシンですにゃ? なんだ、魔法使いが良かったなぁ……。つか、なんか看護師さんもだけど、女性陣のコスって全般的に、なんかエロいね……。うひひ……アタシは好きだけど。チビちゃんはさすがに年齢制限引掛かっちゃったのかな? なんかすっごい地味くない? 魔法使い系ってのは、その魔女っ子帽子で何となく解るけど」
ニートさんは、なんだか際どい太ももムチムチな短パンスタイルと、胸を強調したしたデザインの革ジャケットのお色気女盗賊なスタイル。
ボサボサ頭には、何とも似合ってないけど、割とスタイルは良いみたいでそれなりに似合ってる。
もっと髪とかちゃんと手入れして、姿勢とかシャキッとすれば、可愛いのに……勿体無いなぁ。
わたしは……地味で結構。
でも、よく見るとケープコートの下は、ボディライン丸出しなキツキツタンクトップに、膝丈ぴっちりスパッツなんて、カッコだった。
これは……アカンです。
こんなスパッツ丸出しとか、ぶっちゃけパンツ一枚でいるのと大差ない。
パンツじゃないから恥ずかしくないとか、そんな問題じゃない。
……とりあえず、前はしっかり閉じとこう。
と言うか、これ……誰がデザインしたのか知らないけど、どんなソシャゲって感じ?
けど、ニート姉さんは……短剣の勇者か。
それなら、お姉ちゃんから聞いてるから、教えてあげちゃおう。
「あ、それ……アサシンっぽいけど、一応マジックユーザー系。近接戦もこなせるけど、むしろ魔法使い系かな。視界の端っこに光る点見えない? それを突つくとステータス画面が出るんだって、詳しくはそれで自分で見て」
「なんですとーっ! ホントだ……ジョブ・クラス暗殺者って……。暗黒魔術と幻術を操る姿なき暗殺者、姿を消して、正々堂々背後からバックスタブでブッ殺せ! って……これ、モロ好みじゃん! やったぁっ! 当たりだじぇーっ!」
さすが、ゲーマーさん……説明文読むだけで、大体理解してくれたみたい。
けど、この人……思いっきり厨ニ趣味っぽい。
たしかに、意味もなく眼帯とかしちゃったりしそうだし、実際、猫のひっかき傷っぽく見えるけど、リストカットの痕みたいなのが手首にある……。
全然死ぬ気ない、なんちゃってリストカットとかやって、痛くて涙目になったとかそんなクチっぽい。
わたしの言葉を聞いて、他の人もステータスを呼び出して、色々見ながら、近くの人とかとも情報交換したりしてるみたいだった。
案の定、何人かダブってるみたいで、同じジョブ・クラスの人が何人か居るみたいで、同じコスチューム同士で、なかーまとか、やってたりもする。
皆、意外と順応性高いな……。
そう言う人を召喚したって可能性もあるのかも。
錬金術師っぽい緑の服の人も他に二人ほどいる。
一人は、おじいちゃんで、もう一人は、眼鏡かけた地味そうな感じの女の人。
うん、この二人……お仲間だ。
女の人は、わたしと同じようにケープコートの下を覗き込んで、困ったような顔してる。
確かにそうなるよね……。
おじいちゃんの方は、普通にダボッとしたローブスタイル。
もうタロットカードの隠者まんま。
……あとで、声掛けてみよっと。
お姉ちゃんと同じ大剣は……体育会系っぽい高校生くらいの若い子が二人並んでる。
元々仲良しだったのか知らないけど、お互い肩組んで、大剣を見せあって、お揃いだぜーみたいな感じで、笑い合ってる。
お姉ちゃんの最終形態とか言うカッコはやたらゴテゴテしてたけど、二人は学ランみたいなのに、プロテクター付いたような姿で、あんまり防御力とか高くないっぽい。
すごく仲良さそうだから……現実世界から、一緒に転移してきたマブダチって感じ?
男同士の友情とか、悪くないよね……主君を守って殉じた赤毛の銀河の英雄さんとか、わたし大好きだったよ。
それはともかく、どうやら、見た感じ同じ武器が三人いるっぽい。
隅っこの方で、同じ武器を持った人達が挨拶し合ったりしてる……。
元々知り合いなのか、違う武器同士でも集まったりとかしてる。
女の子ばっかり三人集まって、皆どこか似てるような雰囲気で、姉妹か何かなんだろうか?
てんでバラバラで無作為に召喚って訳でもないらしい。
けど、大剣は……目立つはずなのに、二人しかいない?
うーん、これは例外? なんだか良く解んない。
となると、人数は多分47人? 赤穂浪士みたいだなぁ……。
……わたしも自分のステータス表示。
名前:ヤマガミ・シズル
ジョブ・クラス:錬金術師
状態:勇者モードレベル1発動中(持続時間:残り28分)
レベル:1
攻撃力:F+
防御力:E
耐久力:F+
敏捷力:D+
魔力:C+
精神力:B
HP:20+500
MP:278+1000
ジョブスキル:
錬金術1 鑑定1 調合1
基本スキル:
瞬間記憶☆
剣術1
魔力強化5
化学知識8
異世界の叡智5
魔術:
エンチャント+
ブースト+
クリエイテッド・イメージ+
装備:
武器:勇者のランタン Lv.1 ☆☆☆
防具:隠者のローブ Lv.1
その他:
姉の亡霊 Lv.MAX
アイテムバッグLL
まぁ、予想通りくっそ弱い上に、何がなんだかさっぱり。
この様子だと……戦闘用に使えそうなスキルは……。
剣術? 付け焼き刃だったけど、一応モノになってたって事か。
基本スキルってのは、多分自前のスキルなんだろう。
上限いくつか知らないけど、化学知識はかなり高い。
色々頑張った甲斐はあったみたい。
異世界の叡智ってのは、現実世界側の雑多な知識のことかな?
他にもありそうだけど、かなり大雑把って感じがしないでもない。
実際、やれることを全部スキルシートみたいにされたら、もう訳が解らなくなるのは間違いない。
……って言うか、ランタンは武器じゃないだろ……。
こんなので、ぶん殴ったりしたらむしろ、相手も自分も火だるま必至。
ちなみに、形としては、郵便ポストみたいな見慣れない形。
無節操に周りをまんべんなく照らすんじゃなくて、懐中電灯みたいにスポットで照らすようになってるみたい。
中で炎みたいなのが揺らめいてるけど、青白い炎で不気味な感じで、触っても熱くない。
明るさとかについては、周囲が明るいから何とも言えないけど、少なくとも武器に使えるように見えない……まぁ、そんなの始めから期待してない。
もっとも、剣術っても、構えとか握り方とか覚えた程度。
ひたすら素振りだけしてたようなもんだから、こんなのが当てになるわけがない。
身体も小さいから、非力なのは当たり前。
自分で肉弾戦とか、あんま考えないほうが良さそうだった。
むしろ、近接職とかならなかっただけ、運が良かったと思うべきかも知れないね。
実際、各種能力値は、他の人と比べても明らかに見劣りしてる。
攻撃や防御、耐久力とかは多分、最低クラスのEやFのオンパレード……すっごい弱い。
素早さや魔力も微妙。
精神力がまぁまぁ高いみたいだけど……。
これは、どうも防御系魔法や回復魔法、魔法防御力、それとMPの上限とかに関係するパラメーターなんだとか。
この辺はお姉ちゃん情報。
でも、素のHP20って……近接系の人なんかだと、素で200近くあるから、10倍近い差がある。
MPは……素としては、そこそこ高いほうかな?
なんか、補正付いてるけど+1000ってなにこれ?
勇者モード発動中ってなってるから、これは素じゃなくてパワーアップ中なんだろね。
他は……なんかてんで、ダメダメ。
戦闘職と比べるのが、間違いって解ってるんだけど、予備知識無しだったら、軽く絶望してたね……これ。
けど、装備のその他に目線が釘付けになる。
「姉の亡霊」って……お姉ちゃん、チートアイテム扱いっ!
アイテムバックLLってのは……もしかして、このリュックのこと?
「ふむふむ、錬金術師……予想通り、思いっきり戦闘向きじゃないね……。能力値がショボいのはレベル1って、こんなもんだからね。私も最初はこんなで絶望したものよ。でも、私って……アイテム扱いなんだ。シズル以外には認識も出来ないのに、勇者システムからはちゃんと認識されてるのね」
お姉ちゃんが横から、ステータスを見て、評価してくれる。
でも、至って冷静……アイテム扱いされて、思うところはないのだろうか?
シズルのステータスは、とりあえずやっつけで設定したんで、後々色々イジるかも?
実は、私はこの手のステータス設定に、意義を全く見出だせてないので、今後出てくるかとっても微妙です。
ちなみに、シズルのランタンのイメージ沸かないって人は「ブルースチールのランタン」ってググってみてください。
まぁ、シズルちゃんは保身なきゼロ距離射撃とかやらんのですが。(笑)




