創世の書【1】
遥か昔、そのものにより世界は創られた。
そのものは闇と光を創り、空を七色に染め、夜には星を光らせた。
地には緑を塗り、あらゆるところに生物を放った。
祝福されし生物たちが自由に地をかけ、空を飛び、海を泳ぎ、風とともに唄い続ける。
世界の様子に満足したそのものは、疲れた身体を癒すためにそっと目を閉じた。
そのとき。
ぽつりぽつりと、『なにか』が世界にあらわれた。
『なにか』は複数存在しており、他の生物とは異なる特徴を持っていた。
ひとつは、生物にとって必要なものが欠けていた。
ひとつは、世界に存在するすべての色をその身体に纏っていた。
ひとつは、見るたびにその姿を変えた。
ひとつは、他の生物と混ざりあっていた。
世界を創造したそのものは『なにか』の存在に気づかず、溜息をひとつ、世界に落とした。
その溜息により、『なにか』に命が吹き込まれた。
その日。
誰からも祝福されなかった『なにか』は、互いの誕生を喜んだ。
祝福されなくとも、認められなくとも、ここで確かに生きている。
――生きている。
笑う理由も泣く理由も。それで、充分だった。