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5.今後の方針

 クレイスは、私とアーニャにこの魔王城に留まるよう提案してきた。

 理由を聞くに、アーニャに施された術は魔族にのみ伝わる秘術中の秘術。

 その為、人間達の魔法知識で調べるより魔族側が調べた方が早く打開策が見付かる可能性が高い事。

 それと魔王城に滞在中の私とアーニャの衣食住の保障。

 

 村を失い、アーニャをこんな状態にされた私はこの提案に頷くしか無かった。

 クレイスという男が何を考えているかは分からないが、

 少なくとも私とアーニャにとって悪い話では無いように思える。


「分かりました。だからといって私は、貴方達が行った所業を忘れる事はありませんが」


 アーニャの為に、従っているだけだ。

 私に、アーニャの今の状態を治す手段は無い。

 アーニャが元に戻るかどうかは、魔王達の今後次第だ。

 以前捕らえられた時と同じく、生殺与奪を握られたままだ。


「……それを、人間である貴様が言うのか……!」

「……!?」


 クレイスが、まるで親の敵を見るような目でこちらを睨み付ける。

 その迫力に、思わず私は縮み上がる。

 これが、殺気なのだろうか?

 以前山師に頼んで山に入った際、熊と出くわした事があったが、

 あんな物とは比べ物にならない程の恐怖が襲う。

 明確に死を覚悟する程の恐れが、波濤となって私を飲み込む。


「魔族を奴隷同然に扱う人間を、我々は絶対に許しません……!」

「魔族を、奴隷に……?」


 そういえば聞いた事がある、魔族の中でも人間より非力な存在が居ると。

 一番有名な者としてはエルフが挙げられる。

 彼等は総じて長命で、手先が器用と聞く。

 それでいて人間より力が弱いので、例えば細工仕事の労働力として監禁され、何百年も働かされ続けると聞く。

 勿論人間側の王国もそのような所業を放置する訳もなく、罰する法も整備されている。

 だがそれでもそういった所業が無くならないのが世の常である。


 そういえば、エルフは鋭く尖った細長い耳も特徴と聞いた事がある。

 このクレイスという男も、耳が……


「貴方達にも、事情がある……という事ですか……?」


 この男が過去に何があったかなど私に知る余地は無い。

 それに、どんな過去があったとしても私達人間の命を薪のように、

 ただの道具として使うあんな所業が許される訳が無い。


「……そんな同情を込めた眼差しを向けないで頂きたい、不愉快です。それに、我々が人間を攻める方針は変える気はありません。これは魔族の総意ですから」


 何時の間にかクレイスから放たれていた憎しみ、怒り、悲しみ。

 この世の全ての負の感情を混ぜ込んだような気迫が収まっていた。

 このクレイスという男がした事は許せない。

 だけど、何か事情がある様子が見え隠れする。

 もしかして、根っからの悪党とは違うんじゃないだろうか?


「……ッ! それから」


 クレイスが自らの足元に目線を向ける。

 その目線の先には、アーニャが居た。


「私の脛を蹴るのを止めさせて下さい……ッ!」

「こらアーニャ。あんまり暴れちゃ駄目だぞ」

「はーい!」


 会話中、ずっとクレイスの脛を蹴り続けていたアーニャを抱きかかえる。

 私でも簡単に抱きかかえられる、

 こんな小さな身体の何処にあの魔王すら圧倒する力が眠っているのだろうか。




 クレイスとサミュエルは、なるべく私がアーニャの側に居てやるように進言した。

 親が娘の側に居るのは当然だと思ったのだが、彼等の言い分はどうやら違うようだ。

 今までの傾向から彼等が導き出した答えによると、アーニャは私と二人きりで居る時は比較的大人しいようなのだ。

 結構暴れてるような気がするのだが、あれでも大人しいのか。

 私が居ない時は一体どんな状態になっていたと言うのか。

 アーニャの豹変が私の側に居ると落ち着く理由は分からないが、

 要は彼等が言うのはこういう事だ。


『これ以上私達に危害を加えないように、お前が防波堤になれ』


 サミュエルとクレイスは、城内で被害に遭った近衛兵の治療と編成の建て直し、

 そしてアーニャを元に戻す方法を探す事で駆けずり回っている。

 宣言通りアーニャを元に戻す方法を探してくれているのだ、それについて文句を言う気は無い。


 少し気になるのが元に戻る方法が見付かった時だ。

 アーニャが元に戻るという事は、この理不尽とも言える力も無くなるという事だ。


 ――そうなったら私とアーニャ、殺されるんじゃないのか?


 あれだけ踏んだり蹴ったりされている彼等が、報復をしないとはとても思えない。

 どうしようか、とも考えたが取り敢えずの策は思い付いた。

 策という程でもないが、その方法を教えて貰い、

 安全な場所まで避難してからその方法を実施すれば良い。

 戻ればそれで終わり、戻らなければまたここまで戻ってくれば良い。

 あちらもこのアーニャに宿っている力には困っているだろうから、消えればそれで万々歳だろう。

 ただそれだけの事である。


 どの道、ただの農民である私に出来る事は本当に何も無い。

 唯一出来るのは、娘と一緒に居てやる事位である。

 今はただ、アーニャを戻す手段が見付かるその日を待ち続ける事しか出来ない。



 夕食の時間になり、私とアーニャは食卓へと案内された。

 観音開きの巨大な木製の扉が開け放たれ、部屋へと通される。


 煌びやかなシャンデリアが室内を照らし、

 純白のシーツが広げられたテーブルの上には見事な彩りの料理が所狭しと並べられていた。

 食指をそそるその香りに思わず唾を飲む。

 こんな豪勢な食事は、初めて見る。


「こちらのお席へどうぞ」

「は、はい。分かりました」


 給仕係か支配人か執事か。

 良く分からないが年配の魔族の案内に促されるがまま席に着く。

 限り無く人型に近いが、肌の色が赤銅を彷彿させる赤さだったり、

 頭に山羊の角が生えていたりでやはりここは魔王の城だという事を痛感する。


「アーニャは隣に座ろうな」

「うん!」


 ニコニコ笑顔を浮かべながらアーニャも私に続き席に着く。


「どうぞお召し上がり下さい、宜しければワインも手配しましょうか?」


 既に着席していたクレイスがそう促す。


「ワイン……ですか」

「今は亡きレオパルド王国産の物です、もう作られる事が無い貴重な一品ですよ?」

「そんな高級な物を頂いて良いのですか?」

「えぇ構いませんよ。アーニャさんもお好きなように食べて下さって構いませんよ?」

「おう兄ちゃん、このジュース飲んでみいや」


 またアーニャが豹変した。好い加減慣れて来た気がする。

 アーニャは自らの手元に注がれた一杯のジュースをクレイスに向けて差し出す。

 当初アーニャは酒を欲しがってたが、年齢的にどう考えても駄目なのでジュースにしなさいと言っておいたのだ。


「……え?いえ、私はワインを頂くので」

「俺のジュースが飲めねぇってのか!?」


 巻き舌気味でまくし立てながらアーニャは席を立つ。

 そのジュースを手にしたままクレイスに飛び掛かり、無理矢理ジュースを飲ませる。


「ぐっ……!? ご、ぐえぇぇぇ……ッ!!」

「クレイス様!」


 側に居た部下達がクレイスの元に即座に駆け寄る。

 アーニャの持っていたジュースを飲まされた途端、クレイスは喉を押さえ苦しみ床を跳ね回った。


「ケッ、このあたいに毒を盛ろうなんざ100万光年早ぇんだよ!」


 毒。

 つまりこいつ等はアーニャに毒を盛ろうとしたのか。

 全然気付かなかったが、今までの言動を見れば当然の行動だ。


 何か理由があるに違いない、そう思っていた私が馬鹿だった。

 油断も隙も無い連中だというのはあの魔王、四天王なのだから当然じゃないか。

 用心しないと。そう心に誓うのであった。

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