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第2話 はじめての野宿

馬は3頭用意していたが、1頭置いていくことになった。


次期王様がまさかこんなに何もできないお人形さんだとは思わなかったからだ。


グラインダーが前に抱いてというか

しがみつくだけの腕力がないのでロープでグラインダーの体にくくりつけてある。


街の門を出て、緑の木々に囲まれた街道を走り出すとラチェットは感嘆の声をあげた。


ラチェット

「なんて早いんでしょう!

あ、あれはなんですか!?今、犬くらいの小さくて白い!

あ、今の!蝶ですか!もしかして

わ、わあ、今の!見ました!?


グラインダー

「ははは、まるで初めて外に出た子供みたいだな。ラチェット様は


ラチェット

「ええ!初めてなんです!


グラインダー

「なんだって----


グラインダーは苦しそうな顔をしてため息をついた後、ラチェットを支える左手に力を込めた。


ラチェット

「わ、風が気持ち良い!

グラインダーさん、私も1人で馬に乗れるようになりたいです。


風でラチェットの長い美しい髪がふわふわと泳いでいる。


グラインダーの方を振り向いたラチェットは

頰をピンク色に染めて目がキラキラと輝いてる。

そして、恐ろしく破壊力のある天使のような笑顔でグラインダーの心を粉砕した。


グラインダー

「ら、ラチェット様-----。

危ないから前を向いて。

(まずい、今のは参った。可愛すぎる!)


2時間ほど走ったところで日が暮れてきて、

ようやく二ブラが手綱を緩めた。


二ブラ

「ここいらで野宿しましょう。

本当は宿を取りたいところですが、

おそらく追っ手が来ているでしょうからね。

(それにラチェット様は目立ちすぎる)


ラチェットを馬から下ろすと案の定疲れでフラついた。


ラチェット

「外で眠るんですね!

私も何かお手伝いを。


二ブラ

「では、ここに座って、危ないものがないか見渡していてください。

決して1人で動かないでくださいよ。


ラチェット

「はい、わかりました。


ラチェットは嬉しそうに目を大きく開いて、辺りを睨みつけ始めた。


その姿があまりに可愛くて、二人とも疲れが癒された。


グラインダーは薪を拾ったり、二ブラは近くの小川で水を汲んで来たり、

素早く動いて、本の十分ほどだったが、

集合場所に戻るとラチェットの姿がない。


二人は慌てて探すと10メートル先の草むらで

ラチェットはコオロギを木の棒でつついていた。


二ブラ

「ラチェット様!動かないでと申し上げましたよ!


ラチェット

「あ!ごめんなさい!

変な危なそうな虫がいたので追い払っていたのです。


グラインダー

「もう、心配するじゃないですか!


ラチェット

「ご、ごめんなさい----ごめんなさい。


ラチェットは自分の体を抱きながら目を閉じてガタガタと震えだした。

様子がおかしい。二人の従者は視線を合わせた。


グラインダー

「おい、ラチェット様?どうした?


グラインダーがラチェットの肩に触れるとビクッと身体を震わせて飛び退った。


ラチェット

「もう、いたしませんから、どうかお許し---ください。

水の罰は嫌です。やめて---


ラチェットは涙を流してさらに震えている。


二ブラ

「ラチェット様、私達は罰など与えませんよ。

ただ心配していただけです。


グラインダー

「そうだぜ、水の罰って一体なんだ?


ラチェット

「わ---私達娼婦は、身体は商売道具ですので

罰を与える時傷がつかないように、

顔を何度も何度も水につけられます。

最後は意識を失ってしまいます。

とても苦しくて---苦しくて---ヒック


グラインダーはクソっと言って、木を殴りつけた。

またラチェットがビクッと身体を震わせる。


二ブラ

「おい、グラインダーやめろ。静かにしろ。


グラインダー

「す、すまん。


二ブラはゆっくりとラチェットの前に座り、優しく静かな声で話しかけた。


二ブラ

「ラチェット様、私達は何があっても決してあなたを傷つけるようなことはしません。

誰かに傷つけさせません。私達があなたをお守りいたします。

罰を受けるとしたら、あなた様を一人にした我々です。


氷の宰相と異名をとる男が母親のように優しく微笑んでラチェットの小さな手をとった。

グラインダーは珍しいものでも見たかのように驚いている。


二ブラ

「あなた様が大事なんです。だから、私達を心配させないでくださいね。

わかりましたか?


ラチェット

「はい----。


ラチェットはそう言うと二ブラの胸にしがみついた。

どうやらラチェットは体を触れ合わせてコミュニケーション取るタイプらしい。

二ブラは優しく頭を撫でてやった。

ふとグラインダーを見るとニヤケている。

二ブラは睨みつけた。


携帯していた乾パンと干し肉を火であぶったものや、

ドライフルーツの夕食をとった後、

毛布の上にラチェットを寝かせ、マントを体にかけてやった。


二ブラ

「お疲れでしょう。ゆっくりお休みください。

王都まではまだ何日かかかりますから。


ラチェットは顔を赤くしてそわそわしている。


ラチェット

「あ、あの。

私はどちらのお世話をしたらよろしいでしょうか?

それとも---お二人一緒がよろしいですか?


二人の従者は凍りついた。


二ブラ

「ふう---、ラチェット様のお仕事は今はお体をゆっくり休ませることでございます。

余計な事を考えず、お休みください。


ラチェット

「わ、わかりました。


ラチェットはマントにくるまって目を閉じた。

二人の従者はホッとした。

と思ったらまた目を開けて不安そうにグラインダーと二ブラを見た。


ラチェット

「あの、私、外で眠るのって初めてで、その、えっと-----。


グラインダーはどかっとラチェットの横に寝転がった。


グラインダー

「これで大丈夫だろ?


ラチェット

「-----------。」



少しの沈黙の後、二ブラもラチェットの隣に横になった。

ラチェットは嬉しそうに微笑んだ。

そして二人の手を握り満点の空を見上げた。


ラチェット

「なんて綺麗なんでしょう。世界はこんなに素晴らしかったんですね!


二ブラ

「ふふ、では星座の物語を私がお話ししましょう。

さて、どの星座がいいかな、ああ、白鳥座が見えてる。

あれにしましょう。


ラチェット

「はい!二ブラさん。


ラチェットは嬉しそうに二人の手を両頬に押し当てた。

ドツボにハマりそうだと二人は目配せして微笑んだ。



つづく









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