第七話 愛と笑いの無名の拳 前編 ☆
「なんで私がこの子の面倒を見なきゃいけないんですか」
「君が適任だと思ったからだよ咲良君」
声を荒らげ片平に詰め寄っている咲良と呼ばれた女性。背中まで伸ばした黒髪も、憤激のためか逆立っている。華奢な体を目一杯大きく見せ威嚇しようとしているのか、大胸を張って仁王立ちしている。
彼女がなぜここまで憤っているのか。それには僅かばかり経緯を説明しなければならない。
晴れて『学園』に入学した堂島圭介は、片平の教室に編入することが決まった。その中で彼にあれこれ世話をする人が割り当てられたのだが、それが咲良と呼ばれた女性だったのだ。
咲良、本名は五十嵐咲良という。豊かな黒髪と、しなやかな肢体が自慢の十九才だ。
「理由を聞いているんです先生」
「健太とゆすら君は今郊外に出ていないし、アサギ君は……わかるだろう? 性格的に指導出来ない。なら優等生であり級長の君が適任だ。能力的にも相性がいい」
「私は! それが気に入らないんです。私がそれを嫌っているのを知っているはずです」
「とは言え私が直接指導できるわけじゃないしなぁ。これから私も二人の支援に行かなければならないんだ」
カッと目を見開く。黒々とした瞳がまっすぐに片平を射た。片平は流石に居心地が悪くなったのか、モゾモゾと所在なさげに手を動かしている。
「おっともうこんな時間だ。もう行かなければ。それでは咲良君、圭介君のことはきみにまかせた! それでは」
「あ! 先生! 逃げんなぁ!」
そう言って足早に去っていった。
後に残された咲良はしばらく肩を怒らせていたが、突然くるりと振り返り、
「もう……不本意! だけど、仕方なくあなたの指導係、受けてあげるわ。気がのらないけど。……私の名前は五十嵐咲良。苗字で呼んだら文字通り叩き潰すから、そこんとこよろしく」
人差し指をピンと突き立てて、彼女は圭介にそう宣言した。
「あ、はい。えー、自分は堂島圭介といいます。どうぞよろしくお願いします」
戸惑いながらスッと頭を下げる。圭介は心中なんなんだろうこの人は、という思いでいっぱいだ。なぜか不機嫌で、その原因がいまいちわからない。自分のせいだろうか?
しかし元々面倒見はいいらしく、結局憤りながらも圭介の指導係を務めるようだ。優等生というのは本当らしい。
学園はいわゆるゼミ形式を採用している。それぞれの教師の元に数名の生徒が割り当てられていて、片平教室、佐々木教室と呼称される。生徒の数はまちまちで、年齢もまちまちだ。
それを踏まえた上で、
「はぁ……じゃあまず教室のメンバーを紹介するわ。あそこの隅で本を読んでいるのが板倉アサギ。歳は十七よ」
隅の机で分厚い辞書(本と呼んでいいのか?)に目を通している少女に目を向けた。二人に気づくと「ひっ」と悲鳴を上げて本の陰に隠れてしまった。
くせっ毛の髪を後ろで一つにまとめていて、前髪はそのまま額にかかっている。度々本の陰から様子をうかがうように顔を出しているが、その顔は赤く染まっている。
「恥ずかしがり屋なの。アサギ、紹介するわね。今日から新しく私達の教室に加わることになった堂島圭介よ。出来れば仲良くしてあげて欲しいんだけど」
まだ本の陰に隠れているアサギに向かって、精一杯の笑顔で「よろしく」と挨拶をする。さらに「ひぅっ!」と悲鳴を上げて縮こまってしまった。
「あなたね、ただでさえ大きくて威圧感があるんだから、そんな顔で凄んだら誰だって怯えるわよ」
「あ、いや、凄んだわけじゃ。ただ笑っただけで」
「……そう。ならその笑顔はやめたほうがいいわ、怖いから。ごめんね、アサギ。もう行くから」
二人して廊下に出る。廊下を歩きながら、
「これで今いる片平教室の全メンバーの紹介は終わりね。他には八木健太と森ゆすらの二人がいるわ。聞いていたと思うけど、今は外に出ていて学園内にはいないわ」
「外? 何をしているんですか?」
「学園長から聞かなかった? ここは学園とは呼ばれているけれど、本来は対超能力犯罪のカウンター組織なの。相手が例のクソッタレ結社だけじゃなくて、もっと広くのね。他には超能力に悩む人を見つけて、学園にスカウトをしたりしているわ」
「その、具体的には何を」
「いろいろよ。基本は警察と連携して支援するのが主だけど、中にはそれだけじゃ済まないものがあるわ。直接対決して、相手を無力化しなければならないの。そして、これは重要なことなんだけど、私たちの教室はそれを目的とした言わば実行部隊なのよ」
さっき紹介されたアサギと、目の前の咲良。彼女たちも前線に出て丁々発止のサイキックバトルを繰り広げるのだろうか。
咲良を見る目が露骨だったのだろう。すぐに反応してきた。
「あなた、まだ理解できていないようね。いいわ、ついてきて」
髪をなびかせながら先を行く咲良。廊下の奥の扉を通り、一旦外にでる。渡り廊下を通り、体育館のような大きな建物に到着した。
「ここは私たちの実技訓練場よ。ここでほとんどの超能力を練習するわ」
訓練場の外観は何の事はない、普通の体育館と左程変わらない。能力を受けてしまったら崩れてしまうのではないかと、圭介は不安に思った。
素直にそのことを咲良に聞いてみると、
「この敷地内にある建物は、その全てを堂島博士の技術を元に作られているわ。あなたのお爺ちゃんのね。建物の素材に衝撃を受け流す流体衝撃緩衝材、とかいうものが使われているらしいわ。詳しくは知らないけど。まあちょっとやそっとじゃぶっ壊れないのは確認済みよ。さあ入って」
いろいろ思うことはあったのだが、咲良に背中を押されるままに訓練場へと入っていった。
中は至ってシンプルで、二階に観覧席があり、一階には休憩室がある。メインとなる広場には細かい砂が敷き詰められており、なにやらクッションのようだ。
その広場の中央に立って、咲良はファイティングポーズらしきものをとる。右足を肩幅ほど開いて半身になり、左手をやや前に、右手を左胸の前に構える。膝をやや曲げ重心を落とし、自然体を作る。ひと目で分かった。彼女は戦い慣れていると。
「堂島圭介。あなたに超能力というものを存分に味わわせてあげるわ。あなたも構えなさい」
「突然そんなこと言われても」
「言い訳は殴った後に聞く!」
――ボシュッ!
砂が土砂となって大量に舞い上がった。彼女はまっすぐ突っ込み、右拳を力任せに圭介の胸部へ叩き落とした。固いもの同士が真正面からぶつかったような鈍い音を広間内に響かせて、次の瞬間圭介は地面に叩き伏せられていた。
「これで分かっていただけたかしら。外見なんて関係ないことに」
咲良は圭介の身体を両手で持ち上げ頭上にかざし、そのまま器用に回してみせた。十回転ほど回した後に、ゆっくりと圭介を地面に下ろす。
脳が今のことに耐え切れなかったのか、とてつもない不快感が襲う。思わず膝を地面についてしまった。
「どう? 体験してみて」
「とう、もこう、も、ないで、す」
地べたに座っているというのに、まだグラグラと覚束ない。あまりのことに言葉がたどたどしくなってしまった。
「認識は変わっていただけたかしら?」
「は……い……」
「見た目というのは最大の敵なの。女の子だから、少女だから、弱っているから。そんなものは超能力の前では全く意味を成さないわ。あなたの鋼の身体を貫く、牙を持っているかもしれない。認識は唯一つ。あなたが相対する者は、一息で眼前の全てを撃ち砕く。それが敵なら絶対油断せず、やられる前にやりなさい。それをこれからあなたに叩き込んであげる。覚悟してね」
にっこりと笑う姿は絵に描いた美女なのだが、ついさっき百キロを超える男を振り回していたとは到底思えない。
超能力。わかってはいたが、一筋縄ではいかなさそうだった。
◆
学園での生活は以前高校の寮に入っていた時とあまり違いはなかった。
起床時間は朝六時で、軽い朝礼の後のラジオ体操から一日は始まる。ラジオ体操が終わると七時から朝食になり、食堂に人が集まってくる。食事の時間はだいたい一時間あり、朝は七時から八時まで。昼は十二時から十三時まで。夜は十九時から二十時といった具合だ。その時間に食事が取れない人は、事前に連絡しておけばお弁当を作ってくれる。主に任務で外に出る人が利用するのだそうだ。
圭介はラジオ体操が終わると直ぐに訓練場へと篭った。彼は食事を取る必要がなかったし、その間の時間が暇だからだ。
(今までは人間と同じに動けるように努力してきたけど、これからは違う。人のように動いていてはダメなんだ! 機械の身体を最大限に活かすんだ。全方位の攻撃を察知し、全方位に反撃できるように。自分の身体を支配しろ。お前の身体は『人間』じゃないんだ!)
必死になって人に溶け込めるように努力してきた。一挙手一投足に気を配り、以前の自分の癖が、感が戻るまで毎日練習してきた。今度は逆のことをしている。人以上の可動域を再現し、そしてそれを制御する。目だけではなく、音感熱感広域センサーの全てに気を配っていかなければならない。
それが咲良との一戦を終えて、圭介が出した結論だった。自分の手で宗次郎と椿を救い出すのなら、そこまでやらなければいけないのだと。
「大分動きがキモくなてきたわね。腕が逆側に回っているなんてあまりいい光景じゃないわ」
食事を終えた咲良が訓練場に現れる。朝食の後の軽い運動だと言って、ほぼ毎日訓練に付き合ってもらっている。
「自分でもそう思う。でも、これしか出来ないから」
「そうかな。まああなたの事だから何も言わないけど」
咲良と圭介の歳は近い。闊達な彼女がそのことを知ると、「敬語はやめてね。歳が近いんだから」とのことで、今は敬語をやめている。
「さあ、行くわよ!」
ここ数日わかったことがある。咲良はシンプルを好むということだ。彼女の攻撃は最短距離を最小限の動作で最大級の火力として解き放ってくる。最高速で相手の懐に飛び込んで、一撃で相手を無力化するのが彼女の得意戦法だ。圭介は、大抵一撃目を凌いだとしても二撃目三撃目でふっ飛ばされてしまう。戦法は理解しているのに全く対処のしようがなかった。
今回も全身の関節をグネグネと動かして死角からの奇襲を行ったが、結果は最悪で、攻撃が届く前に一撃目を防げずに終わってしまった。
「あなたねぇ……私の能力に付き合えないからって奇策を用いるのは分かるわ。でも今のはないんじゃない。私は最短距離で拳を放つわ。それなのに、私の攻撃より遅い上に遠回りの攻撃なんて意味ないわよ」
倒れた圭介を助け起こしながら、ダメ出しを行う。
「咲良さんの能力が『硬化と重力増加の怪力』って聞いた時は内心笑ったけど、とんでもないな。凄い怖い。俺、一応一〇〇キロ以上あるんだけど、玩具のように飛んでくのが信じらんないよ」
「……私言わなかった? その『重い』とか『キロ』っていう単語がひじょ~~~~~~~に嫌いだって」
咲良の能力は、肉体を硬化させ重さを増やすことで怪力を生み出している。年頃の女の子には非常に要らない能力なのだが、悲しいことにこの能力には副作用がある。能力を使用した後、僅か二時間ばかりの間体重が激増するのだ。そのため咲良はあまりこの能力を使いたがらない。圭介が頼み込んだことと、元来面倒見の良い性格もあって、こうして練習に付き合ってあげているのだ。
「あ! そ、そういうわけじゃ」
「今日はちょっとスパルタがいいって? しょうがないわねー。みっちり練習に付き合ってあげるわー」
「言ってないから! 普通でいいです普通で!」
「言い訳は殴った後に聞くから」
怒った咲良によってその後一時間弱、圭介は再び地面を踏みしめることはなかったという。
◆
朝食が終わったら、普通なら訓練だったり座学だったりが教師によって行われるのだが、あいにく圭介たちの教師である片平は外出している。それまでの間は自由だ。各々趣味に没頭したり、自主練習等を行って時間を潰している。
片平教室は圭介を新たに加えて五人いる。級長の五十嵐咲良を筆頭に、八木健太、森ゆすら、板倉アサギがいる。八木健太と森ゆすらはメンバーの中でも年長者で、現在二人揃って任務に就いている。片平はその支援のため外出しているのだ。だから、圭介はもっぱら咲良から指導を受けている。外出している片平の代わりにこの学園でのルール、能力者としてのふるまい方、超能力の知識、戦い方、心構え等を教えて貰っているのだ。
朝のじゃれ合い(咲良談)が終わると一旦シャワーを浴び、それから圭介の座学が教室にて開始される。ちなみにアサギは既に教室の隅で読書に没頭している。昨日ようやく同じ室内にいても警戒されなくなった。
「学園の設立については昨日話したわね。次は……じゃあこのブレスレットの事を話しましょうか。まああなたには必要のないものだけれど」
「それ、この学園で流行ってるファッションかと思ってた。みんな付けてるから」
咲良の左手首には腕時計よりやや大きめの、地味なブレスレットが嵌められている。それを自分の胸元まで上げて、圭介にもよく見えるようにかざした。
「これはこの学園にいる超能力者全員につけることが義務付けられているの。名前は超能力感知システム――Psychic sensing system――略してPSS。シンプルでしょ? 装着者の能力の発動を感知して、学園にあるコンピュータにそのログが蓄積されていくの。誰がいつ使ったのか、その記録が残るわ。この学園内では使用は基本的に禁じられていないから、問題なのは学園外での使用ね。使用の際にこの機器で承認コードを送って、承認されて初めて能力を行使できるようになる」
「承認……。それを無視して外で使ったらどうなる」
「四つの段階に分けられる。二ヶ月半の謹慎。一年の軟禁。能力の封じ込め。撃滅。超能力っていうのがどれだけ危険視されているかわかるでしょう?」
「それはわかったけど、三つ目の能力の封じ込めというのは。そんな装置が開発されてる?」
「んー、そうね。流石にそんな便利なものは開発されなかったわ。理論としてはあるみたいだけど、技術部が開発に難航していて当分は無理そうね。それでその方法なんだけど、ある監獄に送られるの」
「監獄?」
突然現実感のある言葉を言われて、思わず戸惑う。
「だけど超能力者だろう。監獄なんてすぐに出ることができるんじゃないのか?」
「無理よ。監獄は隠された無人島にあって、システムは堂島製、警備は武器を携えた者達でされているわ。その上この学園の卒業者から志願者を募って、監獄の警備について貰っているの。収容されている者たちの能力は全て把握されていて、対策は完璧よ」
「それは……絶対に行きたくないところだな」
「そうね。さっきも言ったけど、厳密には能力者ではないからあなたには無縁の話よ。とは言え、自分勝手な行動は十分処罰の対象になり得るから気をつけてね」
外。圭介がこの学園で生活を始めてから一週間。日に日に攫われた二人への不安感が増大していく一方だ。それは日々焦りとなって溜まっていく。
その焦りを思わず口に出してしまった。
「俺は、いつになったら任務に出られる。俺はやらなきゃいけないことがあるんだ。ここでいつまでもグズグズしていられない。片平先生はいつになったら戻るんだ」
立ち上がって訴えかける圭介。その様子を冷ややかな目で咲良は見る。まるでそんな事などお見通しだというような目だ。
「焦ったってしかたないわよ。あのクソッタレ結社の明確なアジトだってまだ判明していないんですから。それにね、私に勝てないくせに作戦に参加したって、単なる足手まといにしかならないんだから。あんな変にグニャグニャ動いたって、倒す事も、守る事も出来ない。ただのお遊びよ」
「なんだって……!」
「怒るの? 最初に言ったわ。私にとってあれは腹ごなしのじゃれ合いだって」
「…………」
一触即発の気配が漂う。そのただならぬ気配に反応したアサギが、小さく悲鳴を上げて縮こまる。
圭介も咲良も何も言わない。ただジッと睨み合うだけだ。
しばらく睨み合った後、咲良は何かを決心した様子で、
「……圭介、本気なの? 本気で自分の手で博士たちを助けたい。そう思ってる?」
気配を少し和らげ、諭すように質問する。その咲良の真摯な口調に圭介も怒気を収める。彼女の質問の意図は図りかねたが、答えは決まっている。
「もちろん。俺は本気だ。俺の……残された、たった二人の家族なんだ。どうしても助け出したい」
「そう……」
咲良は教壇を降り教室の戸口に立った。そして。
「そこまで言うならいいわ。片平先生が戻ってくるまで、あなたを一端にしてあげる。ついてきなさい、訓練場に行くわよ……の前に食事の時間だわ。アサギ! 一緒に行きましょ! 折角だから圭介も付き合いなさい」
現在時刻は十二時を少し過ぎている。昼食の時間だ。間を外されたような形だが、こればかりは仕方がない。
圭介は実のところ食堂には一度も足を運んでいない。食べる必要がないというのが理由だが、食べられないから行かなかったのだ。何も口にしなくてすでに二年経ったが、未だに未練がある。だから近づかなかったのだ。
当然今の咲良の申し出も断ろうとしたが、何故か断ることが出来ず、場の勢いもあって結局なし崩し的に食堂まで来てしまった。しかもあんなに避けられていた板倉アサギも伴ってだ。
板倉アサギ。この謎の多い少女とは最初の挨拶以降まったく接点がない。ほとんど咲良と付きっきりで一日を過ごしているのも理由の一つだが、圭介は出会った時の様子から怖がられていると思っていた。だから自分から近づこうとは思わなかったし、彼女の方も近寄ってくることはなかった。最近は圭介の姿を見ても驚かなくなってきたが。とは言え僅か一週間で同じテーブルを囲ってしまうくらい慣れるのが早いとは知らなかった。
焼き魚定食のご飯をせっせと運んで食べているのを見て、意外とこの娘は図太いのだろうかと考えてしまう。アサギの隣で焼きそばを口いっぱいに頬張っている咲良は、間違いなく図太い方だろう。
二人が食べ終わるまでの間、改めて食堂にいる人々を見渡す。学園内には様々な年齢の人が在籍していると聞いていたが、パッと見ただけで下は十歳以下から、上は三十歳以上はあるだろう。幅広いなんてものじゃない。それだけこの場所が特異ということなのだろう。
(超人たちの『楽園』か)
どの年齢だろうと、彼らはその殆どが親元から『逃れて』来た者たちだ。彼らにとってここは唯一の寄る辺であり、家族であり、仲間であり、友であり、帰るべき場所なのだ。ここはまさしく『楽園』と呼ぶにふさわしい場所だろう。きっとこれより先もここ以上に安定と安らぎを、超人たちに与える場所は出て来ない。そんな予感がする。
まだ二人は食べ終わらない。それまではこの人間観察も悪くない。さっきの怒りを忘れるために、少しゆっくりしたかった。