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66.カーミラの秘密

 謎の男――ルードヴィッツと邪神に呼ばれた男の襲撃から一日経った。

 この男の襲撃により、多少建造物に損害はあったものの怪我人はおらず、無事に事態は解決した模様。

 魔王は城内に再び緘口令を敷いたが、あれだけの戦闘音が鳴り響いているにも関わらず何も無かった、という言い訳は通じず。

 城下町に住まう魔族達からの質問攻めが押し寄せてきており、魔王という立場に立つ以上、無視する訳にも行かず。


「卑劣にも人間達が放った刺客が、我が居城に侵入したようだ。多少城を破壊されはしたが、魔王たるこの私、そして配下の四天王もいて我等が遅れを取る訳が無い。見事撃退したから安心するが良い!」


 魔王は適当に嘘を並べ立てて体裁を取り繕う事にしたようだ。

 流石魔王様だ! やはり俺達の魔王様は格が違った! そこに痺れる憧れる!

 などと言ったかは分からないが、魔王の鶴の一声で城下に住まう魔族達は納得して引き下がったようだ。

 襲撃者の不意打ちの影響でクレイスが手傷を負ったと魔王は明言し、

 この際だから以前クレイスが墓参りの際に負った深手を襲撃者のせいにしてしまおうという魂胆が若干見え隠れする物の、

 最近魔王が人間の住む地に積極的に攻め込もうとしない理由をここぞとばかりに魔王の右腕たるクレイスが負傷したが故にという事にしたようだ。

 万全の状態では無いのなら仕方ない、と魔族達は一応納得したそうだ。



―――――――――――――――――――――――



「――で、そんな事態だったにも関わらずアンタは何処に居たのよ?」


 生憎私はその場に居なかったので、カーミラから伝聞によって今回の一件を知る事となった。

 あの魔王ですら一捻りな邪神を宿したアーニャが、勝てなかった相手が存在するという事には驚きを隠せない。

 えっと、勇者よりもカーミラが強くて、そのカーミラより強いのが魔王であって。

 その魔王より強いって……あれ?


「いや、その時は邪神に言われてここの地下で練習をしてまして」

「地下? あぁ、そういえばそんな場所あったわね」

「しかし、邪神以外にも魔王より強い人が存在するとは……ちょっと信じ難いですね」

「嘘なんて言ってないわよ? そもそもこんな嘘言って私に何の得があるのよ」


 それもそうか。いや、からかってる可能性がある。

 カーミラとそれなりに顔を付き合せて来たが、彼女はそういう性格をしているのは大体分かって来た。


「意味が無くても面白ければやっちゃうじゃないですかカーミラさんは」

「あら、良く分かったわね。でもサミュエルのヤツに不利益が生じる嘘なんて付かないわよ?」


 そういえばカーミラは適当な事言ったりするけど、魔王に不利益が生じる事だけはしないか。

 魔王より強い輩が存在するなんて、魔王にとって不利益こそあれど益など無いか。

 という事はやっぱり本当なのか。


「そういえば時折忘れそうになりますけど、貴方も魔王に仕える四天王なんですよね」

「えー? 私って忘れられる位存在感無いー?」

「いえ、そういう意味ではなくて。何だか貴方は魔族らしい出で立ちをしていないからでして」


 魔王であるサミュエルは青い肌をしているし、

 クレイスは肌の色こそ人間でも見かけそうな色をしているが耳は尖っているし、

 ドラグノフに至っては翼という一目で分かる人間と違う身体の部位を持っている。

 対し目の前にいるカーミラは上から下まで見ても魔族らしい特徴が見当たらない。


「だってほら、吸血鬼って見た目だけだと人間と大して変わらないじゃない」


 そうカーミラは言うものの、吸血鬼には血を吸う為に人間の犬歯とは比べ物にならない程尖った牙を持っている。

 だが目の前で薄っすらと笑みを浮かべるカーミラの口元から覗く歯にはその特徴は見られない。

 やはりどう見ても何処かの令嬢、お嬢様の類にしか見えない。

 いや、普通のお嬢様はこんなやたら滅多に肌を晒す格好をしないか。


「――そういえば、前々から機会があれば聞こうと思っていたんですが」

「ん? 何? 私に答えられる事なら答えるかもしれないよ」


 かもしれない、のであって断言はしないのか。


「いえ、大した事では無いと言うか、大した事あると言うか……」

「何よ歯切れが悪いわね」


 質問をしようとしたにも関わらず言い淀む私を訝しむカーミラ。


「失礼な質問だったら申し訳無いのですが……その、カーミラさんのその格好には何か意味があるのでしょうか?」


 魔王サミュエルは全身を黒い甲冑で覆った格好である。

 これは別に不思議でも何でも無い、戦う者が鎧を着ているのに何も不思議に思う点など無い。

 クレイスは魔王とは対照的に軽装ではあるが、要所要所を紐で締め上げて動き易く衣服を纏めている。

 鎧を着込めば防御力は上がるかもしれないが、その重さの分だけ足は遅くなる。

 恐らくクレイスはそれを嫌って、防御より身動きのし易さを取っているのだと考えれば不自然な所は無い。

 ドラグノフは背中に翼を持っているにも関わらず、背中から羽織るようにモコモコとした毛皮のコートを身に着けている。

 どう見てもアレは身動きが取り辛そうだが、あのコートはドラゴンという種族の持つ弱点……寒さを克服する為の物らしい。

 弱点を保護するという意味でなら、多少身動きが取り辛くなろうと防具という体面は保たれている事になる。


 対し、カーミラの格好である。

 膝下付近程の長さのある黒革のロングブーツ、マイクロミニのスカートにチューブトップという、

 わざと布面積を減らしているんじゃないかと疑いたくなる挑発的な格好。

 一応背中からマントを羽織っているものの、そもそもそんな物を付けて身を包む位なら直接着てる衣服の方の布面積を増やせば良いのでは?

 正直、その美貌で柔肌を大胆に晒す彼女の格好は若い男性にとって眼福……じゃなくて目の毒である。


「格好?」


 何が言いたいのかサッパリといった具合でカーミラは質問で返す。


「他の魔王や四天王の面々は、皆戦う事に視点を定めて身なりを整えてますが、カーミラさんにはそういう様子が見られないので……」

「――あぁ、そういう事ね」


 何が良いたいか理解した、とばかりに手を打つカーミラ。


「ねぇ、アルフ。貴方は私の四天王としての呼び名を知ってる?」

「えっと、確か『吸血姫(きゅうけつひ)カーミラ』ですよね?」

「そっちじゃない方ね。『不死の姫(ノーライフプリンセス)』……別にこれは脅しとか見得で付いてる訳じゃないのよ。不死――つまり、私は死なないの」

「死なない……?」

「えぇそうよ。心臓を刺し貫かれようが、首を刎ねられようが、全身を炎で焼かれようが――私は死なないの」


 表情が一瞬淀んだように見えたが、カーミラの表情が素面に変わる。


「まぁ、死なないだけだから身動きとか縛られちゃうとどうしようも無いんだけどね。だから私はサミュエルに勝てないのよ、負けないけど」

「えっと、すみませんカーミラさん。それがどうしてどういう理由でその格好になるのか分からないのですが」

「あら、分からないの?」


 無知を嘲笑うかのように嫌らしい笑みを浮かべるカーミラ。

 しかし悪意は無くあくまでもからかう範疇なので不快な感じはしない。


「私は死なない、それこそ剣で斬られたりしてもね。だけど、服はそうもいかないのよねー。刺されても平気だけど、それで服に穴が開いても服は元に戻らないのよね。戦う都度着てる服がダメになるなんてちょっと勿体無いし」


 ……えーっと、ちょっと待て。

 もしかして、そういう理由なのか……?

 決して死なないから、衣服や鎧等の防御力を考える必要が無い。

 だから衣服がダメにならないよう、初めから衣服の面積が狭い物を着ているのか?

 つまりカーミラは、自分の命より着ている衣服の方に価値の重点を置いてるのか。


「えーっと……済みません、その格好の理由は分かったのですがやっぱり私には理解出来ません」


 死なない、という存在がどんな物かやはり常人の私には理解出来ない。

 でも長年生き続けたカーミラが出した結論がこの答えなのだから、凡人の私に口を挟む権利は無いだろう。


 そんな風に肌を晒した格好で戦いなんて出来るのか?

 という個人的な疑問が解決した一日であった。

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