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20-1 終劇の後で

20,1・終劇の後で


 男は目を覚ます。

 潮騒が聞こえ、日よけに遮られた日差しがかすかに差し込んでくる。

 おれは。

 声を出そうとしても、喉がいがらっぽくて上手く喋れない。

 身体を起こそうとした。

 ひどい痛みを覚える。上手く身体が起こせない。

 参ったな……と身を横たえながらため息をつく。


 足音が聞こえた。

 扉が開く。

 扉から差し込むのは、眩しい陽の光。

 現れた誰かは、盆の上に水差しを持って……すぐに、男が目を開けていることに気づく。


「…………!」


 水がこぼれた。

 そんなことに構わず、その人物は男に駆け寄った。

 懐かしいにおいが男を包む。

 柔らかく、暖かな感触に抱きしめられた。


「ああ……」


 男は掠れた声を漏らした。


「おれは……負けたんだな」


 不思議と悔しさは無い。

 何もかも失って、築き上げてきたものを否定されて……。


「負けてないよ。あなたが生きてる」


 そうだ。何もかも失ってなんかいない。


「君も生きてる」


 力の入らない腕を精一杯伸ばして彼女の背中を抱いた。

 そう、彼女が生きている。

 それだけで、心が落ち着きを取り戻してくる。

 それだけで、充分だった。


「良かった」


 長らく流したことのない涙が溢れるのを、男は感じた。

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