49.『私達』
クレイスがここまで強力な魔法を使えるなんて、知らなかった。
いや、恐らく使えるようになったのだろう。
先程交えた剣の腕も、この魔法も。今までの私が知っているクレイスとは大違いだ。
吹き荒れる風雪は光すら覆い隠し、一面を灰色に染め上げる。
周囲を見渡すが、クレイスの姿が見えない。
寒風は最早冷たさを超え、冷気の刃となって肌を切り裂き、痛みすら覚える。
特に変わった防寒着を着ている訳でもないこの身体には、厳しい寒さだ。
勢いを増す吹雪が身体を蝕む中、不意に背後から殺気が突き刺さる。
咄嗟に前方へ飛び出し、空中で体勢を整える。
さっきまで立っていた場所に、巨大な氷柱が槍のように突き立てられていた。
これが直撃していたら。考えるだけで身体の奥底から寒気が走る。
いや、実際に感じるこの寒気は例えだけの話ではないだろう。
この吹雪は確実に私の体力を奪い始めている、クレイス相手に長期戦は不味い。
しかしこの吹雪が視界を、音を。掻き消し去り、クレイスの動きを捉えられなくしている。
……私は、クレイスが用いたこの魔法の正体を知らない。
だけど、私が知らなくても『私達』は知っている。
(――氷属性上級魔法、大いなる冬、それがこの術の正体)
魔法には属性という千差万別な魔法を大別する為の種類が存在するが、この魔法の属性は氷属性である。
術者の力量によって範囲は変化するが、術者を中心に猛吹雪を周囲に発生させる結界を生み出す。
また、それと同時にこの結界自体が魔法陣の役割を果たし、魔法の威力を高めるらしい。
戦闘中故に思慮に耽る暇も無く、再び氷の槍が飛来する。
済んでの所で回避に成功するが、衣服の一部がその攻撃により切り裂かれる。
『彼ら』から教えて貰ったお陰でこの魔法の正体は分かった。
術者を中心にこの吹雪が発生しているという事は、吹雪の中心点にクレイスは居る。
でも、ここまで。
彼らからの助言は受けても、倒すのは私の手でやる。
他の人にクレイスを討たれる位なら、せめて私の手で……
それが、変わってしまった貴方への手向け。
魔力の流れを身体で感じ、追う。
この吹雪で荒れに荒れてはいるが、白と灰の混ざったこの空間の奥に一際強い魔力反応を感じる。
かじかんでくる手を擦り、再び剣を握り締め。
先の見えない吹雪の中に身を投じた。
短くてごめんなさい




