遥と理樹
テーマは『アクセサリー』でした。
高嶺 遥のもとには、ひっきりなしに贈り物が届く。誕生日やクリスマス等のイベントは勿論のこと、なんでもない日にも、彼女の“ボーイフレンド”たちから、花といわず宝石といわず、やたらと届くのだ。
遥の表向きの職業は心理カウンセラーである。彼女は特に上流階級の顧客も多いが、それだけが原因ではない。
遥には、人とは違う特殊な能力がある。
テレパシーと、洗脳だ。
そして彼女はその力を使って、女性蔑視の傾向にある男性を虜にすることを喜びとしているのだ。
足下に積み上がった大小様々な箱に目を遣り、遥の夫、高嶺 理樹はため息を吐いた。
遥が贈り物の中身を確認することは殆どない。いつも、整理するのは理樹の仕事だ。お陰で理樹は、フラワーアレンジメントからドライフラワー作りまで出来るようになってしまった。
色鮮やかな包装紙を丁寧に剥がし、中身を確認してクローゼットにしまう。遥は誰が何を贈って来たか知らないが、そこは能力者、相手に会った時には話を合わせる事ができる。
理樹は、手の中に隠れるほどの小さな箱を一つ持って、ソファで寛いでいる遥に声をかけた。
「これは遥が開けるといい」
ぬっとつき出された小箱を見て、遥は首を振る。
「嫌よ」
「お義父さんからだ」
「だから嫌なの」
こんな時の遥は聞き分けのない子供のようだ。遥の実の父は、水商売の男で業界では今もカリスマと言われているが、遥を身籠った母を手酷く捨てた経緯があり、父子が再会を果たした後も、遥は彼を赦してはいない。しかし、こうしてことあるごとに彼女に贈り物を用意する父親の方は、遥に対し贖罪の念があるようだ。理樹としては、なんとか二人の仲を取り持ってやりたいと思っている。
嫌がる遥に無理やり小箱を渡し、理樹は隣に座ってそっと妻を抱き寄せた。
遥は渋々箱を開ける。中には、ピンクとも薄茶色ともつかない宝石の、大振りのペンダントヘッドが入っていた。
「トパーズだわ。安物よ」
不貞腐れたような遥に、理樹は低く囁いた。
「きっとよく似合う」
その宝石の色に似た彼女の髪にそっと頬を埋めながら……。