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3

 ―――吸血鬼。

 闇の一族と呼ばれている彼等は、かつて人間を襲い、その生き血を吸う事によって生きながらえていた一族だ。

 人間を糧に生きている彼等は人間から忌み嫌われ、一時期は吸血鬼狩りが盛んに行われていた。

 300年前の条約締結の際には絶滅寸前まで追い込まれ、半ば降伏をする形であったといわれている。

 現在でも吸血鬼への差別は続いており、吸血鬼に対する世間の見方も厳しい。

 一度吸血鬼だと判明すると、社交界への出入り禁止、仕事の解雇等あらゆる場面で冷遇される。

 実際、吸血鬼の現王は異種族の王が集まる定例会議に呼ばれることが無いとされていた。

 吸血鬼一族はそのような不当な扱いに異議を申し立てているが、今の所改善の見込みは立っていない。

 

 祐介は、そう文献で読んだことがあったが、まじまじと見るのは初めてだった。

〔人間とそんなに見た目は変わらないのだな〕

 吸血鬼だというヴァンの姿は、肌が異常な程青白いことと赤い瞳をしていること以外は人間と変わらないように思える。

「お紅茶をどうぞ」

「ありがとうカーミラ。今日も綺麗だね」

「あら、アルバート様。勿体ないお言葉ですわ」

 そう言って微笑んだ修道女は、ヴァンの妹のカーミラだ。

 祐介達は墓場の近くに建てられていた小さな小屋の中に通されていた。

 そこにはベッドと小さな暖炉、イスとテーブルだけの簡素な内装をしており、ヴァンが一人で住んでいるのだ、とカーミラは言った。

 カーミラ自身は同じ敷地内の修道院で生活しているとのことで、紅茶を配り終わると足早に小屋から出て行った。

「一体何の用だ」

 ヴァンが紅茶に口をつけ、不機嫌そうに言った。

「大した用事じゃないよ。彼に吸血鬼について教えてあげてくれないか」

「え?僕ですか?」

「興味あるのだろう?」

 祐介が慌ててアルバートを見ると、優雅に紅茶を飲むアルバートの姿があった。

 確かに祐介の興味を引く内容であった。異国の異種族の話などこの国にいなければ聞くことが出来ないだろう。

 加えて今回の殺人事件でも、吸血鬼の話題が出ていた。祐介は知っておいて損は無いと感じた。

「我々のことか?」

 ヴァンの眉尻が下がる。どうやら困惑しているようだった。

「ためになる話等何もない」

「そんなことはない」

 尻込みをしているヴァンに、アルバートは笑う。

「彼が君達に興味を持っているのだよ。知ってもらういい機会じゃないか」

「………ふん」

 ふい、とヴァンは顔を反らしてしまった。

〔さすがに、良い印象を持っていないかもしれない〕

 世間の厳しい目にさらされてきた吸血鬼の警戒心は殊の外強いのかもしれない。

 祐介が同じ立場ならば、何も聞かずに追い返してしまっているだろう。

 住居に入れてもらえただけでも奇跡だったのだ。

 ヴァンは悩んでいるようだった。じっと自身の指先を見ている。

「どこから話せばいいのか分からぬ」

 無理やり絞り出したかのような声でヴァンは言った。

「ありのままを話せばいいじゃないか」

 アルバートが上機嫌そうに言った。明らかに状況を楽しんでいる。

 アルバートは祐介の想像以上に悪趣味なのかもしれない。

「私の分かることで良いだろうか」

「は、はい。お願いします」

 どういう心境の変化か、ヴァンは話してくれる気になったようだ。

 祐介は姿勢を正すと、ヴァンの話に耳を傾けた。


「我々吸血鬼は元々人間として生きていたのだ。儀式を行い、王に忠誠を誓う事で初めて一人前の吸血鬼として認められる」

「儀式ですか?」

 ヴァンはゆっくりと頷いた。

「ああ。儀式により身体を吸血鬼に変化させるのだ。世間で吸血鬼に襲われ、血を吸われたら吸血鬼になるという話は迷信だ」

「そうなんですか」

「我々は300年前の条約締結で"合意でない吸血行為"を禁止されている。それまでは人間を襲っていたが、誰一人吸血鬼になった人間はいない」

「吸血鬼も大変だねぇ」

 アルバートが茶化すように言うと、ヴァンがアルバートを凄い形相でにらみつける。

「―――儀式によって吸血鬼になった者は、人間であった時の家族を捨てなければならぬ。だから我々吸血鬼は苗字を名乗らない」

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