巽と白竜
テーマは『菊』でした。
王家のキッチンは広い。それはそれは、とても個人の邸宅のものとは思えぬ程で、豚が丸ごと焼けそうなオーブンや、中華料理屋並に火力の強いレンジ、広い流し台、壁一面に掛けられた大小様々な鍋、常に百人単位のホームパーティーが開けるよう揃えられた食器類を全て収納できる備え付けの棚。それらがぐるりと取り囲んだ真ん中には、大理石の天板が美しい大きなキッチンテーブルがある。
キッチンテーブルの上に、洗い上げられた薄紫色の花が笊いっぱいに盛られている。それも、三つ。
「これなに? 食べるの?」
「はい。もってのほかです」
王家の優秀な執事である白竜の答えに、訊ねた巽の目が点になる。白竜は英語中国語のみならず、日本語にも堪能で、こんな可笑しな言い回しをするはずがないのだ。
「食べないの?」
どう解釈していいのか迷ったあげく、困ったように聞き返す巽に、白竜はにっこりと微笑んでみせた。
「食用菊でございます、巽さま。品種名を『もってのほか』と申します」
「ああ~~。そういうことかぁ」
巽は合点がいったと大きく頷く。その様子が何やら小動物の仕草のようで愛くるしい。白竜はついつい、目を細めた。