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「それは喧嘩の時の勢いですから仕方ないとして―――メアリーさんは婚約者のそんな思いも空しく死んじゃいましたけど。ちなみに死因は刃物による失血死ですね。遺体には数回刺された跡があり、首元に集中しています。悲鳴を上げなかったことから最初の一撃が彼女の命を奪ったのではないかと」
「魔法を使用して黙らせた可能性は?」
「それはあり得ません。魔法を使用すると必ず痕跡が残りますが、今回はそれがありません」
「警察は窃盗の線は考えていないのだね?」
「それも考えましたけど、彼女のバックは刃物でズタボロにされていただけで、何も盗まれていないのです。中身は化粧品しか入ってませんでした」
「通り魔か怨恨か。困ったねぇ」
「吸血鬼の可能性もありますよ」
「吸血鬼?」
ええ、とコレットは頷く。
「人工血液が普及しているとはいえ、人間の血液を摂取したがる吸血鬼は多いので」
(人工血液って……血液の成分を真似た液体だったっけ)
祐介は大学の講義で習った事を思い出した。
人工血液は主に錬金術や魔術で作成される、吸血鬼の代用食となっているものだった。吸血鬼は人間を狩る労力を減らせ、人間は吸血鬼に襲われる心配がなく生活出来るということで、共存条約が結ばれてから、使用されているはずなのだが。
「しかし、合意でない吸血は大罪の筈だろう?わざわざ人間を襲ってまで吸血行為をする必要があるのかい?」
「吸血鬼に限らず、大抵の種族は伝統を重んじる。条約が締結されてから300年経過しているとはいえ長命な種族にとっては最近の出来事らしいからな」
ウィルヘルムが溜め息を吐きながら言う。
「最近このような事件が多いんだ」
ウィルヘルムの言葉にアルバートが頷いた。
「吸血鬼の線も視野に考えておくとしよう」
とはいえ、とアルバートは続ける。
「まだ色々な可能性が残されているな。まずは、彼女の婚約者に話を聞くことにしようじゃないか」
アルバートは、もう興味は無いとばかりに、遺体から目を反らしていた。