第二十二話 鋼鉄の運命 ⑥ ◎
バリアとの衝突で生じたエネルギー波。それは圭介の身体に僅かながらに影響を与える。視覚と聴覚にノイズが発生し、伝達系に僅かな遅れが見られた。
だが、すぐにそれを復旧させると、圭介は更に出力を高めた。いまや完全に圭介の意志のもと、発電炉と演算器は稼働している。
意志の力は、彼の周囲を回る衛星に作用する。衛星ミカボシはその形を変え、球体がぱっくりと割れると、その中から細長い筒が飛び出した。砲身だ。ミカボシは自動小銃へと変形したのだ。
更に圭介の両腕にも長く大きい筒が出現する。バルカン砲だ。手元から伸びるチューブは圭介の胸部へと伸びており、そこからエネルギーを直接供給している。
「名付けて、ビームバルカンってところか。こんだけデカイんだ、少し派手に行く!」
トリガーを引くと、砲身が高速回転をし始める。同時にマシンガンへと姿を変えたミカボシも、辺り構わず銃撃を開始する。弾丸一発一発が高熱のエネルギー弾だ。飛行船の装甲に当たると弾け、一瞬にして焦がす。
バルカン砲が文字通り火を噴くと、小規模な爆発が着弾地点で巻き起こる。圭介が立っている甲板は、その衝撃に関わらず揺れることはない。恐らく何か別の方法でこの船を固定しているのだろう。だがそれは好都合だ。逃す気はない。
ところ構わず破壊を続けていると、飛行船の方で動きがあった。今まで沈黙していた主砲や副砲たちが動き出したのだ。
「慌てているな。だがここは甲板の上だ。当てられるものかよ!」
とはいえそれが別の目標に使われてしまえば面倒なことになる。早々に使い物にならなくしてやるのがいいだろう。そう思ってバルカン砲の砲身を主砲へと向ける。
しかし動き始めているのはそれだけではなかったのだ。
この飛行船は通常の船ではない。超能力者によって設計、開発されたものなのだ。よって、その本来の役目は対超能力者戦に特化している。当然あらゆる能力、状況に対応出来るようになっていた。甲板の上に大胆不敵にも乗り込んでくるような相手に対しても、だ。
少火砲が無数に甲板からせり上がってくる。あるいは取り付いたものを自動で攻撃する、浮遊兵器が目標を補足し、円盤のように刃を回転させて圭介に迫った。
「まとめて破壊してやる」
ミカボシが接近する浮遊兵器を次々と撃墜し、圭介のバルカン砲が甲板を根こそぎ焼きつくす。弾丸は無尽蔵だ。なにせ無尽発電炉ジンライから直接エネルギーを得ているのだ。もはや秒間に何発を撃っているのかもわからない程、出し惜しみ無しで発砲を続けている。
辺りは熱波と爆発で生じた黒煙でいっぱいだ。飛び散った装甲の破片が船の周囲でキラキラと舞っている。圭介はこれを待っていた。
ミカボシの一つが急にはじけ飛ぶと、強力なジャミングを行った。
それに乗じて素早く甲板から飛び降り、再び飛行を開始する。目立つ場所に、目立つやり方で降り立ったのはこれが目的だったのだ。そのまま飛行船の裏へ回りこむ。
(鬼人投入のハッチはそこか!)
時間はあまりない。ハッチに取り付くと、圭介は力任せに腕をねじ込んだ。ギギギギッと、機械が軋みながらゆっくりと入り口が広げられていく。
圭介一人が通り抜けられるほど広がると、即座に中に潜り込んだ。
「制御室はどっちだ!?」
すぐ側の開閉パネルを右の拳で殴りつける。電気が一瞬爆ぜる。次の瞬間には飛行船内の構造は全て圭介によって解析されていた。
彼の体を構成している増殖装甲ヒヒイロカネはナノマシンである。物理的な接触でナノマシンを送り込み、それによって量子演算器への中継とし、データのハッキング及び解析を行う。彼に備えられたあらゆる特殊な技術が、そういった『超常』を可能なものにしているのだ。
圭介が通路の扉をハッキングによって開かせると、すぐに鬼人と武装した超能力者が待ち構えていた。それぞれに銃を持ち、鬼人に至っては鎧のようなものを装備している。
敵は警告も無しに攻撃を開始した。
「そこをどけぇ!」
ミカボシが物理的エネルギーを伴い、光弾となって飛来する。鬼人は一旦無視し、武装した超能力者たちを容赦なく打ち据える。奇襲を掛けるところが、逆にし返さえて浮足立つ。が、鬼人はそのまま圭介へ飛びかかってきた。
ミカボシの打撃では鬼人を止められないのは織り込み済みだ。迫り来る鬼人に、両の手のひらを突き出す。
「手っ取り早く無力化させてもらう」
手のひらは鬼人の頭を捉える。そして、人の耳の奥を震わせるような超音波を手のひらから発生させた。その周波数は鬼人の頭蓋を揺らし、脳を振動させ機能を停止させる。鬼人たちは泡を吹いて崩れ落ちる。不殺傷の武器だが恐るべき効果を発揮する。
超能力者には能力を使わせる前にミカボシが打ち倒し、耐久力の高い鬼人は圭介の超音波の掌底で次々と撃退されていく。その場にいる兵力は瞬く間に鎮圧してしまった。
そしてまた行動を開始する。目指すは制御室だ。バリアの機能停止も目的だが、このクソッタレな物体は学園の頭上にあっていいものではない。この船の制御を乗っ取り、外洋に出すつもりなのだ。圭介にはそれを行う力が備わっている。制御室からならば、より正確に早く事を起こせるだろう。
既に覚悟は決まっていた。
ハッキングして取得した船内見取り図に従って移動していると、警報が鳴り響いた。警告が赤く明滅し、通路のシャッターが勢い良く閉じていく。
「気づくのが遅いな。内部に入れたあんたたちの負けだ」
隔離されたブロック内の防衛機構が動き出すが、すぐにミカボシが破壊する。
だがおかしい。先ほどまでまったく動きのなかった船が、突如として動き出したのだ。圭介の耳に、機械が動く音が聞こえてくる。何が起こっているのか判断しかねて、彼の動きは止まった。
壁に手を突っ込み、中の配線に手を触れる。再びのハッキングだ。しかし、なぜか何も反応がなかった。
「しまった! このままこのブロックを排出するつもりか」
あらゆる状況を考えられて作られたこの飛行船タケミカヅチ。このような緊急事態も想定内だとでもいうのか。
「だったら力づくで押し通るっ」
扉に向かって拳を叩きつける。しかし破ることは出来ない。恐らく別のバリア、結界のようなものが張り巡らされているのだろう。
この切迫した状況で解析している余裕など無い。圭介は更に力押しの手段を取った。
全エネルギーを右拳に集中させる。拳はエネルギーの高まりと共に、白く、どこまでも熱くなっていく。そのままゆっくりと扉に押し当てる。
バチバチと一瞬の火花が激しく燃え上がり、次に扉が融解して消滅する。圭介はすぐに飛び込んで、次々に扉を破壊しながら、一直線に制御室へ進んだ。




