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「わざわざ血の繋がった家族を捨ててまで吸血鬼になったのですか?」
世間の評判として、吸血鬼の生活は劣悪そのものだ。好んでそうなりたいと思う者はいないだろう。
加えて、今まで一緒に生活していた家族を捨てるのだから猶更だ。
そうせざるを得ない事情がこの兄妹にあったのならば、悲惨だと祐介は思う。
「それは、君に言う必要は無い」
「……すいません」
アルバートへの態度よりもやや柔らかめだが、はっきりと祐介は拒絶されてしまった。
ヴァンは俯き、じっとカップの中の紅茶を見ている。
「血の繋がった家族は、そんなに大事か?」
「え?まあ、大事だと思います……けど」
「何故だ」
「……そういえば考えたことないですね」
祐介にとって家族とはなんだろうか、と考えてみるが上手い言葉が見つからない。
家族にはそれなりに良い生活をさせてもらっていたと思う。自国の大学にも行かせてもらっていた。
ただ、家族とはどうして大事かと問われると、どう答えて良いが分からない。
「呪いだ」
「え?」
「血の繋がりも、吸血鬼というのも、全部呪いだよ」
「もう十分だろう」
「ああ、ありがとう。彼の勉強に付き合ってくれて」
「ありがとうございました」
アルバートが満足そうに頷いた。
「それで、本題はそれだけか?」
「ん?」
アルバートが恍けるが、ヴァンには効いていないようだった。
「貴様がこんな茶番で、ここに来るわけがない」
「ああ、気づいてたんだね」
アルバートは微笑んでいて、この状況を楽しんでいるように見える。
「君、一昨日の晩は一体何をしていた?」
「殺人事件のことか」
ヴァンがアルバートを睨みつける。
どうやら、ヴァンも殺人事件があったことは知っているらしい。
「吸血鬼の仕業なのではと騒いでいる輩がいる」
「勝手に騒がせておけ」
「そういうわけにもいかないよ」
アルバートは愉快そうな表情は崩さず、ヴァンと対峙している。
ヴァンは不快そうに顔を歪めた。
「我々に関わるな」
「どうして君はいつもそうやって口を閉ざすんだい」
「貴様には関係ないだろう」
「関係あるさ」
「………」
「種族間は平等であるべき、だよ」
「また古い一節を」
条約に記載されていた言葉だと祐介は思い出した。
東洋で西洋文化を学ぶ際に、真っ先に勉強する項目の一つだった。
ヴァンは溜息を吐いた。降参だというばかりに首を横に振る。
「一昨日の晩は、一人で散歩に出ていた」
「見事にアリバイ無いね」
「ふん」
「他の吸血鬼の動向とか知らないのかい?」
「私が知っているわけ無いだろう」
「うーん、困ったなぁ」
アルバートは口ではそう言っているが、表情は楽しんでいるように見える。
「まあ、いいや。もう用はない。帰るよ」
「さっさと帰れ」
「本当につれないなぁ」
アルバートと祐介は、ヴァンの小屋から出ることにした。
泣き出しそうな空が、一層辺りを暗くしていた。