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第二話「ゼロタイム」④

「シズルちゃん、一応これから何が起きるかくらい皆に、説明してあげたら? 不安で途方に暮れてる人もいるし、あんな風に当たり散らしたくてしょうがない人だっているんだからさ」


「そ、そうだね……。でも、わたし……チュートリアルキャラとか、そんなんじゃないよ?」


「いいから、いいから。この人達は共に戦う仲間なんだよ? 利用するとか、捨て駒にするとか、論外……私の失敗は、数人の使えそうな人達だけ選ぶんで後はほっとくとか、やった事。魔王だって、きっと一人でも倒せる……なんて思ってたのが、そもそもの間違いだったのよ。私と同じ失敗を繰り返さないで欲しい……」


 ……お姉ちゃんアドバイスは常に正しいのだ。

 それは、わたしの人生経験上、明らかだ。

 

 わたし、一人じゃ、どうしょうもない……それは言われるまでもなく解ってる。

 

 わたしはスタートラインで、ややフライングさせてもらってるようなもの。

 情報ケチる理由もないし、わたしは支援職だから、誰かを支える役に徹するしかない。

 

 ソロで生き残るなんて、絶対無理って解ってるから、ここは誰からも憎まれない、いい子を演じるべきだった。


 頑張れ! わたし……お姉ちゃんだってついてるんだから!

 

「あ、あの……わたし、人から聞いてたから、少しだけ解る……。知り合いが異世界行って戻ってきて……次は、わたしの番って事も知ってたから、色々準備してきた……大した準備は出来なかったけど」


「ふむ、なるほどね! そうなると、君はあれか……チュートリアル役って感じかな? ロリキャラとか定番きっちり抑えてる感じで、悪くない展開だね……うん、続けて、続けて」


 眼鏡の人が眼鏡をクイッと直しながら、ニヤリと笑って、こっちを見る。

 けど、その視線はまず胸見て、顔見て足を見て……なんかエロい視線。


 それに人をロリキャラ呼ばわり……んー、ちょっと違わないかなぁ?

 

 ……なんかもう、この時点で無ー理っ!

 

 と言うか、めっちゃ注目されてるし……怖い目で睨んでる人もいるし……。

「ちっちゃくて可愛い」とか「ロリ巨乳」だのそんな単語も聞こえてくる。


 チビで悪かったな……それに、年不相応のこの胸だって、むしろコンプレックスなんだよっ!


 こう言う注目のされ方って嫌だなぁ……でも、頑張るっ!

 

「う、うん……その……多分、これからこの国の王様が出て来ると思う。死んじゃった人達は、異世界召喚術ってのは命懸けでやるような魔術だから、その代償……だから、皆さんがああなったりはしないから、ひとまず安心していいと思う」


 死んじゃった人達は可哀想だけど……。

 そう言うのも覚悟の上で、わたし達に希望を託して死んでいったんだと思う。

 

 責任感じたり、同情するのも多分筋違い。

 もしかしたら、強制されて……とかなのかも知れないけど。

 

「そ、そうか……俺たちもああなるんじゃないかとか、もしかして、毒ガスなんかが撒かれてるんじゃないかって思ったけど。そうじゃないのか……なら、少しは安心できるな」


 そう言って、団体さんの中から、中年のオジサンが前に出てくる。

 

「ひとまず、いきなり殺されたりするような心配だけは無い……それだけは断言してもいい。おじさんは?」


 まぁ、普通に考えて人の命を犠牲にしてまで、召喚した勇者を殺したりとかはしないと思う。

 王国の人達にとって、わたし達は希望なのだから。


「ああ、俺は、IT企業タカダ・システムズの社長やってる、高田重造たかだじゅうぞうって言うんだが。聞いたことないかな? その、なんだ……ここは日本、それどころか地球のどこでもない、異世界って事なんだよね? でも、君の話からすると、元の世界に帰る事も出来るって思っていいのかな? 俺は出来れば、日本に帰りたい……独身だけど、会社のことだってあるからね」


 社長さんと言うだけあって、身なりはすごく良い。

 パリッとダブルのスーツを着て、白髪交じりの口ひげ生やしてて、なんと言うか渋い。

 50代くらいかな? お父さんと同じくらいかもしれない。

 

 おでこが広くて、髪の毛がちょっと寂しい感じだけど、そこをツッコむと多分、泣いちゃうから、言わない。

 お父さんにハゲは禁句なのですよ。

 

 表情も、酔っぱらい兄さんと違って、ニコニコ笑顔。

 

 タカダ・システムズって会社名は聞いたことはある……有名大手ショッピングサイトのCMだったかな。

 何となく、どこかで見たことあるような……この人、TVに出てたような気もする。

 

 でも、前回の勇者達はお姉ちゃん含めて全滅しちゃったから、誰も帰れなかったし、元の世界に戻れたってのは、今の所、皆無ってのがお姉ちゃん情報。

 

 お姉ちゃんは、幽霊になってド根性で戻ってきたけど……絶対、これ例外中の例外。

 お姉ちゃん本人も、死んだと思って気がついたら、わたしの側にいて、何がどうなって戻ってきたのか解らない……なんて言ってた。

 

 だけど、お姉ちゃんの話だと使命を果たした勇者は、元の世界に帰還出来るって話なんで、帰れる見込みはゼロじゃない。

 

 過去の例では……生き残って、結局この世界に留まるって選択をした人がほとんどで、元の世界に帰るって選択を選んだ人は一人も居なかった……そんな風に聞いてる。

 

 住めば都って言うし、生き残った人達は国を興したり、大賢者とか剣聖とか言われて、崇められたりしたそうなんで、居心地良くなって、帰るのどうでもよくなったとか、そんななのかも。

 

 ……気持ちは解らないでもない。

 わたしだって、こっちの世界で素敵な彼氏とか、旦那様とか出来ちゃったら、もう帰る気なくなると思う。


 それに異世界なら、死者を甦らせる魔法なんかもあるかもしれない。 

 もし、そう言うのがあるのなら……わたしのやることは決まっている。

 

「すぐには帰れないだろうけど。使命を果たせば……その……帰れる。そんな風に聞いてる」


 帰った人は誰もいないってのは、ひとまず伏せとく。

 言ったら、今度こそ暴動が起きる……それくらいの読みや腹芸くらいなら、わたしだって出来る。


「そ、そうか……確かに、君の話だと戻ってきた人もいるみたいだしね。それを聞いてちょっと安心したよ。けど、使命ってなんなんだい? 俺みたいな中年オヤジに出来る事なら良いんだけど……。俺も流行りの異世界ラノベのアニメスポンサーになった関係で、原作読んだことあるけど、あんな風に戦ったりとか戦争とか、とても無理だよ。なにぶん、ただのアラフィフおじさん……むしろ、商売とか、人使ったりとかが本分だからね」


 ……この人多分、後方支援系かな。

 

 よく見れば、ヨボヨボのおじいさんとかもいるし、エプロン姿でお玉持ったいかにも主婦って感じの人もいる。


 深夜ランニングでもしてたのか、短パン、半袖の人もいれば、冬山登山でもやってたのか、ピッケル持って、登山服みたいなのを着てる人もいる。

 

 こう言う体育会系な人は、近接職?


「ねぇねぇっ! それより、チート武器とかチート能力は? 好きなの選べるのかなっ! 楽しみーっ!」


 ニートさんは素で楽しそう。

 でもむしろ、こっちはドンドン冷めてくる。

 

 お姉ちゃんも、若干苛ついてるような感じで眉をひそめてる……そんなお気楽なもんじゃないって、一番解ってるからなんだろう。

 

 確かに、こっちに来るまでは、わたしだって、内心結構ワクワクしてた。

 そりゃ、異世界大冒険なんて聞いたら、そう思う……。

 

 わたしだって、異世界転移系ラノベは大好きだ。

 

 お姉ちゃんの異世界冒険譚を聞きながら、この日をむしろ楽しみにしてた。

 まだ見ぬ仲間、どこまでも広がる異世界の冒険……憧れって言いたくなる気持ちも解る。

 

 でも、いきなりのこの死体の山に、敵意の籠もった視線なんか浴びせられて……わたしのせいじゃないのに……。

 挙げ句に、馬鹿みたいにはしゃいでる危機感ない人たち……こう言うのを見てたら、なんだか急速に冷めてきた。

 

 今の所、好印象持てたのは、まどかさんと熊さんっぽいおっきい人くらい……。

 ニートさんや眼鏡さんは、悪意はない……でも、言っちゃ悪いけど、物凄くバカっぽい。

 

 社長さんは、良い人っぽいけど……さっきまで、怖い顔で睨んでた人達に混ざってたのは事実。


 大きな会社の社長なんてやってるくらいだから、普通に海千山千の出来物だと思うけど。

 なんか、どことなく横柄だし、腹黒そうって感じもする……。

 タカダ・システムズって、大手じゃあるんだけど、ブラック企業としても有名で、裁判沙汰とかなってなかったっけ?

 

 まぁ、とにかく……ここはチュートリアル役を期待されてるっぽいし、頑張ってみよう。

 

 王国の人達って、お姉ちゃんの時は召喚するだけして、支度金とか渡して、まずは自力で鍛えて強くなるんだなって、ほっぽり出されたそうなので、まともな説明とか支援とかなさそう……。


 まぁ、RPGとかゴミみたいな初期装備とはした金持たせて、行って来いとかお約束だしねー。

 

 と言うか、姉の話を聞く限り、この王国っていい印象ってのが全然持てない。

 むしろ、滅ぼしたいくらい。

 

 つまり、この異世界クエスト……頼れるのは、この人達だけ。

 皆から、信頼されるためには、ドンドン情報公開していくべきだろう。

 

「それなんだけど、まず一人一個、チート武器みたいなのがもらえる。でも、選択の余地はないよ。武器の方が選ぶ側だから……ほら、多分始まったよ」


 ……倒れたローブの人達が大事そうに抱えてた様々な武器が光りだして、一斉に宙に浮き上がる。

 これも聞いてた通り。

 

 ただし、数が半端じゃない……50個近くはある。

 

 同じような武器もいくつかある様子から、ダブってる?

 

 そして、その光があたりにいる人達の元へと飛んでいく。

 

 わたしの所にも光るランタンが飛んできて、両手に収まる。

 うん、案の定って感じ。

 

 いらっしゃい……別に驚かないし、受け入れるよ。

 これから、長い付き合いになるんだから、ひとつよろしく頼みます。


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