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88.レオパルドの遺産

     γヽ⌒ へ

    __{ /ノしノ}i _)__

   / jcj* ゜ ー゜ )し/\

 /| ̄ ̄ ̄∪∪ ̄|\/

   |   すりぃ   |/


 機械技術。


 かつてこのレオパルドの地がまだ人間の物だった頃、この地に住まうレオパルドの民が使っていたという魔法とは違う異文明。

 邪神――否、死したレオパルドの民から、私はこの場所を教えられた。

 普段使わないような物が収納されているのか、埃の被った荷物が積み上げられた倉庫内。

 以前教えてもらった通り、壁のレンガの一部を押し込む。

 何度も往来した為か、この昇降設備の操作も足元の揺らぎにも慣れてきた。

 この部屋に置かれた荷物諸共、無機質な稼動音と共に足元の床が下がっていく。

 天井が遥か遠くに遠退き、再び足元が揺らぐ。

 太陽光とは違う、温かみを感じぬ無機質な光が室内を照らす。

 この光もどういう原理で灯っているのだろうか?

 魔法かとも思ったのだが、レオパルドの民は魔法が使えないと言っていた。

 肩から提げた、一丁の銃に視線を落とす。

 託されたこの銃という武器といい、この場所といい、レオパルドには謎が多く残されている。

 魔法とは違う、何か別の力を拠り所に繁栄していたのではないだろうか?

 素人ながらもその程度は推測出来るが、所詮私程度の考えではここまでが限界である。

 これ以上の考えは学者達が考える事であり、私の考えが及ぶ物ではない。

 あまり考えていても仕方ない、先に進むとしよう。

 通路は煌々と照らされており、迷う事も障害物に足を取られつまずく事も無い。

 「誰か」の部屋とやらに行けと言われた。

 罠がある訳でもなし、素直に従うとしよう。



―――――――――――――――――――――――



 頑強な金庫のある場所の真後ろ、昇降場所から更に10メートル程奥へ進んだ先に木製の扉がある。

 開けた先には子供ですら両手を広げれば両脇の壁に手が届いてしまいそうな、小さな小部屋がある。

 そのまた奥に再び同じ様な木製の扉がある。

 この扉を開けた先が、射撃練習場となっている。

 二重に扉が設置されているのは、恐らく防音の為だろう。

 銃は発射時に耳をつんざくような激しい射撃音が伴う。

 その音が外部へ漏れないようにする為にこのような間取りの部屋となっているのだろう。

 「誰か」が言っていた部屋はこの射撃練習場の奥にある。

 その扉はここに何度も通う最中何度も見ていたのだが、

 下手に教えられた場所以外をうろつくとどんな目に遭うか分かった物ではない。

 好奇心は猫をも殺すという言葉もあるし、見えてはいたが気にしないようにしていた。

 その部屋に行けと言われた。

 念の為銃に手を添えながら、ドアノブを回す。

 内部の金具が錆びているのだろうか? 多少回すのに力が必要だったが、難なく扉は開いた。

 射撃練習場であるここに入る際の扉も、最初は同じ様に錆び付いている様子だったが、

 何度か往来している内に錆びが擦れ落ちたようで、自然に開くようになった。

 ここも、数百年単位で人の手が及んでいなかったのだろう。

 扉を開けると、埃っぽい空気が鼻腔をくすぐり、軽く咳き込む。

 風は流れておらず、完全に閉ざされた空間だ。

 ここには明かりが灯されていないようで、後ろから漏れてくる光が僅かばかりに室内を照らす。

 小部屋のようで、壁の一面を棚が占めており、棚には書籍が几帳面に収められている。

 右角には机が置いてあり、その上には数冊の本が重ねて置かれある。

 その脇には足の折れた木製の椅子が床に転がっており、足元には埃が堆積し、往来の断絶を物語っている。

 うーん、射撃練習場から漏れてくる光量でも室内を照らすには十分だけど、色々調べるには光量不足な気がする。

 何処かに光源は無いかな……?

 周囲を見渡してみる。


 カチリ、と背後から音がする。

 背筋に悪寒が走り、咄嗟に背後を向き、肩に掛けた銃に両手を伸ばし、音源に向けて銃を構える。

 この場所は私以外はアーニャの中にいた者と、一度一緒にここを訪れたカーミラ以外知らない。

 それにここの昇降場所を使う際に室内に他の誰かがいないか毎度一瞥している。

 この場所は魔王達すら知らない忘れられた場所、知られる訳には行かない。

 アーニャの中の人もここが大衆に知られるのは望んでないように思えた。

 一体誰が――


 金具の軋む音と共に扉がゆっくりと開く。

 扉の奥から現れたのは、アレクサンドラであった。


「――アルフ、お前は一体ここで何をしている?」


 澄み切った空色の瞳には疑念の色が浮かんでおり、こちらを不審に思う様子で見やる。


「この奥に用があったんですよ。それから、どうしてアレクサンドラさんがここにいるんですか?」


 部外者の音に驚き、銃を構えてしまったが。

 一先ず知っている人物の姿が確認出来、構えた銃を降ろして一息付く。


「お前の姿がこの魔王城やあのカーミラの城の何処にも見当たらない時が以前から何度もあったからな、気になって後を付けて来たんだ」

「一応誰もいないか確認はしたんですが……」

「あんな素人の適当な確認、簡単にやり過ごせるに決まってるだろう」


 勇者様にそう言われてはごもっとも、としか言えない。

 彼女は既に敗れた身とはいえ、あの勇者様なのだ。

 銃を手に入れた以外はただの一般人である私と比べて戦闘経験には雲泥の差がある。

 私の目を振り切るのなんて造作も無いのだろう。


「もしかしてここから抜け出せる手段があるのかもしれないと思って来たのだが……ここは他の出口と通じていないようだな」

「残念ですがそうですね」


 この場所を往来するようになってから、その疑問は一番最初に湧いて確認済みである。

 アーニャを元に戻す手段こそ分からないものの、ここは魔王にすら知られていない忘却の地。

 ここに出口があるなら、アーニャと一緒にこの魔王城から抜け出せるかもしれない。

 だがそんな淡い期待も「無い」というアーニャの中の人の簡潔な一言でバッサリ両断された。

 続けて、「そもそもここはレオパルドの最重要機密事項の収められた場所だ、そんな所が外部と繋がっている訳が無いだろう」との事。

 言われてみればその通りである、ここは王宮などの宝物庫に当たるような場所なのだろう。

 そんな場所に他の出口を付けたら、どうぞ盗みに入ってくださいと言っているような物である。


「それにしても……一体何なのだここは? お前の持っているその武器といい、訳が分からないぞ」

「ここは、レオパルドがまだ人の住む地だった頃の名残だそうですよ」


 周囲をキョロキョロと見渡し、疑問符を浮かべているアレクサンドラに答えを投げ掛ける。


「遺構という訳か……しかしレオパルドの民はこんな奇妙な空間で一体何をしていたんだ?」


 それは私にも知る由は無い。

 アーニャの中の人ならば知っているのだろうが……

 以前から散々しごき上げられ、銃の使い方を叩き込まれた「あの」者が再びアーニャの身体に現れる事は無かった。

 最後に聞いた言葉を思い返す。

 もしかして、アーニャの中に死者の魂が宿ると言うが、それには時間制限があるのではないだろうか?


 私もそろそろ限界のようだ


 アーニャの中にいた、レオパルドの民の最後の言葉を思い返す。

 無尽蔵に時間があるのであれば、あのような言い方はしないだろう。

 事実、あの後に何度アーニャに呼び掛けても出て来る事は無い。


「まぁこの際それは置いておこう、それでその奥の部屋には何があるんだ?」


 一通り周囲を見終わったのか、話を本筋に戻すアレクサンドラ。

 うーむ、この場所をアレクサンドラに探索させても良いのだろうか?

 カーミラを一度同行させた以上、アーニャの中の人はカーミラには見せても良いと判断したのだろう。

 だが、あの時アレクサンドラはここにはいなかった。

 それに、アレクサンドラがこの魔王城に囚われてからも別にここに連れて来られた事は無かった。

 連れて来る必要が無かったのか、それとも――


 ……もしかして、連れて来てはいけない人物をここに連れて来てしまったのでは無かろうか?


「やましい事が無いなら、私が一緒に行っても構わないだろう?」


 改めてアレクサンドラの目を見る。

 あぁ、これは連れて行かないと文句を言う目だ。

 それに、私の不手際で既にアレクサンドラにこの場所は知られてしまったのだ。

 もう隠した所で意味は無いだろう。諦めも肝心だ。


「分かりました、構いませんよ。この部屋に行けと言われたので来たのですが、明かりが無くて」

「明かりか……この首輪さえ無ければ魔法で出せるのだが」


 忌々しそうに自らの首に巻き付けられた首輪に目を落とすアレクサンドラ。

 指が一本通る程度の緩みはあるが、決して外せないのは分かり切った結論である。


「幸いこの部屋には明かりが付いてる事ですし、部屋から本を持ち出して読んでみますか」


 ざっと部屋を見渡したが、本以外に気になる物は見当たらない。

 恐らくここの書物を読めという意味で最後にここへ案内したのだろう。

 何故か机の上に出しっ放しの本が一番気になるな、そこから調べてみよう。

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