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3 子どもたちと王と母と父と

「お母さん、本当にここでいいの?」

「うん。いいのよ……ああ! 美緒ダメでしょ! めっよ、めー!!」


 傍らにいた母親が立ち上がり、まだ小さな妹がいる庭園の方へと走り去って行ってしまった。やんちゃ盛りの、まだ三歳になりたての妹は王城の見事な花壇の花を抜いてしまいそうな所だった。


 ここは、先日の大穴が空いていた所とは別の庭園。王族専用の庭だ。しかし、王族は現在クロードしかおらず、配偶者もいない。よって、彼専用の場所ということになる。


 大きな渡り廊下に残された少年は、慣れた様子で小さく肩を竦める。5歳になった少年の髪の毛は日の光を編んで作ったかのような見事な金髪で、双眸は珍しい漆黒だ。寒くないようにと母親に色々着せられて若干着ぶくれしている。


「お父さんとロゼはどこにいるんだろ」


 キョロキョロと王城を見渡すが、出勤しているはずの彼の父親と家族である魔獣の姿は見られなかった。母と妹の三人で馬車でやってきたのだ。母曰く、彼と妹にしかできない大切な“お仕事”があるとか。


「……団長んとこの、息子か?」


 後ろからかけられた低いしゃがれ声。振り返ると、随分と汚れた格好をした老人がいた。明らかにこの場には不釣り合いだが、国王の印の入った腕章を付けている。

 少年は少し考え、ぺこりと頭を下げた。


「こんにちは。僕は隼人はやと。ええっと、家名はフリクセルです。いつも父がお世話になってます」

「……」


 礼儀正しく頭を下げた上に、上手に挨拶をした少年――隼人に老人は面食らった様子で瞬きをしたが、ふと優しい笑みを浮かべて問いかけた。


「幸せか?」


 隼人はきょとん、と首をかしげてからこっくりと頷いた。

 その様子を老人は目を細めて嬉しそうに頷き返した。彼がたった一人敬愛して止まない主とは、今の隼人と同じくらいの年齢の時に出会った。対照的な二人に思う所があったのだろう。


「ハヤト、こんにちは」

「あ! クロー兄ちゃん!」


 隼人の顔がぱあっと輝き、次いでしまった! という表情になって慌てて口を押えた。庭師の老人はすっと一歩下がって膝をついて頭を垂れた。

 現れたのは現国王、クロード・ル・ネスレディアだ。18歳の成人の儀にはまだ数年待たねばならないが、十分過ぎるほどにすらりと伸びた手足に優しげな表情。子どもの頃は薄い栗色だった髪の毛は少し色味を増して落ち着いたブラウンに。くりくりとしていた瞳は思慮深さをたたえている。


「ええっと、陛下、こんにちは」

「ハヤト、今はクローでいいよ。おじちゃんもお疲れ様です」


 声をかけられた老人はさらに深く頭を垂れた。クロードは苦笑を浮かべ、老人の前に同じように膝をついて肩を叩く。


「……」


 老人は嬉しそうに顔を上げ、何かを言おうとするも結局は何も話さずにぺこりと一礼をし、庭の奥へと消えていった。

 言葉をきちんと聞けて言葉を話せるようになって数年が経つが、彼はあまりクロードとは話をしない。大輝曰く、緊張しすぎているとのことだけれど、クロードとしてはもう少し気軽に話して欲しいなとも思う。……無理かもしれないけれど。


「あ、クロードくん! ……じゃなかった。ええと、陛下」

「お姉ちゃんまで。ここは僕の庭だから大丈夫ですよ」

「あ、そうだったね。なんか、王城で会うと緊張しちゃうね」


 苦笑いを零すクロードに美雨が笑いかけた。すっかり伸びたセミロングの髪の毛は彼女の元々の色で真っ黒だ。抱き上げられた同じく黒髪の女の子が嬉しそうにきゃっきゃと笑う。


「ミオも、こんにちは」

「こんにちは! クロ兄ちゃ。おはなね、めーっていわれた」

「せっかく綺麗に咲いてるんだから。抜いたら可哀想でしょう?」


 美雨の言葉に、美緒みおは小さな唇を思いっきり尖らせた。

 呆れた様子の美雨に代わり、隼人が美緒を受け取って抱いた。もっとも、子どもが子どもを抱っこしているので抱き上げるというよりは抱きしめているといった方が正しいか。


「美緒は、お花をどうしたかったの?」

「ダイおじちゃにね、あげるー!」


 どうだ! と言わんばかりの得意げな顔に、クロードが吹き出した。笑うと幼い頃の面影が顔を出して年相応に見える。


「はは、ミオは本当にダイキが好きだね」

「ミオね、ダイおじちゃのー、おくさんになるの!」

「……ミオにはまだ早い」


 地を這うような低い声は、間違えるはずもない。美雨の大事な人の声だ。


「アルフ、お疲れ様」

「ここまで二人も連れてくるのは大変だったろう。ミュウ、ありがとう」


 アルフレドは美雨を軽く抱き寄せ、その頬にキスを贈った。


「一応、主の前なんですけどね」

「クロー兄さん。いつもこうだよ」

「いつも、こー!」


 クロードばかりか、子どもたちにまで言われてしまって美雨は苦笑いを零した。


「ええっと、アルフ。二人にしかできないお仕事ってなあに?」

「ダイキがそう言っていてな。まあ、仕事場に案内しよう」

「ダイキの部屋、相当汚いですよ」

「……そう思って、雑巾持ってきたよ」


 大人たちの会話をおとなしく聞いていた隼人と美緒は、顔を見合わせて嬉しそうに笑った。大好きな叔父に会うのは久しぶりだ。

「ミオは、この前はお父さんのおくさんになるって言っていたのにな……」

「……アルフ、私がいるじゃない」

「そうなんだが……複雑なものだな」

 

 アルフレドの天敵は大輝と、近所に住むクラウスくん(10歳)。

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