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創世の書【2】
目を覚ましたそのものは、見知らぬ『なにか』に驚いた。
『なにか』は他の生物たちとともに、自由に地をかけ、空を飛び、海を泳ぎ、風とともに唄い続けていた。
そのものは、考えてもみなかった『なにか』の存在におおいに悩んだ。
生かしてもよいものか。
消し去るべき存在か。
だが、そのものは『なにか』のやさしさに気づいた。
外面では分からぬ『なにか』のうつくしさに気づいた。
他の生物にはない『なにか』のあたたかさに気づいた。
そして、そのものと変わらぬ『なにか』の孤独にも、気づいた。
そのものは『なにか』の存在を認め、祝福し、愛した。
他の生物と同様に可愛がり、方舟には等しく『なにか』をのせた。
『なにか』はそのものに愛されながら、他の生物とともに生きていた。
動物とともに、植物とともに、――人間とともに。