表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/134

40.投げ

 止めた方が良いのでは。という助言も意に介さず、騒動の場所へと引き摺られて行き、大通りを外れた小道へと入る。

 先程の整然とした道と違い、こちらは所々舗装が剥げており、剥き出しの土が見えている。


 騒音のする場所は一軒の寂れた酒場であった。

 所々風化した壁に、営業中の立て札が吊り下げられている。

 木戸は開け放たれており、そこから室内の様子が見て取れる。


「あらら、よりによってこの店か。じゃあ放って置く訳にも行かないわよねぇ」


 誰に言うでもなくそう呟くと、再び私達を連行して店内に入るカーミラ。

 室内には明かりが灯っており、天井に光を宿した球のような物が吊るされている。

 何かの石のように見えるが、何故石が光っているのだろうか。これも魔法による代物なのだろうか?


 室内は倒されたテーブルが何個か転がっており、

 床はそのテーブルに乗っていたと思わしき食事や食器の数々が散らばっていた。

 奥には顔を茹でダコのように真っ赤に染め、酒気を周囲に撒き散らしながら怒声を上げる魔族が居た。

 岩かと見間違う程の巨体を至る所に傷跡が刻まれた鎧で包み込み、頭には鎧同様使い込まれた兜をかぶっている。

 まだ魔族に関する知識は乏しいものの、その姿は人に近いが赤銅色の肌を有しており、やはり人と掛け離れた肌の色である。

 恐らく魔王やクレイスのような亜人族、エルフ族といった類の者だと思われる。

 その奥には石壁を背にし、怯えた様子で身を縮こまらせた給仕姿の者と、

 その者を守るように身を挺して、目の前の酔っ払いをなだめ説得する者の姿が見受けられた。


「お邪魔しまーす。何か立て込んでるみたいね」

「あっ、カーミラさん!」


 奥で怯えていた給仕姿の魔族が、こちらに気付き返答する。

 名を知っているからカーミラの知り合いだろうか?

 だがその声に気付いたのは店員だけではなく、その酔った魔族も気付く。


「ん? おうおう随分エロいねーちゃんが来たじゃねぇか、お前こっち来てさっさと俺に酌しろよ」

「ですから、当店ではそういったサービスは行っていませんし、あちらはお客様――」

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ!」


 酔っ払いの振り下ろした拳が、説得していた魔族の顔に突き刺さり殴り飛ばされる。

 倒れ込んだ拍子に木製の椅子が壊れ、呻き声が小さく上がる。


「随分と乱暴な人ね、力尽くで言う事聞かせようなんて女の子に嫌われるわよ?」

「口では嫌がってても本心は欲しくて欲しくて仕方ないのが女ってもんだろうが、そんな誘ってる格好してよぉ」


 前半は同意しかねるが、後半は否定できないのが悲しい。

 男の性だ、仕方が無い。

 それにしても何故カーミラはわざわざそんな素肌の大半を晒す格好をしているのだろうか。

 トラブルの元になりそうなのだが……もしかしてトラブルを誘っているのだろうか?

 トラブルを起こして、それを誰かに擦り付けて、高みの見物とか。

 彼女ならやりかねない、と思ってしまう。


「残念だけど、私は貴方みたいなムサっ苦しい男は好みじゃないの」

「俺はお前みたいなのは好みだがなぁ……へへっ」


 酔った魔族は鼻息を荒くし、カーミラの胸元に手を伸ばすが、易々とカーミラの手に払い除けられる。


「それと、ここは私の馴染みの店だから。アンタみたいなヤツに荒らされたくないのよね」

「お前みたいなベッピンさんがいるなら俺も常連になっちゃおうかなー?」

「この店に迷惑だからやめて貰えない? それとも獣みたいに力尽くで分からせないと理解出来ないのかしら?」

「ふはっ! そんな糸みたいに細い腕で力尽くだって?」


 酒臭い口臭をカーミラに吐きかけながら、カーミラの肩を丸太のように太い腕で掴み、下品に笑い出す。


「おもしれぇ、やって貰おうじゃねえか」


 カーミラはそっとその肩に手を掛けた太い腕に両腕を添える。


「ま、すぐに俺の下でメスの泣き声上げるに決まってるんだ――ぶっ!?」


 右足で相手の片足を払い、バランスを崩させる。

 直後身体を勢い良く捻り、一気に腕を胸元に抱えるように引き込み、腰を深く落とす。

 岩のような巨躯が宙を舞い、茹で上がった頭が重力に引かれるように垂直に床に突き刺さった。

 この間、ほんの一呼吸するだけの一瞬である。


「い……一本背負い……」


 アレクサンドラがポツリと呟く。

 あんな細い身体であの巨体を投げ飛ばすなんて、一体彼女の何処にそんな力があるのだろうか。


「……思わず頭から落としちゃったけど、死んでないわよね?」

「か、カーミラさん凄い! あんな大きな相手を一発で倒しちゃうなんて!」


 脅威が去った事で、子供のようにはしゃぎ出す給仕姿の魔族。

 無邪気に笑うその笑顔は何処か微笑ましくもある。


「ちょっとこの酔いどれを外に放り出すから、アンタ達手伝ってくれる?」

「あ、はい」

「……私もか?」

「当たり前でしょ」


 カーミラに指示され、頭からオチた酔いどれ魔族をアレクサンドラと共に抱え上げる。

 お、重っ! アレクサンドラと共に抱えてる以上、その分重量は分散されている筈なのに。

 こんな重い相手を一人で投げ飛ばしたのか……恐るべし。


 カーミラに反抗するのは賢明ではないな。

 店の外に酔っ払いを突き転がしながらそう思った。

この5日後になって慌てて書き出すのを何とかしたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ