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74.勇者の過去

 私、アレクサンドラ・フォン・ロンバルディアは、ロンバルディア地方の町……と言うには余りにもちっぽけな寒村で生まれた。

 厳しい父親と優しい母親に育てられ、贅沢こそ出来ないものの、少なくとも日々飢えに苦しむような事は無く育った。

 ロンバルディアは、聖王都ファーレンハイトの北方に位置する地であり、

 その大地の大半が永久凍土と化した常冬の地だ。

 木々や作物はまともに育たず、人間所か魔族ですら殆ど近寄らない。

 こんな地に好き好んで暮らす者は居らず、ここに住まう人々は大半が貧困故にファーレンハイトの地で暮らす事が出来ない者達であった。

 この地で暮らす者は、日々の食事にも事欠き。細枝のような直ぐに折れてしまいそうな腕をした者達ばかりだ。

 ファーレンハイトからの支援は期待できず、苦しいなりに皆で手を取り合い、日々を凌いで暮らしている。

 時折、寒い地方に生息する魔物が村を襲ったりもしたが、比較的元気な若者を中心として自警団を組織し、村を守っている。


 私の両親は、元々はファーレンハイト領内で暮らしていたらしい。

 だが、仕事のミスが原因でこの辺境の地へと飛ばされたと聞かされている。

 しかし父はこのような境遇にも関わらず弱音一つ吐かず、

 時に私財を切り崩してでもこのロンバルディアの地に住まう人々に食事を振る舞い、献身的に向き合っている。

 そんな父に村人達は感謝しており、また私もそのような人を父親に持てた事を誇りに思っている。


 だからこそ、私は父の力になりたい。

 だが私は生憎勉学の方は疎く、私に誇れる物があるとすればこの剣の腕と魔法の才覚だけである。

 肉体的にも成長してきたこの頃、村に近寄る魔物程度は私一人でも軽く蹴散らせる程度には力が付いた。

 両親は私の戦闘の才覚を褒めてくれたし、村を魔物に荒らされる事も少なくなり、村人にも少しずつ笑顔が生まれるようになった。

 私がこの村にいれば、もう魔物に怯える生活は無くなるだろう。

 だが、それでは肝心の部分が何も解決されない。


 ファーレンハイトの王は、恒常的に魔族の長でありこの世界の悪の権化――魔王を討つ勇者を募っている。

 見事魔王を討ち滅ぼした勇者には、国王から莫大な恩賞が与えられるという。

 報奨金の額は人一人が一生を過ごせる額など優に超えており、

 一つの町を更地から作れそうな程の膨大な額であった。

 更には国王から爵位も賜るともあり、そうなればこの寒村にも多少資金を融通して貰う事も出来るかもしれない。

 村を放ってファーレンハイトへ向かうのは少し心が痛んだが、両親や村人達は快く了承してくれた。

 それ所か、ファーレンハイトまでの旅路の資金まで持たせてくれた。


 ファーレンハイトの剣術大会で見事優勝し、私は国王から魔王を討つ為、この聖剣を頂戴した。

 魔王さえ討てば、私達人間が魔物や魔族に苦しめられる事は無くなる。

 それに、魔王を討ち取った暁には国王から報奨金も出る。

 そうすれば、私の故郷で飢えと寒さに苦しんでいる人々を救える……

 

 

―――――――――――――――――――――――



 アレクサンドラは、自らの置かれていた境遇、生い立ちを思いで混じりに語る。

 相当苦しい環境だったのだろう、言葉の節々に力が篭っているのを感じる。

 私の住んでいた村は辺境ではあったが、農作物の栽培や家畜の育成などは問題無く出来る環境ではあった。

 作物すら育たない厳冬の地、一体どれ程過酷な環境なのだろうか?

 田舎ではあるが、ファーレンハイトの温暖な地で過ごしていた私には到底分からないだろう。


「だから私は魔王を倒す。倒さねばならないのだ! 私の帰りを待っている村の為にも――」

「あー、そりゃ勝てる訳無いわ」


 そんなアレクサンドラの決意を、真っ向から真っ二つに叩き切るカーミラ。


「色々語ってたけどさ、結局要は地位と金の為でしょ?」

「んなっ!? ち、違う! 私は貧しい村の皆を助ける為に――」

「薄っぺらいわねぇ、そりゃ剣も軽い筈よねー。地位と金目当ての勇者なんかに負ける訳無いじゃない」

「カーミラの言う通りだな」


 ケラケラとアレクサンドラを小馬鹿にするように笑うカーミラ。

 それに邪神が続く。


「では、勇者アレクサンドラよ。お前に尋ねよう」

「……何だ?」

「もし、魔王が貴様にお前の村を潤して尚余りある程の大金を渡し、この地から安全に逃がしてやると言ったらお前はどうする?」

「そんな事、ある訳が無いだろう」

「もし、と言った筈だ。そうなれば、お前は魔王と戦う理由が無くなるんじゃないか?」

「むぅ……」


 唸るアレクサンドラ。

 反論しない……いや、もしかしたら出来ないのだろうか?

 しかし私も、アーニャを育てる上で金という問題には何時も苦しんでいた。

 それ故に私はアレクサンドラの行動を決して笑える立場ではない。


「金を積まれれば意見を変えるような理由が薄くないなら何が薄っぺらいって話になるわよねー」

「だ、だが! 貴様等は何の罪も無い私達人間を沢山殺したじゃないか!」

「はい、ストップ」


 憤るアレクサンドラを、真顔で冷静に静止するカーミラ。


「それ言い出したらお仕舞いだから。何の罪も無い魔族だって、アンタ達人間に散々苦しめられて、殺されて来たのよ?」

「聞けば、あのクレイスという男も人間の被害者らしいな。村を襲われ、知人を連れ去られて……お前の言う、人間の被害者と何が違うのだ?」

「人間と魔族は違う!」

「同じよ。私も魔族だけど、こうして貴女と言葉を交わすし、泣きも笑いもするわ。ちょーっと訳有りで私は死ぬ事は無いけれど、貴女の言う人間と何が違うのか、是非とも教えて欲しいわね」


 人と魔族の違い。

 このクロノキアに着いた頃から漠然と浮かんでいた疑問。

 魔族は人とは違う顔や肌の色、人には無い鋭い爪や角、牙を持ち。

 翼を用いて空を飛ぶ事だって出来る者も居る。

 人より長い寿命を持ち、屈強な肉体や岩をも砕く豪腕を振るう者も居る。

 人間よりも遥かに強いが故に、人々は魔族を、魔物を恐れた。

 

 だが、魔物は兎も角。

 魔族は私達と同じ言葉を話し、私達と同じ様に考える事が出来る。

 恐れて距離を置かずに、話し合えば分かり合えるのではないのだろうか?

 私は、不思議とそう思うようになっている。


「ファーレンハイト……聖王都ファーレンハイト、か。フッ」


 邪神は、思い出したかのように嘲る。

 この世界で人の住まう国で最大規模、最大勢力を誇る地、ファーレンハイト国を。


「なぁ、アレクサンドラよ。貴様は何故、あの国がこうも執拗に我等レオパルドの地を攻めるか分かるか?」

「何……? そんな物は決まっているだろう、諸悪の根源である魔王を討たねば――」

「人間の被害が無くならない、か? それは違うな。そもそも、魔族と魔物は違う、貴様等から見れば大差無いように見えるかもしれんが、お前達でいう人間と家畜程に差がある」

「そうよねー、結論を言っちゃうと魔物と魔族の差って要は知性の有無だし」

「故に、魔族でも、それ所か魔王ですら。魔物を全て掌握する事は出来ない。貴様等の野山にも野生の凶暴な動物が出る事があるだろう? 魔物もそれと同じだ、被害は抑える事は出来ても無くす事は出来ないし、全滅などさせよう物なら生態系に大きな被害が出る。こんなにも執拗にレオパルド、そして魔王を攻める意味など人間達に取って無いのだ」


 邪神は淡々と、諭すように勇者に説明を述べる。

 言われてみれば確かに。

 魔王が倒されようと、別に魔物はそれに影響される訳でもない。

 野生の動物と同じだと言うのなら、好き勝手に作物を食い荒らし、人を襲うだけだ。

 そこに魔族や魔王の意思が関与する余地など有りはしない。

 結局魔王を討った所で、魔物の被害が変わる訳では無い。


「私は知っているぞ? 何故人間達が魔王……いや、このレオパルドにこうも拘るのか?」


 顎鬚を撫でるような仕草を見せる邪神。

 しかし身体は幼女であるアーニャの肉体である為、髭がある訳も無く。空しく空手が虚を撫でる。


「奴等がこのレオパルドを狙う理由は――」


 邪神が口を開き、説明を始めようとしたがその口は突如やって来た来訪者によって中断させられる。


 この開けた地に飛び込んで来た一頭の獣。

 いや、この大きさからして魔物だろう。

 全身を闇夜を溶かしたような黒い体毛に覆われた野犬のような風貌。

 身体の大きさは、邪神……というより、アーニャの十倍程はあろう。

 少なくとも、大人ですら太刀打ちできない程の大きさである。

 大きく裂けた口を広げ、響き渡る咆哮を上げ。

 鋭利な牙を邪神に突き立てんと、森の奥底からひとっ飛びで襲い掛かった!

久々に三千文字超えた

基本短いね、俺

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