第二十一話 鋼鉄の運命 ⑤
2015/09/08 誤字訂正しました
「PK1からの通信、途絶えました……」
部下の言葉に愕然とする。ソルは双子の片割れを仰ぎ見た。アルもこちらを見下ろしている。
マズイことになった。と、二人は同時に思った。
PK1にはある特殊な機能が付けられている。それはアカシックレコードへの干渉を瞬間的、一時的に行う事ができる、アカシャの擬似録という機能のことだ。板倉アサギを捕まえるための虎の子の一基を、彼に搭載していた。
「ホワイトにはなんて言えば……」
「けど、あいつを投入するのを決めたのはホワイトだ」
「あいつを調整したのは僕達だぞ。病院での一件から、アダマンタイト・アーマーの性能だって向上させた。あいつは負けるはずがなかったんだ」
「……まさかアカシャの擬似録を使わなかったなんて。あれを使っていれば勝てていたはずだ」
「分からない。あんなにもあっさり負けるなんて……」
二人は何よりもホワイトからの懲罰を恐れている風だった。この作戦の成功の成否などさして興味が無いといった感じだ。
アルとソル。同じ顔をした人物は、そこが他のメンバーよりも違っていた。組織に忠を尽くすのではなく、ホワイトという個人に忠を尽くしている。そして、その意識の違いが一瞬だけ反応を鈍らせてしまった。
警戒アラートが船内に鳴り響く。二人は弾かれたようにモニターへと視線を移す。
「空挺直上! なにか来ます!」
「そ、速度……マッハ一! 着弾まであと十秒!」
観測手たちの悲鳴にも似た叫びが飛び交う。
「き、緊急回避ーッ!」
「間に合いませんっ」
「着弾まであと七秒!」
「バリア全エネルギーを空挺上部へ回せ!」
アルのものなのか、ソルのものなのか、指示が同時に交わされる。観測手のカウントは無慈悲にも過ぎていき、動揺は計り知れなかった。
間一髪のところで支持が通ったのか、飛空艇を守るバリアが上部へと展開されていく。それは明らかに目で見えるほど強固であり、同時にとてつもない熱量を持っていた。
「バリア全エネルギー集中!」
「バリア接触まで四秒……三……二……一……!」
「た、対ショック防御ーー!」
飛空艇に飛来した何かは音速の勢いを持って、飛空艇を守る次元の断裂へと衝突した。
――その瞬間、バリアは凄まじい衝撃と共に完全に打ち破られてしまった。衝撃波は数百キロ、数千キロにも及んだが、それは物質的なエネルギーを持っていなかった。もっと別の、人や生き物の精神や魂に影響を及ぼすような、そういったエネルギーが今の瞬間に発生したのだった。
飛空艇が大きく揺れる。アラートは今なお止むことはなく、逆に、今の衝撃で引き起こされた損壊を伝えてくる。
モニターはひび割れながらもまだ動いている。通信士は打ち身で痛む体を抑えて、着弾地点の映像を映しだした。
そこに立っていたのは人間だった。いや、全身の機械がむき出しになっている人型。アンドロイド、サイボーグ。そういった類の物が、飛空艇の甲板に二本の足で堂々と立っているのだった。
「ど、堂島……圭介……」
「堂島博士が残した……最終兵器か!」
新たなアラートが告げる。堂島圭介から、超高圧の熱源が感知された事を知らせるものだった。




