巽と王(ウォン)
テーマは『ヘミングウェイ』でした。
文豪ヘミングウェイは、酒豪としても知られている。彼の愛したカクテルは幾つかあるが、その中でも有名なのはフローズンダイキリだろう。
一見、白っぽいかき氷のようなそれは、しかし迂闊に手を出すと思いの外アルコール度数が高い。
かき氷のつもりで食べると大変な目に遭うので、要注意。
ミキサーの中に、たっぷりの氷とホワイトラム、ライムジュース、グレープフルーツジュース、マラスキーノを入れスイッチを押す。
「かき氷?」
巽 幸星が目敏く寄ってきて、ジェームズ・王の傍らに陣取る。興味津々といった様子で期待に目を輝かせる彼に、王は苦笑を漏らすより他ない。
「まぁ、そんなようなものだけど。食べてみるかい?」
出来上がったフローズンダイキリをティースプーンで掬ってやると、巽は雛鳥のように口を開けた。
恋人同士の甘いやりとりというより、雛に餌をやる親鳥の気分にさせられるのは、なぜだろうか。
王の悩みを他所に、フローズンダイキリを口にした巽は、途端に目を白黒させた。
「お酒!?」
「そうだよ。きついかい?」
激しく首肯する巽は、あまり酒に強くない。すぐに眠ってしまうのだ。
王は形のよい唇に微苦笑を湛えたまま、巽の為にもう一つフローズンダイキリを作り直す。ラムは香り付け程度にして、グレープフルーツジュースとガムシロップを足す。殆どグレープフルーツのシャーベットみたいなフローズンダイキリの出来上がりだ。
「テラスで飲むかい?」
「うん!」
大きめのワイングラスにたっぷり注いだものを盆に乗せて、テラスに誂えたテーブルに運ぶ。
西海岸の強い陽射しがまだまだ夏は終わらないことを告げていた。