鳥籠の中の姫君。
「お鈴! どこに居るんだい!? お鈴!」
捲し立てるようなその呼び掛けに小心の私は部屋の隅で縮こまり、返事も返せずにびくびくと身体を強張らせて震えていた。
そんな私に向けられる視線はどれも氷のように冷たく、飢えた獣のように鋭かった。
「ああ、居た・・・。お鈴! 居るんならちゃんと返事をおしっ!」
「も、申し訳ございません。・・・お登子さん」
私は苛々を爆発させているやり手のその人・・・お登子さんに深く頭を下げた。
そんな私に浴びせられたのは耳を塞ぎたくなるような大きて冷たい溜め息だった。
「お鈴。アンタの今夜の仕事は紅姫の看病だ」
紅姫?
看病?
私はお登子さんの言ったその言葉の意味を理解することができなかった。
「お鈴! わかったのかい!? 返事は!?」
「は、はいっ!」
私はそう返事を返したもののわからないことに戸惑うことしかできなかった。
紅姫と言う名前はどこかで聞いたことがある。
けれど、どこで聞いたのかは覚えていないし、どういった経緯でその名前を耳にしたのかも覚えていない。
もしかすると私の勘違いで聞いたことがあると思っているだけなのかもしれない・・・。
しかし、看病とは?
もし、変な病気持ちだったなら・・・。
そんなことを思う私は臆病者だ。
そんな心配などしていたらこれから先、ここではやっていけない・・・。
ここに居る女は皆、私を含め男の汚らわしい欲を満たすための道具なのだから・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
階段を上がり、廊下を一番奥まで行ったお部屋が紅姫さんのお部屋だとお登子さんから教えられた。
私はお盆の上に水差しと湯飲みを載せてそのお部屋・・・紅姫さんのお部屋へと向かっていた。
階段を上がり終えた私は息を殺し、廊下を一番奥まで進んでお盆を廊下にそっと置き、一呼吸吸ってその息を吐き出した。
「・・・紅姫様。失礼致します。私、お鈴と申します。お登子さんに言われて参りました。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
『ええ。お入り』
閉ざされた襖の先から聞こえてきたその声は柔らかくも艶深かった。
私は小さな声で『失礼致します』と言って閉ざされている襖をそろりと開け、息を呑み込み、目を丸くした。




