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第8話 「食事の席で」

 指摘が多かったのでゲーム名をアナザーライフ・オンライン(ALO)からオンリーライフ・オンライン(OLO)に変更しました。

 レオーネは新たな武器を手にし、飛躍的に攻撃力を高めた。これはあのクエストが終わってから別のクエストを行ったりしたので間違いない。

 俺はフリーターであり、雪那達は大学生。基本的に俺は平日は午前から夕方までグレイセスで働いており、彼女達は夕方から入ることが多いため、OLOにログインできる時間が噛み合うのは休日くらいだ。

 前回一緒に遊んでから今日で1週間ほど経過しているわけだが、俺は家から程近いファミレスを訪れている。レオナから一緒にご飯を食べようと誘われたのだ。誤解がないように断っておくが、雪那も誘われているのでデートではない。


「あっ……キョウヤ、こっちこっち」


 店の中に入って見渡していると、聞き覚えのある声が耳に届く。意識を向けてみると、レオナがこちらに手を振っているのが見えた。インナーの上に黒いジャケットを着ているせいか、彼女の外見と相まって音楽活動でもやっていそうな雰囲気がある。

 もしも来る順番が逆だった場合、俺はレオナのように声を上げることが出来ただろうか。想像してみても、手は上げるだろうが声を掛けるのは近くに来てからのような気がする。すんなりと実行できる彼女はある意味尊敬する。

 ――……あれ?

 レオナの座っているテーブルに近づいていったのだが、誘われているはずの雪那の姿が見当たらない。

 トイレにでも行っているのかとも考えたが、テーブルにあるお冷はレオナの分だけ。おそらくまだ到着していないのだろう。だが念のため


「雪那はまだ来てないのか?」

「ええ、多分もうしばらく来ないと思うわ」

「何か連絡があったのか?」

「ううん、あたしが待ち合わせの時間をキョウヤより遅めに伝えたから」


 さらりとした発言に俺の心には疑問が生まれる。

 とはいえ、目の前にいるのは昔から付き合いのある雪那ではなくレオナだ。表面的なものは理解しつつあるが、深層部分はまだ見えていない。いくら考えても正しい答えには辿り着けないだろう。そのように思った俺は、レオナの向かい側に腰を下ろしながら話しかける。


「何でそんなことしたんだ?」

「キョウヤとふたりで話したかったから」

「茶化すなよ」

「茶化してなんかないよ」


 頬杖を着きながら真っ直ぐ見つめるレオナの顔には、確かに雪那をからかっているときのような雰囲気は感じられない。だが俺に対して特別な感情を抱いているような顔でもない。

 ――いったい何を考えてる?

 俺達の関係性は最上でも友人だろう。他はバイト先での先輩と後輩くらいしかない。レオナの性格を考えると、俺のことを知ろうとしているとも考えられるし、または雪那のことで何か知りたいのかもしれない。

 別に考えられることとすれば……先日のOLOでの一件くらいか。

 OLOでの俺の速さについて何でもいいと言っていたが、その前に詰め寄って質問してきたのだから疑問を抱いたのは間違いない。日を改めて聞いてみようと考える可能性は充分にあるだろう。


「なら何か聞きたいことでもあるのか?」

「うん、まあそんなとこ」

「俺なんかを先に呼び出して聞こうとするなんて物好きだな」


 なんか、という言い回しをすると雪那は注意してきたりするのだが、レオナはさっぱりとした笑みを浮かべている。


「そういう言い方するとユキナから小言とか言われるんじゃない?」

「まあそうだな……だが客観的に見た場合、俺は最終学歴は中卒で今はフリーター。将来の安定性を考えると、世の中には俺より優れる奴はたくさんいるだろ?」

「そう言われると否定できないけど……」


 レオナが苦笑いを浮かべた直後、店員が俺の分のお冷を持ってきて注文を窺う。雪那が来る前に食事を取るのも悪いので俺はアイスコーヒーを頼み、レオナはコーラを頼んだ。飲料だけの注文だったので、すぐさまテーブルに運ばれてくる。


「話の続きだけど、確かに女ってのは現実的だったりするわ。でも今は男女平等で働く女の人だって多いんだから、学歴とかで全てが決まるわけじゃないと思うけど。結婚しても働いていたいからって理由で、主夫をしてほしいと思う人もいるだろうし」

「それは否定できないが……」

「自分に興味を持つ女は物好きとか言いたいわけ?」


 当たらずとも遠からずの発言に俺は考え込んでしまい返事が遅れてしまう。それを図星だと思ったのか、レオナはくすくすと笑ってコーラを一口飲んだ。


「学歴とかに関しては仕方ないけど、あんまり自分を低く扱わないほうがいいわよ。というか、キョウヤの言い分を素直に受け入れるとあたしが物好きな女になっちゃうんだけど?」

「……お前、絶対それがこっちの言葉を否定した理由だろ」

「失礼ね、それ以外にも理由はあるわよ。あたしとキョウヤってちゃんと話したことないじゃない。話すことはバイトのこととかゲームのことだし、ユキナがいるとあまり踏み込んだこと聞けないしさ」


 今のセリフに込められているであろう気持ちを読み取ると、おそらく知り合ったからには親しくなりたい、といった感じになるだろう。

 このように考えるのはレオナの性格を考えるとおかしいことではないし、バイト先や仮想世界でも付き合いがあるのだから親しくしておいて損はない。否定的な意見を口にする理由はないな。

 また俺は別に雪那と付き合っているわけでもないので、ふたりっきりになるのに罪悪感を感じる必要もないのだ。むしろ下手に拒んでいると逆に疑われてしまうので、それを防ぐ意味でもある程度付き合うことは大切に思える。


「あまり積極的に来られるのも困るが……まあ長い付き合いになりそうだし、答えられることには答えてやるよ」

「あはは、キョウヤってあれこれ言う割にはなんだかんだで付き合うよね」

「悪いか?」

「ううん、あたしには都合が良いことだし。じゃあお言葉に甘えて、遠慮なく色々と質問させてもらおうかな」


 おい、その言い方だとまるで俺が全ての質問に答えるみたいじゃないか。言っておくが、俺は答えられるものには答えると言っただけで、内容によっては黙秘したりするぞ。

 といった俺の気持ちは口に出ることはなかった。すでに質問する内容が決まっていたのか、レオナのほうが先に口を開いてしまったからだ。


「そうだなぁ……ぶっちゃけ、ユキナのことどう思ってるわけ?」

「どうって……幼馴染だが」

「それだけ?」

「それだけだよ」


 レオナが思っているような幼馴染も世の中には存在しているだろうが、ある日を境に口すら聞かなくなる幼馴染だって存在しているのだ。俺と雪那は友好的な方ではあるが、いつも一緒に居るわけではない。


「本当に?」

「くどいな。大体もしも幼馴染以上の感情を抱いてるならもっと動揺したりするだろ? それに今では親しげだけど、一時期は険悪だったりしたんだぞ」

「え、そうなの? 何で?」

「何でって……」


 容姿端麗で文武両道の優等生が幼馴染だと、周囲から羨ましがられたり妬まれたりするものだ。またレオナのようにどう思っているのかを聞いてくる輩も居た。思春期を迎えたばかりの頃は精神的に不安定だったりするため、これまで何ともなかったことで苛立ちを覚えたりもした。

 そうした理由から八つ当たりじみた言動をしてしまったこともある。となれば、徐々に距離感が離れてしまうのも当然だろう。

 過去の出来事の経緯を簡潔に説明すると、レオナはとりあえず納得したような顔を浮かべる。


「ふーん、なるほどね……ユキナに対してそれだとキョウヤには好きな人もいないんだ」

「何で決め付ける?」

「え、いるの?」

「……いないけど」


 あのな、俺の返答くらい最初から分かってただろ。やっぱりって顔をするのはやめろよな。俺だってイラついたりすることはあるんだから。


「じゃあ好きなタイプは?」

「おい……何か質問が偏ってないか?」

「こういうのはユキナがいないときにしか聞けないでしょ。あの子、絶対キョウヤの前じゃこの手の話はさせてくれないだろうし」

「それは……」


 まあ雪那さん純情というか恥ずかしがり屋だからね。女性だけとかじゃないと難しいだろう……でも俺の予想だけど、その手の話にももっと突っ込んだ話にも人一倍興味があると思う。

 なぜこのように言えるかというと、雪那は俺からラノベを借りて読んだりしている。ラノベには色恋の話や露出の高い場面、それらの挿絵があったりするのは言うまでもないだろう。彼女はそれを真っ赤になりながらも熱心に読んだりしている。

 試し読みのつもりで読んだのに熱中して……のような流れで俺の前でそうなることもあるし、後日ラノベを返しに来た時に内容を丸暗記したのではないかと思う発言をしたりしている。

 恥ずかしく思う場面の感想は言わなくてもいいだろうに、なぜか雪那はそこまできちんと言うのだ。人前では初心な反応をしているが、絶対興味があるに決まっている。多分彼女はむっつりスケベだ。


「ほらほら、答えて答えて」

「そう言ってもな……」

「自分の好みなんだから、少し考えれば出てくることじゃない。例えば長い黒髪が良いとか、世話してくれる子が良いとか、胸が大きい子がいいとか色々あるでしょ?」


 確かにそうだが……今たとえで出されたのが特定の人間を指しているように感じるのは俺だけだろうか。最後の部分に関しては自分のことを言っている可能性もありはするが。


「じゃあ性格が良い奴」

「抽象的な答えね……」

「でも大切なことだろ。多少の我が侭なら良いが、何でも自分の思い通りにならないと嫌な奴とか嫌いだし」

「そういう人間は、惚れてる奴以外はほとんどの人間が嫌に決まってるわよ。もっとこう……何かないわけ?」

「現状ではない」


 美人と付き合えたほうが嬉しいとは思うだろうが、性格が悪いならきっと長くは続くまい。俺は付き合うなら一緒に居て楽しかったり、安心感を覚えられる人物が良い。見た目よりも心のほうが重要だ。

 レオナはコーラを一口飲むと、実につまらなさそうな顔を浮かべながら大きなため息を漏らしてから話し始める。


「何か……盛り上がりに欠けるわ」

「一方的に質問していて、それにこっちは答えているってのにお前は何様だ」

「でも盛り上がってないのは事実じゃない」


 事実ではあるが、この手の話で盛り上がりたいなら別の相手としてくれませんかね。あいにく俺は積極性の乏しい彼女いない歴=年齢な奴なので。


「まあいいわ、キョウヤだし」

「その言い方はどうかと思うんだが?」

「男が細かいこと気にしない。次の質問だけど……そうね、もっと具体的に聞いてあげるわ。髪の毛の長い女の子と短い女の子、どっちが好き?」


 どっちと言われても、人によって似合う髪形が違うだろうから実際に見てみないことには……。

 と口にすると、レオナの頬が一瞬引き攣ったように見えた。まあ確かに2択で質問されているのに、その2択で答えなかった俺が悪いかもしれない。

 謝ろうと口を開こうとした矢先、レオナはやれやれと言いたげな身振りをしながら口を開く。


「OKOK、じゃああたしかユキナを基準で考えたらいいよ」

「それはそれで答えづらいんだが……まあ雪那は長いほうがいい」

「ほほぅ」

「そのにやけ面は今すぐ引っ込めろ」


 雪那の見た目を考えると長い髪が似合うというのも理由だが、昔から長髪以外に見たことがないから短髪に違和感を覚えるんだよ。さっき俺と雪那は幼馴染以上でも以下でもないって説明して納得してたろ。即行で考えを変えるのはやめろ。


「じゃああたしは?」

「お前は…………何で顔を近づける?」

「見えやすいように」

「アホ、かえって見にくいわ」


 というか、俺達の他にも客はいるし店員だっているんだ。顔を近づけていたら「あ、あのカップルこんな人前で……!?」なんて誤解を生むかもしれないんだぞ。ここは日本なんだからもう少し異性との距離感を考えろ。

 そのような気持ちを込めて睨むと、レオナは笑いながら顔を引っ込める。


「そんなに怒んなくていいじゃない。で、キョウヤ的にあたしはどっちが似合うと思う?」

「はぁ……そうだな、まあ短髪かな」

「へぇ、その理由は?」

「お前の性格的にそっちのほうが合いそうだし、時々煩わしそうにしてたから」


 それなりにまともに答えたからか、レオナは驚いたのか固まって何度か瞬きをする。


「あたしのこと結構見てるんだね。もしかして惚れてる?」

「…………」

「冗談、冗談だから。だから静かに立ち上がって帰ろうとしないで。帰るならせめて自分の代金くらい払っていって!」


 必死に止める割には後半は必死さが感じられない発言だ。まあ俺が本気で帰るつもりがないというのが分かっているので、今のような言い回しをしたのかもしれない。

 深いため息を吐きながら座りなおすと、その直後によく覚えのある声が聞こえてきた。首だけ振り返ってみると、春らしい格好をした雪那が立っていた。レオナと比べると、やはり肌の露出が少ない。


「ごめん遅くなっちゃって……食べずに待っててくれたんだ」

「そんなの当然でしょ。それと別に気にすることないわ、キョウヤと楽しい時間を過ごしてたから」


 誤解を招くような発言をするレオナに鋭い視線を向けたが、彼女はいたずらな笑みを浮かべながらウインクで返事をしてきた。

 それに苛立ちを覚えた俺は、すぐ近くにレオナのすらりと長い足があったこともあって軽く蹴ってやろうかとも思った。

 しかし、たまに来る性質の悪い客に比べれば彼女は可愛いものだ。それに軽くとはいえケンカをしてしまうと、おそらく雪那が介入してきて説教される。ここは我慢するしかあるまい。


「そっか、なら良かった」

「ユキナ、そこは『ふーん……ねぇキョウヤくん、いったいレオナと何を話してたのかな?』っていつもの怖い笑顔で言うところなんじゃないの?」

「あいにく私はふたりがイチャイチャしててもやきもちなんて妬きません……というか、怖い笑顔って何かな?」


 雪那さん、それは今浮かべている純度100%の作り笑顔のことです。アニメや漫画なら効果音か冷たい感じの背景が入ってると思います。

 のように内心ではあれこれ言ったものの、実際に口にすると矛先がこちらに向いてしまう。理由もないのに怒られたくはないので俺は無言を貫いた。レオナが視線で訴えてきたが知ったことではない。

 レオナにお小言を言うために雪那は彼女の隣に腰を下ろした。お小言が一段落すると、店員を呼んでそれぞれ注文する。雪那が注文したメロンソーダはすぐさま運ばれてきた。


「ごめんね恭也くん、レオナの相手ひとりでさせちゃって」

「別に気にするな。今度から遅れて来るから」

「気にするよ。というか、わざと遅刻するのは人としてダメだから」


 だってあなたの隣にいる金髪さんは、俺にわざと早めの待ち合わせ時間を教えてたんですよ。一度そんなことされちゃったら今度から疑っちゃうじゃないですか……、なんて口にしても面倒なことになりそうだしな。今度から雪那に確認すれば対応できるだろうし、今は言わないでおこう。


「そうよキョウヤ。あたし達みたいな美人とデート出来るんだから遅刻なんてするもんじゃないわ」

「雪那に関しては一緒に出かけたことがあるからまだ良いとして、お前とは何もしたことないだろ。ちゃんとそういうことしてから言えよ」

「じゃあ今度の休みでもデートする?」


 ナチュラルにそう言ってきたレオナに俺は思わず頭を抱える。

 ――完全にやらかしてしまった。こいつの性格なら充分にありえたことなのに……いや待て、変に気負うとかえってやらかしてしまう。感覚としては雪那と出かけるようなものだ。慌てるな、冷静に対処しろ。


「あまり引っ張り回されないならしてもいい」

「キョウヤがあたしにどんなイメージを持ってるかはっきりしたわ。言っとくけどね、あたしはこう見えても割りとインドアよ。アニメにゲーム、漫画やラノベで時間は過ぎていくし」


 それは割りとじゃなくてガチでインドアだろ。大学とバイト以外はほぼ外出してないってことだし。


「だから、デートの時は映画館でアニメでも見ましょ……ユキナ、微妙な顔してるけどどうかしたの?」

「え、ううん別に何でもないよ」

「何でもないってことはないでしょ……あ、もしかしてあたしがキョウヤとデートするからやきもち?」

「それに関しては違います。デートしたいなら好きなだけどうぞ」

「ふーん、じゃあ仲間外れにされてる感じがして寂しかったとか?」


 その問いに雪那は一瞬の間の後に否定の言葉を口にし、メロンソーダを飲み始める。どこかいじけた表情からして、どうやらレオナの発言は確信を突いていたらしい。

 レオナもそれを理解したのか、雪那に抱きつきながら謝罪の言葉を口にする。


「ごめんユキナ、別にそういうつもりはなかったの。あたしにとってユキナはキョウヤなんかより大切な存在だから機嫌直して」

「あのさレオナ、今の言い方は恭也くんに悪いんじゃないかな?」

「大丈夫、キョウヤは分かってくれるから」


 俺なんかより、という言い方をしたくせに調子の良い奴である。だが出会ってからまだ日は浅いが、今日のようなやりとりは多々あった。そのため、俺が取った行動は無言でコーヒーを飲むこと。確認を求めるような視線を感じるが、そこはスルーする。


「そういえば、あの話ってキョウヤにはもうしたの?」

「それは……その、タイミングがなくて」

「なら今すればいいじゃない」

「で、でも……」


 雪那はこちらの顔色を窺うようにモジモジし始める。

 今の姿は昔から何度も見た記憶がある。雪那は小さい頃から何でも自分でするタイプだったので、個人的な頼みをするのが苦手だったりする。

 これに加えて話の流れからして、俺に何かしら頼もうとしているのは間違いない。ただあちらから言うのを待つと時間が掛かりそうなので、こちらのほうから聞いてやろう。


「言いたいことがあるんなら気楽に言ってみろよ」

「えっと……あのね、あたし達ギルドを作ろうと思ってるんだ」


 ギルドというワードからしてOLOの話だろう。

 OLOではギルドを作るためには専用のクエストをクリアして、結成に必要なアイテムを入手する必要があるらしい。

 どうしてそのような仕組みになっているかというと、このゲームでは使用したプレイヤーが必然的にギルドマスターになるようなのだ。自分の組織を持つためにはある程度の実力が必要、ということでクエストにしたのではないだろうか。

 他人の作ったギルドに入る際にはこのクエストをクリアする必要はない。そこのギルドマスターに申請して認められれば終了だ。

 にもかかわらず自分達のギルドを作るということは、気の合う仲間の結成を高めるためか、はたまた自分達の力をいずれ周囲に認めさせたいと思っているのか……。

 まあ何にせよ、雪那が言いたいのは俺にギルドを作る手伝いをしてほしいということ。そして、作ったギルドに入ってくれということだろう。


「だから……」

「クエストは手伝ってやるし、ギルドにも入ってやるよ」

「え……本当?」

「ああ、これといって何かが変わりそうじゃないし……ただし、ギルドマスターとかはやらないからな」


 雪那やレオナ相手なら問題ないが、俺はどちらかといえば愛想がない方だ。新しいメンバーを加えようとなった時、余計な衝突を生んでしまう可能性が他のふたりより高い。単純にギルドマスターという肩書きを持ちたくないというのもあるが。


「それで構わないなら力になる」

「うん、それくらいのことで手伝ってくれるのなら全然構わないよ」

「そうだね。というか、あたし達のギルドのマスターはユキナしかいないでしょ」

「え、何で?」

「何でって、あたしやキョウヤはユキナのところのバイトだから。やっぱりオーナーの娘が上の方がしっくり来るじゃない」


 最もらしいことを言っているが、おそらくレオナは上に立つのが面倒臭いか、自分がやるとまとまりのない集団になってしまいそうなのを理解しているのだろう。


「別にレオナがしても良いと思うけど……」

「いやいや、あたし達のまとめ役はユキナしかいないって。ユキナがマスターならあたし達も安心だし。ね、キョウヤ?」

「まあお前がやるよりはな」

「ちょっと、そういう肯定の仕方はないんじゃない」


 いやいや、一応お前もギルドマスター候補なんだから比較した意見は大切だろ。というか、俺の性格についてはお前も多少分かってるはずだが。今みたいな返事が嫌なら投げかけるタイミングは考えてくれ。


「絶対キョウヤはギルドマスターに向かないわ」

「そんなの言われなくても分かってるし、やりたいとも思ってない」

「まあまあふたり共、ケンカしないで。ギルドを作りたいって言い出したのは私だし私がやるから、ね?」

「OK、じゃあそういうことで」

「……もしかして私、レオナに嵌められた? いや、まあいいんだけど……」


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