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1,000文字小説

拳銃所持許可証

作者: 柴見流一郎

1,000文字小説第一弾。

『拳銃所持許可証』という、日本でも合法的に拳銃を所持していい制度が近年作られた。

だがまだなじみは浅く、所持者の気苦労は絶えない。

この物語では一人の男が何故拳銃を所持したか。気苦労と同時に手にした拳銃には、とある思いを込めていた。

 ゴトリ。

 そんな鈍い音が鳴り、レジの店員は視線を床へと映した。


「あ……」


 一瞬の沈黙の後、店員はすさまじい勢いと悲鳴を上げ両手を挙げた。


「ひ、ひい! こ、殺さないでください! お金なら渡します!」

「ああ、これは違うんだ、僕は決してそういうつもりじゃない!」


 そういうと床に落としてしまったもの……拳銃を拾い上げる。手に取っただけでまた店員は顔を真っ青にして後ずさった。


「待ってくれ! ええと僕は……」


 三十代にさしかかった男は手帳のようなものを差し出す。

 『拳銃所持許可証』。まだ日本にはなじみのないライセンスだった。


「と、こういうことなんだ。別に脅かそうって訳じゃないよ。ごめんね」


 そう言ってお金を払うと男は足早に近所の公園まで駆け足で走った。

 時刻は午前零時を回っている。小腹がすいたと出かけたが、深夜にこんなものを持っていれば誰だって命乞いをするだろう。男は許可証を手に取りながら深く息をつき、コーラを喉に流す。


「全く……持ってる僕がどうかしてるのかなあ」


 拳銃を手にってつぶやく。

 日本でこのライセンスはまだ認知度が低い。拳銃やそういったマニアはこぞって取りたがるのだが、試験は厳しい。


「そうさ、君が珍獣なんだよ」


 鉄の塊を吐き出す拳銃が、合成音の様な声を吐き出した。男は疲れた顔のまま、幻聴に返答した。


「僕が異常だって?」

「当たり前だろ? なら拳銃なんて持たない。承認欲求さ。冴えない自分が持つ唯一の武器なんだから」

「……そうかもな」

「認めなよ。本当は構ってほしいさみしがり屋なんだって」


 炭酸を喉において、男は苦笑した。


「僕がこのライセンスを習得した理由は一つだよ。僕が一つもつ限り、犯罪に使われる拳銃は一つ減る。それだけだ」


 馬鹿げた理由だった。幻聴も馬鹿らしくなったのか二度と声をあげることはなかった。

 拳銃で武装した強盗に家族を失ってから、ライセンスを取ろうと決意した。復讐ではない、抑止力として。だがそれはあまりに微力だった。相も変わらず犯罪は消えない。だからといって、いや。

 だからこそ。このライセンスを手に取った。悪党退治をするつもりではない。ただ所持することだけが、彼が持てる唯一の抵抗手段だった。


「そこの君。こんな時間に何してるの?」


 呼び止めたのはパトロール中の警察官だった。男は深夜に仕事を行う警察官に対し敬意を払う。彼も抑止力の一つだ。やはり拳銃で話がもつれてしまうが、また一つ許可証が役に立った。


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