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60.失われし秘術

「だーかーらー、アンタがアーニャって娘に仕込んだ術式教えなさいって言ってんのよ!」

「何度も言ってるでしょう! あれは秘匿された重要な術で……ちょっと、あんまり揺さ振らないで……まだ傷口が……」


 魔王が政を執り行う執務室、そこに最近ほぼ常駐しているクレイスはカーミラの詰問を受けていた。

 胸倉を掴まれ揺さ振られているクレイスは苦しそうである。

 彼の言った通り、以前のパルメハイン村跡での一件でクレイスは命に関わる程の重傷を負っている。

 邪神であるアーニャが治療系魔法を用いて一命は取り留めたが、流石に完治には程遠いであろう。


「それに、隠匿されるからこそ秘匿された術なのです。ペラペラ喋ったら隠してる意味が」

「あっ、そう。折角あの術式の正体を突き止める切欠が見付かったのに協力しないんだ」

「だから……って、それは本当ですか?」


 スッとクレイスの表情が変わる。

 驚きと疑惑が混ざって2で割ったかのような表情だ。


「可能性だけどね。あの術式の本当の姿が分かれば逆算して無効化する術だって見付かるんじゃないかしら?」

「一応、カーミラさんが言う切欠とやらを聞いてからです。それを聞いて、最終的に魔王様の判断を仰ぎます」


 面倒臭いわね、と舌打ちしながらカーミラは口を開く。

 邪神がポツリと漏らした言葉、

 それを聞いたというアルフからの又聞きした情報から推察した自らの切欠をクレイスに話す。


「交霊術……噂程度には聞いた事がありますが、確かにそれならあの人格豹変は説明が付きますね」

「あの訳分かんない強さの正体は分からないんだけどね」

「恐らく複合術なのでは? あれ程にも強大な術が単純な1つの魔法で動いているとは思えませんし」

「アンタと意見が一致するのって地味にムカつくわね」


 イラッとくるぜ、と言わんばかりに表情を歪めるカーミラ。


「今、魔王様は貴重な休息の時間ですから。起きた時にその話はしておきます」

「……今回は何日寝てないの?」

「2日です、邪神が大人しくなったからこれでも大分マシな方ですよ?」

「あー、うん。それは……同情するわ」


 魔王の睡眠不足の原因を何となく察したカーミラは言い淀みつつもその境遇に同情するのであった。

 


―――――――――――――――――――――――



 そこから2日後、魔王の許可はすんなり通った。

 魔王としても邪神の存在は何とかしたいのだろう。

 今、アーニャに施された術を書き記した秘術書はカーンシュタイン城跡へとその場所を移していた。


「うーん、これじゃないわね。似てるけど線が足りないし」


 蔵書庫の書棚のいたる所から歯抜けのように書物が抜き出され、

 テーブルの上に乱雑に積み上げられ山を作り上げている。

 その山に埋もれつつ、カーミラは唸り声を上げた。


「何故私がこんな作業を手伝わねばならないんだ!」


 大人しく書物を読み込んでいたが、急に何かに気付いたかのように大声を上げるアレクサンドラ。

 衝動的にテーブルに叩き付けた手が書物の山を大きく揺らす。


「あら良いじゃない別に。働かざる者食うべからずってヤツよ」

「私は魔族の為、魔王の為に働く気は毛頭無い! 何故勇者である私が!」


 声を荒げるアレクサンドラをまるで子供をあやすかのように落ち着くよう促すカーミラ。

 彼女の年齢がいくつなのかは最早彼女以外に知りえないが、

 生まれて十数年程度の勇者など彼女には赤子に見えて当然だろう。


「これはもしかしたら魔王の為かもしれないけど、人間である彼女の父親の望みでもあるのよ?」

「何だと?」

「そりゃ自分の娘にこんな訳分かんない魔法仕込まれたら、元に戻せって詰め寄るのも分かるけどね」


 クレイスから預かった秘術が記載された本をひらひらと振りながらカーミラは続ける。


「でーも見付かんないわねー、色んな交霊術の使い手の情報を見て察するに、この路線で合ってる気がするんだけどなー」


 背もたれに体重を預け、足を組みかえるカーミラ。

 疲れたと言わんばかりに大きな溜息を漏らす。


「そもそもどれもこれもうさんくさい情報ばっかりなのよねー、もっと信憑性が高い交霊術に関する書物があれば――」

「……おい、これじゃないか?」


 カーミラの愚痴がアレクサンドラの指摘で中断される。

 だらけた表情を元に戻し、カーミラはアレクサンドラの持っていた本を奪い取らんばかりに駆け寄る。


「おい、折角見付けてやったのに何だその態度――」

「この陣形……これが交霊術……?」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら手にした本をカーミラは凝視する。

 その後考えを纏めるかのように本を片手に、テーブルの上の羊皮紙にペンを走らせる。

 描いていたのはその書物に記されていた魔法陣である。

 描き終えるや否やペンを投げ捨てる勢いでテーブルに放り、

 羊皮紙と秘術の書に描かれた魔法陣を並べ、真剣な眼差しで見比べる。


「向き変えて……あった、コレだわ。アレクサンドラちゃん良い仕事したわ」

「ちゃんはやめてくれ」

「15点あげるね」

「あ、前回より点数上がってる。じゃなくて、何だその点数は」


 アレクサンドラとしては不本意な漫談を繰り広げつつも、

 アーニャに施された術式の謎、その答えのカケラをカーミラは手にするのであった。

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