1 大魔法使いとコンビニ
久しぶりに訪れた東京は、あちらこちらにイルミネーションが輝いていて賑やかだ。
幼い頃に育った田舎とは違って大がかりなものが多くて、見ているだけで楽しい。
冷たい空気に首をすくめて歩いていた大輝だったが、コンビニに入ってほっと肩を下ろした。こちらの世界ではおなじみのピロリーン♪ という入店を告げるこの音は嫌いじゃない。
すたすたと雑誌コーナーへ行き、本日発売の少年週刊誌を手に取る。そのままふらりと飲み物コーナーへと行き、炭酸飲料を買ってお菓子コーナーを見るも……特に目新しいものは無かったのでそのままレジへと向かった。
「お姉さん、ポテトください」
店頭に並んでいると、いつもなんとなく頼んでしまう。
「こちら、クリスマスケーキのご案内も入れておきますね」
赤色の三角帽子に白い飾りの付いた、言わずと知れたサンタクロースの帽子をかぶった店員さんが、にこにこと笑みを浮かべて一枚のチラシを入れてくれた。
そうか、もうそんな季節かと思う。あちらの世界には無いものだ。
コンビニを出て、人通りの少ない路地へと入る。その道をしばらく歩くと……現状はただ借りているだけの物置きと化してしまったアパートに到着する。
「うっわ。すごい量だなあ」
最近は忙しくて来れなかったので、郵便受けから入りきれなかった分がはみ出している。
フリーペーパー等が主だけれど、時々重要なお知らせとかもあるので侮れない。
郵便受けの限界を超えてぎちぎちに詰められていたので、苦心して全部引き抜いてから玄関のカギを開けた。
「えっと、何々……。特に何もないか」
電気もガスもほとんど使っていないから、無事に口座引き落としがされているのだろう。
姉がネスレディアで暮らす今となっては、日本へと大輝がやってくる目的は彼の主へのお土産がメインだ。だから、このアパートを引き払ってあちらの世界に完全に移住してもいいんじゃないかと思うこともあるが……。
それをするには、大輝はこちらで長く生きすぎたのだ。自由に行き来できるうちは、友人の人生の晴れ舞台くらい祝ってやりたいものだ。
常に薄いカーテンしか閉まっていない窓ごしには、外からの灯りが入り込む。
道を一本出れば賑やかだけれど、このアパートのある場所は意外と静かで気に入っている。
スマホを開いてメッセージを確認する。友人に子どもが生まれたそうで、だいぶ返信に日数が空いてしまったが、おめでとうと返しておく。友人もそんな大輝には慣れているだろうから問題ない。
大切な友人たちとは、既に生きる時間が異なってしまった。時を見て、自然と姿を消そうとは思うが、もう少しの間はこのままでいたい。
大魔法使いダイキではなくて、ただの高島大輝として。
「こっちの世界では一大イベントのクリスマスだもんね。ネスレディアの冬なんて、長くて暗くて……なーんもなくってつまんねー」
そう言った彼は、何か思いついたように動きを止め、次いでニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「あー。あるじゃんあるじゃん。いいのが一つ」
楽しそうに笑みを浮かべつつも、頭の中では次々に計算をしていくその姿は……間違いなく、ネスレディア王国の大魔法使い、ダイキに違いなかった。
◇◇◇
「え? もみの木」
例年通り、雪に埋もれた我が家に帰ってきた夫に、温めておいたタオルを渡した美雨は首をかしげた。
今日は帰りが遅かったので、子どもたちはとっくに二階の子ども部屋で眠りについている。
寝かしつけているうちに寝てしまう日もあるが、そういった例外を除いて、夫の帰りが遅い日も必ず起きて待っている。
「そうだ。ダイキが“もみの木”は無いかと聞いてきた」
「大輝が? 何するつもりなのかな……」
暖炉の前に行き、夫から受け取った湿ったコートと帽子、手袋とブーツを並べ……ふと思いついて手を止めた。
「あ」
「美雨?」
声を上げた妻に、夫が訝しげな表情を向けた。
「クリスマスツリー、かな」
「くりすますつりー……」
平仮名で繰り返す夫に、妻は懐かしそうに目を細めた。
このやり取りは出会った頃のことを思い出させる。
出会った当初の彼は、両手で包んでしまえる程小さかったけれど、今と変わらず探究心が旺盛で、誠実で優しかった。
そんな彼に惹かれ、気が付くと恋に落ちていた。そして美雨は世界を移り住んだけれど、全然後悔はしていない。毎日がとても幸せだ。
「ふふ、クリスマスツリーっていうのはね……」
しんしんと雪が降り積もる冬の夜。
クリスマスの説明を始めた美雨の声が優しく響いていた。
こちらではお久しぶりです。
蛇足になることに怯えつつも、書きたいエピソードが出来たので投稿していきます。
クリスマスまでどうぞよろしくお願いします。