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54.破魔の槍

「爆ぜろ火球、フレイムボム!」


 ドラグノフに目掛け空より飛来する魔法槍を、対抗魔法で迎撃する。

 感情であるあの黒い霧に対しては魔法攻撃を加えた所でダメージは与えられないが、

 魔法攻撃として形を成してしまった物であらば、私でも撃ち落とせる。


「サンキューちびっ子!」


 感謝の言葉を口にしつつ、ドラグノフは飛翔し憎悪の種目掛け飛び込む。

 種の攻撃を迎撃した事で隙が生まれた。その隙をドラグノフは逃さない。 

 空へと飛び立ったドラグノフを撃ち落とさんと再び魔力を集中させ、

 黒い槍を生み出し降り注がせる。

 規則性の無い攻撃だが、自らの翼を器用に操り右へ左へ。

 それでもかわせない攻撃は槍を用いて打ち消し、単身で捌いていく。

 あの魔族の娘、中々やるな。これは私も負けていられない。

 攻撃を退けられた種は、再びその尽きぬ憎悪を糧に魔法槍を生成する。

 それに、いい加減その攻撃も見飽きた。


「顕現せよ、焔の腕。絶望の闇を薙ぎ払え――!」


 言の葉に魔力を乗せ、魔法を編み上げる。

 己が左腕に意識を集中、紅い湯気のような光を発し、左腕に炎の魔力が集う。

 私の行動を感じ取ったのか、ドラグノフは一切こちらを見向きする事無く飛翔する高度を下げる。

 射線が開いた。


「インフェルノブレス!」


 再び飛ばされる前に、私は左腕を魔法槍目掛け突き出す。

 大砲でも撃ち出されたかのような爆音と共に、左腕から炎の奔流が溢れ出す。

 ああいう部類、面での攻撃をしてくる輩に点で立ち向かってもジリ貧だ。

 目には目をという言葉がある、面には面だ。

 途切れる事無く左腕から吹き出す炎が、種の生成した魔法攻撃と接触する。

 膨大な魔力を練り込んで放たれた炎の息吹は、大火に放られた枯れ草のようにいとも容易く焼け果て塵と化した。

 だがここで攻撃を止めない。

 この出力を維持したまま――薙ぎ払う!

 左腕を振るう。

 それに伴い炎も弧を描き、火の粉を散らしつつ幾百と生み出された魔法槍を端から端へ、次々と炎の濁流に消していく。

 左腕を振り抜き切り、種の放った魔法攻撃は影一つ残さず焼き払われた。


「おー、随分派手だなぁ!」


 ドラグノフが詰め寄る時間は稼いだ、既にドラグノフと種の距離は間近。

 攻撃範囲に種を収めたドラグノフは朱槍を振りかぶり、風を唸らせ振り抜く。

 種はその黒い霧を盾のように凝結させ、槍の一撃を防ぐ。

 そう、防がれた。

 あれも魔法を用いた防御術だろう、それで防がれてしまった。


 ドラグノフの持つ槍は破魔の槍、ガジャルグ。

 あらゆる魔法を受けず、魔を打ち払う槍。

 その槍の力をもってしても、あの憎悪の種には届かないのか。

 握り拳に力が篭る。

 あの槍で駄目だというなら、最早残された手段は……


 宿主を、殺すしか――


 最悪の考えが脳裏によぎったが、種の様子に異変が起こる。

 ドラグノフの放ったガジャルグの一撃を防ぎ、

 今も尚、攻撃を幾度と無く放ち続けるドラグノフ。

 その一撃、一撃を的確に種は防ぎ続けているが……

 防ぐ都度、種の取り囲む黒い霧の体積が減少しているように思える。


 唸り声を上げ、勇猛果敢に朱槍を真上から一閃。

 隙を見せぬよう即座に持ち手を回転させ、地面を掠めるように逆袈裟に一閃。

 その槍をドラグノフが凪ぐ度に突風が巻き起こる。

 だが、その攻撃は未だ種の本体には届いていない。

 届いていないが……意識して見て、ハッキリと分かる。

 ドラグノフの攻撃を種が防ぐ都度、徐々にその黒い霧の体積が減少していっている。

 クレイスの身体をすっぽりと覆い隠す程に溢れかえっていたその霞も、

 既に半分程にまで体積を減らし、クレイスの身体も露出し始めている。


「効いてる……! そのまま本体も叩け!」

「言われなくても分かってるよ!」


 憎悪の種の放つ攻撃を対抗魔法で撃ち落とし、焼き払う事は私にも出来る。

 だが、憎悪の種に決定打を与える術を私も『私達』も持っていない。

 だがあの槍には憎悪の種にダメージを与える力がある、

 クレイスを殺さず、種を滅ぼすにはあの槍しか頼れる物が無い。

 このまま押し切れれば――


「深遠よ、我が敵を貫け――」


 クレイスの口から、再び呪文が紡がれる。


「退くな! そのまま押せ!」


 咄嗟に回避体勢を取ろうとしたドラグノフに、怒声に近い指示を出す。

 一瞬動揺し、こちらに視線を飛ばしたが、再びドラグノフは種に向けてその豪腕を振るう。


「かの者を守れ、聖なる守護の光!」


 ああ、決定打を与える術は無いさ。

 だが援護位ならいくらでもやってやる!


「ブラッディランス!」

「セイクリッドサークル!」


 私と種の魔法の発動は、ほぼ同時であった。

 ドラグノフの足元に光の円陣が生じ、種の放った黒威の波動から光の障壁をもって身を守る。

 強力な魔法だが、それ故に生じる隙も大きい。


「隙有りいいぃぃ!」


 闇を槍の切っ先が貫き、切り進む。

 渾身の力を込めて突き出したドラグノフの一撃が、魔力の中心目掛け伸びていく。

 

 ――霞を相手に戦っているような物であり、ドラグノフのその一撃に彼女自身が手応えを感じる事は無いだろう。

 だが、彼女の放ったその一撃は。

 的確に魔力の中心――種の本体を突き貫いていた。


 声を上げるのはクレイスであり、感情が声を上げる事は無い。

 憎悪の種は断末魔の悲鳴すら上げる事無く、静かにその姿を風と共に消していった。



―――――――――――――――――――――――



 もう日が暮れるであろうという秋空の薄闇が室内を支配する中、男は眉をピクリと動かした。

 予期せぬ不慮の事態が起こったものの、貼り付けたような冷たい笑顔を崩したりはしなかった。


 種が、消された――?


「――中々都合が良い駒だったんですがねぇ……」


 誰に聞かせるでもなく、男はポツリと呟く。


「ええ、分かっていますとも我が主……平和な世など、神はお望みではない……」


 石を積み上げた無機質な室内に見えるのは、木製の椅子の背もたれに深く腰を落とした男の姿ただ一人。

 まるで誰かと話すかのように、愉快そうな口調で男は呟く。


「神の望みは、残酷な死。悲劇的な死……えぇ、仕込みは順調です。神の御許に沢山の魂を送れそうですよ……」


 男の横に置かれた木製の机に手を伸ばし、ワイングラスをその手に取る。

 夕日が注がれたワインを照らし出し、鮮血のように真っ赤に染まり上がった。


「我が主の悲願成就を願って――乾杯」


 男は優雅に、そのワインを飲み干す。

 窓の外へ視線を向け、夕日が山嶺に消えて行く様を身動き一つせず眺め続けていた。

ギリギリになって書き出す癖を直したい

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