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「つれないなぁ。最愛のお兄様が来たというのに」

「仕事中だ。相手してほしいなら後にしろ」

「ふむ」

 そのままアルバートは何やら考え込むように空に目線を漂わせた。

 ウィルヘルムの視線が祐介に向けられる。

 眉間に皺を寄せている。ただでさえ怖い顔が更に怖くなっているな、と祐介は思った。

「ユウスケも早く帰れ。全く、お前等が一緒にいるとなんだか不吉だ」

「人を死神みたいに言わないでください!」

 あまりにも酷い言われようだ。ウィルヘルムに不吉の対象だと思われていたなんて落ち込む。

「ふん。あまり変わらないだろ―――おい!何をしている!」

「ふむ、刃物で滅多刺しとは。無粋な犯人だな」

 気が付くとアルバートが遺体をのぞき込んでいた。

 祐介も意識的に見ない事にしていたが、アルバートの突拍子もない行動に驚いて、見たくもない遺体の様子を観察してしまう。

 女の遺体だった。

 パーティーの帰りだったのだろう。豪華な夜会用と思われる豪華なドレスが血で赤々と染まっている。

 うつ伏せになっていてよく分からないが、驚愕の表情で固まっている顔と虚ろな瞳が彼女が死んでいることを物語っていた。

「兄さん!頼むから捜査の邪魔をしないでくれ!」

「メアリー・ジョン女史」

「は?」

「この淑女の名前だよ。可哀想に。彼女は結婚が決まっていたのに」

 アルバートが目を伏せる。どうやら遺体の女性を知っているようだった。

「僕は彼女とはパーティーで顔を合わせているからね。あまり親しかったわけではないが」

「そうなのか」

「彼女は流行り物が好きでね。このドレスも最近淑女の間で流行っていたものだ」

「………」

 なんで彼が女性の流行に詳しいのだろうか、とは祐介は思ったが怖くて聞けなかった。

「婚約者の悲しみも相当だろう。後で見舞ってやらねば」

「お、おい」

「ウィルの仕事も減ることだろうし、一石二鳥だろう。我ながら良い案だ」

「ちょ、ちょっとアルバートさん!」

 祐介は慌ててアルバートの腕をつかんだ。悪い予感しかしない。

 アルバートはそんな祐介には目もくれず、にやにやと笑みを浮かべている。


「この事件。僕がなんとかしてあげようじゃないか!」


「馬鹿野郎!おとなしく帰れ!」

「そうですよ!早く帰りしょう!」 

 ウィルヘルムと祐介が2人で声を荒げると、アルバートは不思議そうな表情をする。

「名案だと思うが」

 どうやらアルバートは自身の発言の威力に気づいていないようだった。

「俺の仕事に関わるな。それに自分の仕事はどうするんだ。忙しいんだろ」

 祐介は思い出した。

 獣人界の貴族として、獣人王に仕える付き人なのだ。

 通常であれば、獣人王の傍を片時も離れないはずだ。

「休暇をいただいたのだよ。半年前の件も一段落したのでね」

「………」

そうアルバートが言うと、ウィルヘルムは黙り込んでしまう。

 獣人界を騒がせたその事件は、ウィルヘルムにとっても辛い記憶なのだろう。

 その事件には少なくとも祐介も関わってくるので、その事件で沢山の獣人が傷ついたのを知っている。

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