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2

 どれだけ歩いただろうか。

 中心街に程近い時計塔が遠くに見えることから、街外れに来てしまったことは間違いないだろう。祐介の生活圏内から外れてしまっている。

 先ほどまでは馬車の行きかう大通りだったのに対して、随分と細い道になり薄暗い空気が漂っている。

 通りを歩く人々の服装も簡素な作りで薄汚れており、生活の貧しさがにじみ出ていた。

〔ここは………貧民街?〕

 祐介が見渡してみると、寒空の下やせ細った老人が道端で座り込んでいたり、子供が裸足で掛けていく。

 行きかう人々は終始下を向き、どんよりとした空気が辺りを包んでいた。

 しかしアルバートはこの風景を何とも思っていないのか、表情一つ変えることなく歩いている。

〔どこまで行く気なのだろう〕

 祐介は流されるまま黙ってアルバートについてきてしまった事を悔やんだ。

 ここが貧民街だとすると、色んな犯罪に遭遇する可能性は否定できないからだ。

 祐介はともかく、アルバートは一目見れば貴族と分かる格好をしているのだ。明らかにこの場所では異質だった。

〔この国は一体どうなっているのだろう〕

 祐介が教わった話だと西洋では人々が平和を享受し、何一つ不自由なく生活している理想郷だった。

 しかし、現実はどうだ。

 アルバート等の貴族階級のように大きな屋敷に住み、使用人を何人も雇っている者もいれば、この地域の人間達のようにその日を生きるのもやっとという者もいる。

 あまりに不公平すぎる、と祐介は感じてしまった。

 しかし、それをアルバートの恩恵を受けている祐介が言えた義理では無いのは分かっている。祐介が勝手に期待して、勝手に失望しているだけなのだ。

 その事実に気がついたとき、自分の身勝手に気がついた祐介は溜め息を吐いた。


「ちょっと寄り道してもいいかな」

 アルバートが不意に歩みを止めた。

「教会…ですか?」

「そうだよ」

 目の前には大きな教会が建っていた。

 ただ、手入れを怠っているのか随分と古めかしく、信仰の場所というよりも恐怖小説に出てきそうな雰囲気だ。

 アルバートは門を潜ると、教会の中には行かずに裏手へと回る。

 そこには広大な敷地の広場があり、無数の石で作られた十字架が地面から突き出ている。

 墓地だ、と祐介は理解した。

 その墓地に、黒いフードを被りシャベルを持った男がたたずんでいた。

「やあ、ヴァン。良い天気だね」

 祐介は思わず空を見上げてみるが、お世辞にも良い天気とは言えない。

 空は雲で覆われていて、もうすぐ雨が降りそうな気配すらあった。


「それは私に対する嫌味と解釈してよろしいか?」

 ヴァンと呼ばれた男が振り向き、フードを外した。

 軽くウェーブのかかった肩まで黒髪に、三白眼気味の赤い瞳。

 背丈はアルバートと同じくらいだが、まとっている雰囲気が冷たい印象を与えていた。 

 フードの下の服装は、いかにも神父といった風体で胸の辺りに十字架が光っている。

「嫌味じゃないよ。本心で言ったつもりだ」

 アルバートはそう言って微笑んでいるが、ヴァンは益々顔を顰めるだけだった。

「君の数少ない友達じゃないか」

「貴様を友人と認識した事は一度もない」

 アルバートが何か言う度にヴァンの眉間の皺が濃くなっていく。

 どうやたアルバートはヴァンに非常に嫌われているようだった。

〔どこ行っても煙たがられているな〕

 付き合いの浅い祐介から見てもアルバートは自身の衝動に忠実に生きているように感じていた。

 それは相手の都合を殆ど考えない行動にも繋がっていおり、祐介を始め多くの者が被害にあっているのだろう。

 祐介は同情を含んだ目でヴァンを見た。

 青白い顔をしたヴァンと目が合ったが、瞬時に目を反らされてしまう。

〔もしかして……アルバートさんと同類に見られている!?〕

 祐介は焦った。それは非常に困る。

 ただでさえ慎ましく勉強を糧に生きているというのに、悪評を広げられたら堪ったものではない。

「あ、あの里見祐介と申します。初めまして」

 とりあえずこの場を無難に過ごさなくては、と祐介は自己紹介をすることにした。

「ほら、”初めまして”だってさ」

「ふん」

 アルバートが微笑みながらヴァンに向かって言う。

 ヴァンが祐介のことをちらりと見た。


「私はヴァン。この教会で墓守をしている吸血鬼だ」

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