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64.冬の乱戦

 邪神の表情が歪む。

 攻撃は確かにルードヴィッツの腹部に突き刺さった。

 だが、ルードヴィッツには苦痛を感じたような表情が一切見られない。

 完全に無表情のまま邪神を見詰めている。

 やせ我慢かとも思ったが、それは無いとすぐに邪神は感じ取った。

 まるで邪神の一撃がまるで効いていないようだ。


「テメェ……! この感じ、まさか――」


 まるで何か心当たりがあるかのような発言をする邪神。

 その言葉に対する返答は無い。

 自ら寄って来て好都合とばかりにルードヴィッツは邪神の頭にその手を伸ばす。


「風よ、切り裂け! ウィンドエッジ!」


 詠唱を終えたカーミラの放った魔法による風の刃が、ルードヴィッツ目掛け飛来する。

 対しルードヴィッツは、それを視認すると邪神に伸ばしていた手を引き、払うような動作で振り抜く。

 振り抜いた手刀が風の刃と接触。刃とはとても言い難い、そよ風となって霧散する。


「ハァ!? 素手でってちょっと!」


 信じられない物を見た事で、驚愕の表情と言葉が露呈するカーミラ。

 彼女が放った魔法は簡素ながらも威力は相応にあり、直撃すればそこいらの木の幹程度なら両断する程の威力がある。

 間違っても何の対抗策も無い、素手で受け止められるような代物ではない。

 そのカーミラの困惑とも言える動揺により、逆に冷静になった邪神。

 思考に意識が寄っていた邪神がその場から飛び退き、ルードヴィッツから距離を取る。

 邪神の後退するすぐ側を走り抜ける赤緑の影。


「誰だか知らねーけどお前強そうだなぁ! ちょっと一緒に遊ぼうぜ!」


 豪快に笑いつつ、子供のように無邪気な笑顔で言ってのけるドラグノフ。

 しかしその振るう朱槍は子供の物などではない一騎当千の代物で、

 ドラゴンの血が成せる怪力であり、直撃すれば巨岩すら易々と粉砕する物だ。

 今までの攻防で手加減する必要無しと見たドラグノフは全力の一撃をルードヴィッツに向けて逆袈裟気味に振り薙ぐ。

 迫る槍閃に対しルードヴィッツは二対の紅と蒼の剣を抜き、真横に交差させてその一撃を易々と受け止める。

 その足はまるで地面に縫い付けられたかのようであり、ドラグノフの豪腕をもってしてもその場から一歩たりとも動かす事は出来なかった。

 流石にあまりにもあっけなく受け止められてしまった事でドラグノフの表情が揺らぐ。


「貴様が誰だかは知らんが、貴様に興味は無い。大人しくしていれば危害は加えん」


 ドラグノフの持つ槍に視線を落とし一瞥する。

 そしておおよその実力は見切ったとばかりに、表情を変える事無く一笑に付す。

 槍を受け止める為に交差させた剣をその場で振り抜き、槍を振り払う。

 比較的あっさりと放たれた一撃だが、その重さはドラグノフの体勢を大きく崩させる程の威力を持っていた。

 ドラグノフの横を悠々と通り抜けるルードヴィッツ。

 無人の野を歩くが如くの男に対して立ちはだかる赤の世界。


「奇妙な魔法を使いおって……! 貴様一体何者だ?」

「――空間系魔法か」


 足元に広がっていた白化粧は一瞬で剥がれ落ち、土肌を露呈し赤く焼け始める。

 大気諸共熱し、空間ごと焼き尽くす魔王の最強の魔法。

 自身の名を冠す 地獄の檻(インフェルノジェイル)がルードヴィッツの歩みを阻む。

 眼中にあらずといった態度故に、詠唱に必要な時間はあっさりと確保出来た。

 ルードヴィッツの用いる不可解な魔法に危険を感じたのか、魔王は自身の持ち得る最強の魔法で迎え撃つ。

 強靭な竜鱗すら焼き尽くす強大な熱量を前に、ルードヴィッツは双剣を再び鞘に収め。

 涼しい顔で背に携えた剣を抜き放つ。


「一体何の目的で――」


 ルードヴィッツは、魔王の言葉に耳を一切貸さずにその場で剣を一閃する。

 振り切った剣は轟風を巻き起こし、赤の支配する空間を歪ませる。

 水泡が爆ぜるかのようにあっさりと、そして砂埃が風で飛ばされるかのように赤い世界は薄らぎ。


 ――地獄の檻はその効力を消失した。

 

 口を情けなく開けたまま、目を白黒させる魔王。

 自身の持つ最強の魔法が、ルードヴィッツの放ったたったの一薙ぎで消え失せてしまった。

 その様子を見てしまった一同に、戦慄が走る。

 魔族最強の意味を持つ魔王の持ち得る最強の魔法、 地獄の檻(インフェルノジェイル)

 魔王サミュエルの持つこの魔法を打ち破る術は、未だ見付けられていない。

 あらゆる魔法を打ち破ると言われているドラグノフの持つ槍、ガジャルグですら。この魔法は破れない。

 ガジャルグが処理出来る魔力量を大きく上回っているのが原因であろう。

 邪神という規格外に一度破られてはいるが、これを破ったという事が意味する事はただ一つ。


 ――目の前の黒衣の男は、最低でも魔王より強く。邪神に匹敵する程の強さを持つという事。


 ルードヴィッツが叩き付けた現実に、驚き思考停止してしまっているのは魔王や四天王の面々だけではない。

 邪神すらも驚愕に身を委ねて意識の空白を生んでしまう。

 その挙動を目敏く見抜いたルードヴィッツは刹那、邪神の首根っこを右手で掴み上げる。

 掴んだ瞬間にルードヴィッツは無表情を貫いていたその顔を曇らせるが、彼女を凝視した直後に、さぞ不快と言わんばかりの表情を顕にする。

 用は済んだとばかりに掴んでいた手を離し、邪神はルードヴィッツの手から逃れる。


「――まだこの術式が残っていたとはな。誰が仕込んだか知らんが、随分と悪趣味な番犬だな」


 手にした剣の刀身を再び布で包み、背に携える。

 呆気に取られていた面々だが、いの一番に我に返ったクレイスがルードヴィッツ目掛け飛び込む。

 魔力を用いて氷の剣を生成し、ルードヴィッツの身体目掛け振り抜くが、切ったのは虚空であった。


「貴様等と遊んでやる義理は無い」


 クレイスの剣閃を高く跳躍してルードヴィッツは回避、その勢いで一気に城壁まで飛び乗る。

 捨て台詞と共に黒衣は城壁の向こう側へと消える。

 逃がしてなるものかとドラグノフは背の翼を羽ばたかせ、高空からルードヴィッツの逃げた方角に視線を飛ばす。


「いない……?」


 ドラグノフの判断は十分に迅速な対応であったが、一瞬があれば十分とばかりに。

 ルードヴィッツと呼ばれた黒衣の男はその姿を眩ませた。

黒衣の男という俺の厨二スピリッツを揺さぶるフレーズ

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