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不器用皇太子と妃の物語

不器用皇太子と勘違いな妃の物語

作者: 三都花実

「皇太子殿下万歳っ!皇太子妃殿下万歳!!皇太子夫妻に幸あれ!」


 というような民衆の声。民衆の声の先ではピントゥナ国の皇太子夫妻が王城のバルコニーで手を振っている。アルベルト皇太子は軍服にたくさんの勲章がついたものを、メアルリナ皇太子妃はロングドレスにたくさんの勲章をついたものを着ている。アルベルトは皇帝そっくりな顔に褐色の髪に蒼い瞳の美青年であり、メアルリナは母国アンサクレ国王妃そっくりな顔立ちに銀色の髪、翠色の瞳の美少女である。二人は美男美女カップルとして見ている民衆達を沸き立たせる。


「はあ。本当に美男美女カップルだわあ。早くお子がお生まれにならないかしら?きっと素晴らしいお子よ。」


 女がそう呟く。


「ああ。全くだ。早くお二人のお子が見てみたいものだ。しかし、噂では皇太子殿下は政務が忙しいあまり皇太子妃殿下と夜を過ごされてもすぐにお休みになられるそうだ。」

「まあ!新婚なのに。仕方ないわね。我が国の皇帝陛下は少し皇太子殿下に頼りすぎなところがおありだもの。」


 民衆たちはそんな話で盛り上がる。





「よし!今日こそは言うぞ!」


 アルベルトはバルコニーでの定期お披露目の後執務室でやる気に燃えていた。


「はいはい。それは夜にしてくれないかな。殿下。謁見も書類も溜まってるんだよ。」


 側近であり従兄のカイルが言うと、アルベルトは眉間にシワを寄せる。


「なにっ?俺は昨日全部を終わらせたぞ。」

「うん。まあそうなんだけどね。陛下が昨日から白百合の君の所に入り浸っているせいで、陛下の謁見やら書類やらが溜まってしまっていてね、君が陛下と一緒に終わらせてくれないか。」


 カイルが申し訳なさそうに言うと、アルベルトは拳を握りしめる。


「あんの馬鹿!まーた白百合か。...で、父上は執務室か?」


 アルベルトの問いにカイルは答えるのを躊躇う。


「それが白百合の君の所にまだいまして。」

「はあ。なんで父上はあんなに女好きなんだ。」


 アルベルトはため息をつく。アルベルトの父であるピントゥナ帝国皇帝は側室がたくさんいて最近寵愛深いのが白百合の君と呼ばれる女性だ。まあ確かに身目は良いがアルベルトにはただケバいおばさんにしか見えない。







 アルベルトが父と白百合の君がいるであろう部屋の前に立ってノックしようとすると、父の機嫌良さそうな声がする。


「へえ。じゃあメアルちゃんの父君はやっぱりただ一人の側室しか持ってないんだ。勿体無いねえ。」


 これは皇帝の呑気な声。


「全くですわ。国主たるもの侍らす女の数は多ければ多いほどいいでしょうに。」


 これは白百合の君の妙に甘ったるい声。


「皇帝陛下。我が父の話はよろしいのですが、私をお呼びした理由はなんでしょうか?」


 これはアルベルトが内心では愛してやまない妻のいつまでも聞いていたい心地の良い声。アルベルトは不敬などと気にせず、ばんっ!と扉を開ける。部屋では皇帝と白百合の君がメアルリナとお茶をしているようだった。メアルリナはアルベルトの姿を見るとほっとしたようだ。


「こーら。アル。親しき中にも礼儀ありだろう。」


 皇帝のことなど気にせずにアルベルトはメアルリナに近づく。それからメアルリナを立たせる。


「私は父上が中々白百合の君とのお楽しみを中断なさってくださらないというから来たのですが、まさか我が妻まで、くだらないことに巻き込んでるとは思いませんでした。」


 アルベルトはぞくりとする冷淡な瞳で皇帝と白百合の君を見る。皇帝はにこにこしているが、白百合の君は軽く怯えている。


「白百合の君。貴女も側室であるならば、陛下のためにあるべきでしょう。以後このようなことがあれば、今後は庇いだていたしません。」


「そろそろ、仕事に行くよ。じゃあね、白百合。アルベルト。君は大切な奥方を部屋まで送ってやりなさい。大丈夫、君の代わりにカイルに見張っててもらうよ。さ、カイル行こうか。」


 皇帝はカイルを連れて部屋を出る。アルベルトは黙ったままメアルリナを部屋に連れて行く。


「姫。すまない。父とあのろくでもない側室の代わりに謝る。」


 アルベルトは申し訳なさそうに謝る。メアルリナはふわりと微笑む。


「何故殿下が謝られるのですか?」

「姫にアンサクレ国王の事を聞くなんてきっと嫌な事を思い出させただろう。」


 アルベルトの言葉にメアルリナは一瞬辛そうにしてからにっこり微笑む。


「昔々ある所にとっても愛し合っている夫婦がいました。それは周りが見ていて幸せになるほどの幸せぶりでした。2人には可愛い可愛い子供たくさんいました。そうして2人はいつまでも2人で幸せになったのです。めでたしめでたし。...それが私の父とあの側室の方でした。母はいつも言っていました。陛下とあの方を恨んでも憎んでも嫌ってもいけませんと。母は幸せだって。私とアレクシスお兄様のような可愛い子供もいるから、そして、王妃として仕事も出来てとっても幸せだって。しかもあの父も謝ってくださったんですよ?滅多に見れないです。父は自分は間違った事はしてないって信じてますからね。でも、そうですね、幼い頃は辛かったのかもしれません。でも私には父の代わりにアレクシスお兄様がいましたし。だから、」


 メアルリナが言葉を続けようとすると、ぎゅっとアルベルトに抱きしめられた。メアルリナは目を丸くする。アルベルトは決してメアルリナに手を出そうとはしなかった。一緒の寝台で寝ていても文字通り寝ているだけだ。2人は未だに男女の関係には至っていないキスだって儀式などで必要になった時だけ。


「姫。すまない。俺はどうしようもない大馬鹿な夫だ。きっと今までたくさん貴方のことを傷つけている。俺はこんなにもー」


 アルベルトが言葉を必死に紡ご うとすると、扉がばんっ!と開く。


「お義姉様!大丈夫ですか?あの馬鹿側室とお茶をしたって聞きましたけど。って、あら。お邪魔だったかしら?ほほほ」


 入ってきたのはアルベルトの同母妹のアメリアだった。アメリアが入ってきて、アルベルトは我に戻る。そして、珍しく顔を真っ赤にする。そして、ぱっと体を離す。


「アメリア。お前も一国の王女なのだから少しは礼節をわきまえなさい。姫。」


 アルベルトはアメリアを嗜めると、ふと妻に顔を向ける。妻は顔を真っ赤にしたまま固まっている。


「ひ、姫?」


 アルベルトはそんなに自分に抱きしめられたのが嫌だったのだろうかと内心焦る。メアルリナははっと我に戻る。だが、顔は赤いままだ。


「わ、私、ちょっと用事が。殿下、失礼致しますわっ。」


 メアルリナは部屋を出る。残されたアルベルトは顔を真っ青にする。


「あーあ。お兄様ったら度が過ぎるスキンシップは嫌われますわよ。もう急に積極になるのですから。お兄様も流石、お父様の血を引いてらっしゃるだけあってやる時はやるんですのね。手が早いったらもう。」


 アメリアは呆れたように言う。アルベルトはアメリアを睨む。


「やかましいっ!誰が手が早いだ、誰が。俺はまだ手だって繋いでないんだぞ。あの色狂い王と一緒にするな!」


「ええっ!まだ手も繋いでないって。どこぞの町の坊やの恋愛じゃないのですから、さっさと進んでくださいませ。」

「お前さっきと言ってることが違うじゃないか。もういいっ。俺は政務に戻るっ!」


 アルベルトはそう言って怒って部屋を出る。





 その頃のメアルリナはというと、顔をまだ真っ赤にしている。


(きっと殿下は変に思われたわ。でも、急にあんなことされるとは思わなかったのだもの。)


 メアルリナはアルベルトが気を遣ってメアルリナを慰めるためにあんなことに及んだと思っていたのだ。とんだ勘違いである。アルベルトはメアルリナの話している様子で辛抱ならなくなって抱きしめたのだから。


 どこまでもすれ違う夫婦なのであった。














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