鳥籠と言う名の都。
そろそろ動き出さなければいけない刻だ。
けれど、今日もなんとなく動き出す気になれない私だ。
そんな私はぼんやりと窓の外へと目を向けた。
窓の外では軒先に吊るされた赤提灯がぼんやりとした灯りを放ちながら弱い風に踊っていた。
ここは鳥籠の中だと人は言うけれど、私にとっては都だ。
「今夜もサボろうかな~・・・」
私はそんなことふと呟いて小さな溜め息を意味もなく漏らしていた。
別に借金があるわけでもない私は毎晩客と共に夜を明かさなくてもいい。
そんな私は気乗りがしなければずる休みをしてしまう。
もちろん、そのずる休みがバレると嫌味は言われてしまうけれどその度に私は同じ言葉を口にしている。
「紅姫。準備はしているかい?」
閉ざされた襖越しから聞こえてきたその聞き慣れた声に私は思わず眉を寄せていた。
「お登子さん・・・。ごめんなさい・・・。私、今日も体調が悪くて・・・」
そんな嘘をできるだけ弱々しく・・・そして、できるだけ申し訳なさそうに口にしてみる。
私のその言葉を聞いた襖越しのお登子さんは『まぁ!』と心配気な高い声を発した。
いつもと何ら変わらないその襖越しの反応に私はにんまりとしていた。
ごめんね・・・。
お登子さん・・・。
私はそう心の内で謝って言葉を続けた。
「悪いけど・・・今夜はお客さんを取れそうにないの・・・。ごめんなさい・・・お登子さん・・・」
私は小さな声でそう言ってできるだけ苦しそうに咳をしてみせた。
「まぁまぁ・・・風邪かい? 今夜はゆっくりお休み? 明日も無理そうなら休んでもいいんだからね?」
本当に心配気にそう言ってくれる襖越しのお登子さんに私は感謝しつつ、心の内をチクチクと痛めていた。
嘘はいけないことだと知っている。
けれど、気乗りしないままお客を取ると私は悪態をついてしまうことがある。
それは私がどうしても避けたいことの一つだった。
けれど、そんなことを言えば笑われるし、次には『気にせずに取れ』と言われる。
そう言われるのは本当に苦痛だった。
改めて『女は道具』だと言われているようで・・・。