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41.絡み酒

「お客様だってのに手を煩わせて済まないな、この一杯は私からの奢りだ」

「あらそう? 折角の好意だし、有り難く受け取って置くわ」

「お連れの方もどうぞ~」

「私も良いのですか?」

「……頂こう」


 酔いどれを店内から追い出した後、私達はお礼と言う事で店員の厚意で一杯振舞って貰う事になった。


「魔王様がこの地を治めてからああいう輩は少なくなったんだけど、完全に居なくなった訳じゃないからね。正直助かったよ」


 話からするに、この落ち着いた声の店員がこの店の長、店長のようだ。

 犬と人間を足して二で割ったような顔をしている。

 犬顔で二足歩行するのはコボルトと呼ばれる種族だった気がする。

 毛深い顔をしているので年齢は分かり辛いが、私より年上に見える。


「貴方はまだ子供だからジュースだよ」

「ありがとー!」


 娘にジュースを運んできてくれた彼女はこの店に雇われているウェイトレスのようだ。

 店長と同じくコボルト族のようだが、店長違いその風貌は人間寄りであった。

 犬の耳や髭が生えている所以外は人間の女性と大して変わらないように見える。

 人間の風貌と年齢を彼女に当てはめるなら恐らくもうすぐ二十歳になるかならないかという程度であろうか?

 人型とはいえ魔族に人間の年齢が一致するかどうかは分からないが。


「その外套は取ったらどうだ? 店内だし、邪魔じゃないか?」


 店長が店内にも関わらず羽織り続けている外套を指摘する。

 取らないと不自然ですよねやっぱり。自分でもそう思います。

 だけど街中で取る訳には……


「あぁ、ごめんね。今日はちょっとフラッと寄っただけだから。この後すぐに戻るから取ってなかっただけなのよ」


 カーミラが自然に助け舟を出す、助かった。

 いや、元々厄介事だと分かり切っていたにも関わらず首を突っ込んだのは彼女なのだから当然ではあるが。


「そうなんですかー。本当ごめんね、カーミラさんには助かったよー。あの人、一番厄介な絡み酒タイプだったみたいで」

「アンタ結構可愛い部類なんだから気を付けないと駄目よ? 魔王のお膝元で相当安全って言ってもああいうのがゼロって訳じゃないんだから」

「丁度衛兵を呼ぼうかと思っていたんだが、今日は運が悪い事に人手が足りなくて彼女以外居なくてね……」

「店長も店長よ。男なら店員の一人や二人自力で守ってやんなさいよ」

「う、そういう荒事には不向きな性質でね……」

「全く、そんなんだからその年で独身なのよ」


 チクチク文句を垂れ続けるカーミラ。まるで絡み酒だ。

 ……あれ? もしかしてカーミラ、酔ってる?

 コップ一杯分の酒なのに。


「わ、私が独身なのは関係無いでしょう?」

「いーや関係あるわね! アンタには男気とか覇気とかそういうのが無いから女が寄り付かないのよぉ!」


 あのー、私には先程の酔っ払いの立ち位置にカーミラが収まっただけに思えるのですが。

 カーミラって酒癖悪かったのか、何時もお茶ばかり飲んでいたから酒を飲むイメージが無かったのは確かだが。

 のんびり談笑しているのが気に入らないのか、アレクサンドラがカーミラに詰め寄る。


「おいカーミラ、他に用があるんだろう? ここで根を下ろしてないでさっさと行くぞ」

「えー、もうちょっと飲ませなさいよー」

「自分の口でちょっと立ち寄っただけだと言ったのをもう忘れたのか?」

「グチグチ横からうっさいわねぇ、アンタは私の小姑かっての」

「誰が小姑だ!」


 ……いかん、騒ぎを止めた筈なのに騒ぎが起きそうだ。

 注目を浴びる訳には行かないのに何故注目されるような事をし始めるのか。


「アレクサンドラさん、ちょっとカーミラさんの片腕持って下さい」

「ん? 何だ突然」

「引き摺って帰ります。お二方、どうもご馳走様でした。帰りますよカーミラさん、アーニャもおいで」

「はーい!」

「えー! ヤダヤダもっと飲むー!」


 この店の方にお礼をし、アレクサンドラに指示。

 二人でカーミラの両腕を抱えて店を後にする。

 変に騒ぎにならない内にさっさと城まで退却、目立ちたくないのでこれが懸命な判断だと思いたい。

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