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98.襲撃、そして――

     バサバサ

   ,,_

  ミシ㌻

  '^"

 暖かさをほんのりと宿した日差しが枝葉の隙間を抜け、木漏れ日が森の中を微かに照らす。

 生い茂る枝葉が天然の天蓋となっており、それに加えて雪解けの季節も近付いている為か。

 森の中には積雪の痕跡はほとんど見られない。

 春の到来も間近といった所か。


「足跡が見付かれば良いんですけどね……」


 日差しが阻まれる森の中は流石に肌寒く、白い吐息を吐きながら二人は奥へと進む。

 ドラグノフと同行した女性魔族は、周囲を見渡す。

 周りにお目当ての黒獣の姿が見当たらなかったので、臭いを辿ろうと鼻を小さく動かす。


「臭いは……うーん、ここ風上みたいですね。臭いも分からないです……」

「臭いなんか分かるのか、すげーなお前」

「いっ、いえ! ドラグノフ様と比べたら私なんか全然大した事無いというか、比べるのもおこがましい位で!」


 コボルトは犬やオオカミの身体的特徴の一部を受け継いでいる。

 その為、他の種族と比べて嗅覚は鋭敏に鋭い。

 そんな彼女の特技に素直に感心するドラグノフ。

 褒められた当の本人は大げさに手を振りながら謙遜する。


「そんな事より早く黒獣を見付けちゃいましょう! 何時までもお店を店長一人に任せておく訳にも行かないですし!」


 そう意気込み、奥へと進もうとする。

 そんな背後から小さな金属音、彼女のすぐ真横を風切り音が通過し、脇に生えた樹木に矢尻が食い込む。

 

「――え?」

「わりーんだけどさ。んなショボい攻撃に当たる程、あたい弱くないつもりだぜ。とっとと出てきたらどうだ?」


 ドラグノフの声に答えるかのように、生い茂った木々の陰から現れる者達。

 数は十数人程、全員が魔族のようだがコボルトやオーガ、エルフやオークなど種族はてんでバラバラの混成である。

 各々が弓や剣や槍で武装し、ドラグノフ達の周囲を包囲するように散らばる。


「単刀直入に言う、一緒に来て貰おうか」

「嫌だって言ったら?」

「力尽くで連れて行くのみだ!」


 ドラグノフの答えを聞くや否や、手斧を振りかぶってオークの魔族がドラグノフに襲い掛かる。

 しかし、野盗と大差ない彼等が仮にも四天王の一角として魔王に仕えるドラグノフに敵う訳が無く。

 隙だらけな胴体に向けて槍を叩き付け、オークを大きく吹き飛ばす。

 一撃を受け、零れ落ちた手斧にドラグノフは視線を注ぐ。


「――何か武器に塗ってやがるな。さてはさっきの矢にも塗ってたな」

「相手は女二人だけだ、全員で掛かれ!」


 リーダー格らしきエルフの魔族の一声で、一斉にドラグノフに向けて猛進するならず者達。

 槍を突き出し、剣を振り上げながら飛び掛かって行く。

 その様子を冷静に見渡し、ドラグノフは空いた片手で女性魔族を掴み上げ、自分の背に隠す。


「しょうがねえか、ちっとばかし痛い目見て貰うぜ!」


 破魔の槍、ガジャルグを構えたドラグノフは、迫り来るならず者達目掛け力任せに槍を一薙ぎした。



―――――――――――――――――――――――



「くっ、くそっ! こんなに強いなんて聞いてないぞ!?」


 易々と、一撃で徒党をあらかた壊滅させられたせいか、リーダー格のエルフの魔族は恐れをなし、背を見せながら逃げ出す。

 戦意を失った者には興味ないとばかりに、ドラグノフは何をするでもなく逃亡する彼を見送る。


「ちぇっ、逃げる位なら最初から襲うなっての。男の癖にだらしねえなぁ」

「――えっ、あれ? この人……」


 女性魔族が、先程ドラグノフの一撃で一掃された内の一人、コボルトの魔族の倒れた姿を見て疑問符を浮かべる。


「何だ? 顔見知りか?」

「えっ、あ、はい。この人、私の働いてる店の常連だった人です。最近急に来なくなったから、どうしたんだろうって思ってたんですけど……」

「くっ……ううっ……!」


 地に伏したコボルトの魔族が、低く唸る。

 ドラグノフが手心を加えたお陰で、どうやら命に別状は無いようである。


「えっと、ここは一体……?」

「あの、大丈夫ですか?」

「キミは……確か憩いの時で働いてる……うぐっ」


 女性魔族の呼び掛けに、コボルトの魔族は反応を示す。

 勢い良く襲い掛かってきた先程とうって変わって落ち着いた応対で、まるで憑き物が落ちたかのようである。

 しかし、再び彼の様子が豹変する。


「新たなる魔王陛下の前に跪くのだ! 我等と一緒に来て貰おうか!」


 手近に転がっていた剣に手を伸ばし、柄を掴む。

 剣を振り上げようとした瞬間、彼の胴にドラグノフの槍の柄が突き刺さる。

 強打を受け、再び彼は意識を失い地面に転がった。


「余計な事すんなっての」

「えっと……この人達、殺したんですか?」

「んー? いやいや殺してはいないよ。ちょっと気を失って貰っただけだぜ」

「何でこの人が……こんな事する人には見えなかったのに……」


 コボルトの魔族を見下ろしながら、女性魔族はポツリと呟く。

 そんな彼女を横目に、深く溜息を付くドラグノフ。


「あーあ、何か白けたなぁ。もう黒獣は諦めて帰ろうぜ?」

「えっ? あぁはいそうですね。それ所じゃ無くなっちゃいましたもんね」


 ドラグノフの意見に彼女は素直に頷く。

 そしてドラグノフは先程意識を失わせたコボルトの魔族を軽々と抱え上げる。


「お前の知り合いなんだろ? 全員は流石にあたい一人じゃ連れていけねぇし、コイツだけちょっと連れ帰るか……帰るぜ」

「……ありがとうございます」


 複雑な表情を浮かべながら、女性魔族は礼を述べる。

 未だに、何でこんな事をしたのか理解出来ないといった様子である。


 倒れた他の魔族達は放り出し、ドラグノフ達は帰路に着く。


「他の人達、大丈夫でしょうか? 森ですから魔物も出ると思いますし……」


 先程襲われたにも関わらず、相手の安否を心配する女性魔族。


「大丈夫だろ。それに――」


 ドラグノフが抱え上げた、コボルトの魔族に視線を向ける。


「あたいの勘だけど、何か嫌な予感がするからな。さっさと引き返した方が良さそうだ。コイツ、一度まおーの所に連れて行くけど良いよな?」

「えっ、と。そうですね……ドラグノフ様を襲ったんですから、そうなりますよね……」


 分かってはいるが、割り切れない。といった悲しげな表情を浮かべる女性魔族。

 そんな彼女の頭を軽く撫でるドラグノフ。


「大丈夫だって、悪いようにはしないからさ。何となくだけどコイツは悪くない気がするんだ」

「本当ですか?」

「本当本当。だから早く帰ろうぜ、黒獣の切り身は駄目だったけど他の食わせてくれよ」

「そうですね。じゃあ私も店長に負けないように腕によりを掛けて頑張りますよ!」


 気合を入れ、小さく鼻息を漏らす女性魔族。


 しかし彼女は忘れていた。

 行きがそうなら帰路も当然、ドラグノフによる快適な空の旅が待っている事を。

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