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4 光の洪水

メリークリスマス!

本日はもう1話だけおまけです。

◇◇◇


 クロードの誕生日当日の夜。フリクセル一家は正装をして登城していた。

 落ち着いたグリーンのドレスに漆黒の髪を結い上げた美雨を、アルフレドがさんざん褒め倒したのは……言うまでもないだろう。

 アルフレドは儀式に使用する騎士の正装、隼人は子ども用の蝶ネクタイにスーツ。美緒は薄いピンク色のワンピースで、頭の上には庭師に貰ったオレンジ色の花が付いている。


 国賓、主賓が立ち並ぶ中、クロードの挨拶と大輝の話へと順調に進み……立食の簡単な食事を一時中断し、一同は庭へと案内された。雪が薄らと積もるそこは、城下の光が一望できる絶景スポットなのだが……なぜか今日は灯りが少ない。

 今日は、三つの月が全て半月以下の夜。暗闇の中、そこに植えられた巨大な木は不気味に風に揺られていた。


「ハヤト、ミオ。おいで」


 巨大な木の前に立つのは、赤い温かなマントに身を包んだ王と、儀礼用の大魔法使いの服に身を包んだ大輝。大魔法使いが子どもたちに手招きをする。


 手招きをされた子どもたちは不安そうに母を見上げ、母は力強く頷き返した。

 先ほどの正装とは違い、子どもたちはしっかりと防寒された服に着替えている。


「行くぞ」


 父がそう言い、右手で息子の手を繋ぐ。息子は妹の手をしっかりと握り、母は娘の手をぎゅっと握った。


 好奇の視線が突き刺さる中、四人はしっかり背筋を伸ばし、大きな木の前に立つ大魔法使いの前へと歩いて行った。


 大魔法使いが頷き、アルフレドも頷き返した。


「ロゼリオ、来い!」


 アルフレドのよく響く声に、『ぴいぃぃぃぃぃ!』と高く鋭い鳥の声が応えた。

 真っ暗な空から翼を上下させる大きな音が聞こえ……現れたのは、頭が白鷲。翼と胴体は黒い羽毛に覆われ、筋肉質な下肢は暖かな白い毛皮に守られた力強い白獅子の下半身を持つ生き物だ。


 ネスレディア王国第二騎士団団長の騎獣、現在では1頭しか確認されていないグリフォスという大変希少な魔獣の姿に集まった人々はざわめく。


 ロゼリオはゆっくりと優雅に舞い降りてきて……ズシンと重量感のある音を立てて着地した。もちろん、芝生はいつも通り抉れている。


「ハヤト、ミオを頼んだぞ」

「はい、お父さん。ミオ、行こう」

 

 最初の打ち合わせ通り。あらかじめ取り付けてあった鞍の上へと隼人がよじ登る。

 好き嫌いの激しいはずの魔獣がおとなしくしているどころか、子どもたちが乗りやすいようにと身を屈めているのを見て、居並ぶ人々は再びざわつく。


「隼人、これを。……気を付けてね」

「うん。ロゼが僕たちを落とすわけないよ」

「ロゼは落とさないけど、二人が勝手に落ちるかもしれないじゃない」


 カゴを渡したまま、心配そうにしている母に息子は笑った。先に前方へと座ったミオもにこにこと笑顔を浮かべている。


『大丈夫。ぜったいに、落とさない。安心しろ』


 ロゼリオにまで言われては、美雨だっていつまでも心配しているわけにはいかない。アルフレドがそっと美雨の肩を抱き寄せ、ロゼリオから二人は離れた。


「行ってくるね!」

「いってきまーす!」


 子どもたちの高い声は、ロゼリオの翼を上下させる音に負けずに響いた。

 ロゼリオは逞しい後ろ足で地面を蹴り上げ、その重さを感じさせない動きで浮いた。いつもよりも上昇速度が速いのは、子ども2人しか乗っていないからだろう。


 バサバサと翼の音が遠ざかり……暗闇へとロゼリオの姿は消えた。

 

 後に残された人々は、何が起こるかは知らされていないので、固唾を吞んで見守る。


◇◇◇


「ミオ、これ持ってて」

「うん」


 上空では、子どもたちがカゴから薄い紙でできた折りたたまれた筒を取り出していた。

 

 広げた筒をミオが両手でしっかりと持ち、それに小さな平たい蝋燭を隼人がセットした。


 高度が高いのでかなり寒い。ニットの帽子に耳当てまで付けているけれど、隼人だけは手袋を付けていない。細かい作業ができなくなってしまうからだ。


『大丈夫か?』

「大丈夫だよ、ロゼのおかげ。ありがとう」

『大したことじゃ、ない』


 ロゼリオは大好きな弟分に礼を言われ、尻尾をぱたりと振った。


「少しだけ、火を使うね。……練習の時みたいに上手くいきますように」


 ぎゅっと目を瞑ったあと。隼人が小さく言葉を呟いて蝋燭に小さな手のひらをかざす。ぼっと音を立てて蝋燭に火が灯り、隼人はほっと胸を撫で下ろした。


 紙筒は白色で、蝋燭の光を反射して優しい橙色に光る。


「きれー、あったかいね、おにいちゃ」

「うん。美緒、一緒に持とう」


 兄妹が紙筒にそっと手を添え……やがて、温められた紙筒は二人の手を離れて……ふわりと、空に上り始めた。


◇◇◇


 上空で輝く橙色の光を見て、アルフレドに肩を抱かれたままだった美雨はほっと胸を撫で下ろした。集まった人々からは感嘆の声が聞こえる。


「よかった。あの子たちも、成長してたね」

「そうだな。オレとミュウの子だ、上手くやるに決まっている」

「ふふ、あと一仕事。がんばれ」


 アルフレドの言葉に美雨は笑みを浮かべ、まだ降りてこない子どもたちに言葉を贈り……チラリと城下へと目を向けた。アルフレドも同じように目を向ける。


「あ。合図、伝わったみたい」

「とりあえず、成功だな」


 城下から、一つ、また一つと橙色が灯り……空へと舞い上がっていく。だんだんと増えていくそれは、さながら光の洪水のよう。


 その光に気が付いた集まった貴人たちは感嘆の声がまた漏れた。


 先程より少し明るくなった空。そこにはロゼリオの姿が見て取れる。


「おあつまりの皆様!!」

「こんばんわー!」


 上空から声が聞こえてきて、城下に気を取られていた人々は慌てて上空を見上げる。

 そこには、グリフォスの背に座った妹を後ろからしっかりと支える兄の姿があった。


 グリフォスはゆっくりと巨大な木へと近づき、そのてっぺん付近で翼を上下させて滞空した。もちろん、そんな容易く滞空できるはずはないのだが、それをやってのけるのがグリフォスという生き物だ。


「クロー兄ちゃん、お誕生日おめでとう!!」

「おめれとー!!」


 大きな声でのお祝いの台詞は、緊張のせいかちょっと間違えてしまったけれど。


 少年王と呼ばれる国王は嬉しそうに破顔して、地上より手を振った。


 隼人が危なっかしい動きで、てっぺんについた大きな玉に触れようとし……グラリと体が傾いだ。人々から悲鳴が上がりかけたが、ロゼリオがぐっと体を移動させて事なきを得る。


 そして今度こそ、隼人の手が大きな玉に触れた。


 球は、満月のような温かい光を放ち……木のあちこちに釣り下げられた魔石が連鎖反応のように色とりどりに点滅を始める。


 クロードが目を丸くするのを見て、この木のことは、本当に知らされていなかったのかとアルフレドは笑い、美雨は目元の涙を拭った。


「クロード、誕生日おめでとう」


 大輝の言葉に、王の鳶色の瞳は一瞬大きく開き……次いで顔がくしゃっと歪んだ。

 しかし、それは一瞬のことで誰にも気づかれてはいなかっただろう。

 見たこともない数の魔石を下げて光り輝く木と、それだけの魔力を秘めた子どもたちを目の当たりにした人々は、これからの対応を考えるのに忙しかったのだから。


 役目を終えた子どもたちを乗せ、ロゼリオが降りてきた。ねぎらいの言葉をかける両親と、それを見守る王と大魔法使いの目は優しいものだった。


◇◇◇


 今日、この日のこの時刻に空を飛んでいるように。と息子に言われていた竜王は、おとなしくネスレディア王都上空を飛んでいた。


 愛して止まない、目の中に入れても口の中に入れても構いやしないくらい、愛して止まない二人の孫の気配を感じて心を躍らせていたが……。


 暗闇に浮かぶ光の渦。その一つ一つは小さいものだけれど、集まるとこんなに美しいのかと息を呑んだ。


 人間は本当に面白く、愛しい生き物だと改めて思う。


「ミサキ、必ず探し出す。もう少しだけ待っていてくれ」


 竜王は白銀の巨体を翻して空を滑空した。

 彼にとっての、たったひとつの光を探し出すまで、彼の旅は終わらないのだから。

某映画のランタンが昇って行くシーンが大好きです。


やっとロゼリオ出せました。王城だからなかなか出せなくって。

あと1話でおしまいです。

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