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半年前。獣人界では立て続けに事件が起こった。
まず第一に、獣人が所有していた船が難破したのだ。乗船していた殆どの獣人や人間が死んだ。祐介の国から帝国へ帰る途中の出来事だった。
実は祐介はその時の生き残りで、一時的に警察に世話になっており、ウィルヘルムと出会うに至ったのだった。
また、第二の事件は獣人王の崩御だ。崩御した王を追うように、多数の獣人が自害した。
その中にはウィルヘルムと親しかった者もいたようだ。
今現在、新たな獣人王が立ち、表面上は落ち着きを取り戻しつつあるが、獣人たちの中には心の整理がついていないものもいるのだろう。
祐介にとっても心の整理が難しく、思い出すのも恐ろしい出来事だった。きっと他人に冷静に話せるようになるのはもう少し後になるだろう。
「それにお前は僕に借りがあるではないか」
「は?」
アルバートが欝々とした空気を換えるように言った言葉に、ウィルヘルムが顔を上げる。
「家事が一切できないお前の為に家事が一通り出来て、且つその給料を支払わなくて済むようなルームメイトを斡旋したのは僕だ」
「ユウスケのことだろうが」
「残念だね。彼への援助もお前の身辺の世話代として行っているというのに。そうなってくると彼への援助も考えなくてはねぇ」
〔ひ、卑怯者!〕
祐介は焦った。非常にまずいことになった。
半年前の事件のせいで、殆ど着の身着のままこの国に来た祐介には金が無く、ウィルヘルムの世話をする代わりに援助をしてもらっているのだ。
援助を打ち切られたら祐介は大学で勉強できなくなってしまう。
〔ウィルさんお願い!助けて!〕
ウィルヘルムを見ると、苦悶の表情で目を閉じている。
「………少しだけだぞ」
「流石僕の愛しの弟だ!話が分かる!」
「脅されただけだがな」
「勿論祐介も手伝ってくれるだろう?」
アルバートは清々しい程の笑顔で言ってのける。
「……僕も少しだけですよ」
今夜は早く帰ることが出来そうにないな、と溜息を吐いた。
「コレット。事件の説明を」
「はい。先輩」
ウィルヘルムの傍に控えていたコレットが、書類に目を向ける。
「被害者はメアリー・ジョン、20歳。ジョン公爵家のご令嬢です。事件の現場はここ、ウィンスタ―ストリートで、被害者の自宅と目と鼻の先です。深夜、パーティーから1人で帰宅途中、何者かに襲われたと思われます」
「妙だな。メアリー女史の婚約者は一緒じゃなかったのか」
「帰宅途中で喧嘩して、メアリーさんが馬車を降りてしまったらしいのです」
「不用心だね」
「満月の夜で明るかったので、大丈夫だと思った、と婚約者は言ってますけど」
「レディーを1人で家に帰すなど紳士のすることではないな」