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39.散策

「下町に行くわよー、ほらさっさと準備して」


 朝食を済ませた後、与えられた自室で娘と共に積み木で遊んでいる至福の最中、

 扉を壁に叩き付けんばかりの勢いで開け放ったカーミラは唐突に私達に告げる。

 小脇にはこの間捕らえられた勇者であるアレクサンドラが抱えられている。

 凄く不服そうな表情を顔に貼り付けて抗議の意を示しているが、肝心のカーミラは我関せずである。


「今からですか……?」

「善は急げよ」


 魔族の何が善なのかは分からないが、カーミラは行く気満々のようだ。

 とても断れる雰囲気ではない。


「カーミラおねえちゃん、どこかいくのー?」

「お城の外だよ、アーニャちゃんも一緒に行く?」

「いくー!」


 年頃の女子らしく、無邪気に喜ぶアーニャ。

 カーミラの前だと、何時ものアーニャと変わらないのだが、何故クレイスや魔王の前では豹変するのだろうか。

 もしかして猫を被ってるのだろうか、いやそれは考えたくない。

 もしそうなら私にもそう対応している事になる。

 今私の目の前に居るのがアーニャではなく、別の誰かなどと考えたくない。


「何故私が魔族の町に行かねばならないのだ」


 無言の抗議を続けていたが、通じないと観念して有言の抗議に移るアレクサンドラ。


「貴女が倒すべきあいては魔王や魔族だと思ってるんでしょ? なら、その実態を探っておくのも悪く無いんじゃないかしら?」

「それは、そうだが」


 物は言い様である。


「アルフ、貴方は一緒に来るわよね?」


 笑顔を浮かべているが、有無を言わさず付いて来いというオーラに満ち満ちている。

 それはアレクサンドラを抱えてこの部屋に突撃してきた事からも一目瞭然である。


「……分かりました、今日は特訓も無いみたいなので構いませんよ」

「特訓? 一体何してるのよ」

「身体が鈍らないようにしてる体力作りですから、大した事はしてませんよ」


 大荷物抱えさせられて、邪神直々に走り込みさせられてるだけです。

 日頃から鍬を振るっていた私でも、流石にキツい。

 今日は身体を休める為の安息日と聞いている。


「体力有り余ってるなら、私が夜の相手してあげようかー?」


 怪しげな笑みを顔に貼り付けながらわざとらしく声を作るカーミラ。

 出る所が出て、引っ込む所が引っ込んだそのナイスバディを大胆に露出した格好でそんな事を言われたら……


 アーニャが真顔でこちらを見ながら殺気を放っている、考えるのは良そう。


「あの、冗談ですよね?」

「……冗談よ。それに何時までも城の中に引き篭もってると気が滅入るでしょ? 気分転換よ気分転換。流石にレオパルド内から逃がす訳には行かないけどね、魔王の厳命だし」


 カーミラもアーニャの気配に気付いたのか、会話を畳む。


「これ被って、城から出るわよ」


 そう言うと、カーミラは薄汚れたフード付きのコートを手渡してきた。



―――――――――――――――――――――――



「これが……城下町、という物ですか……」

「キョロキョロし過ぎよ、田舎者や不審者に見えるわよ」

「生憎ですが実際、田舎者でして」


 都会から大分離れたフロテア村で過ごして来て、

 精々農作物を捌きに少々大きめの町へ出るだけの私からすれば、何もかもが驚きである。

 荷馬車が3台でも4台でも悠々と往来出来る程の幅の大通りが煉瓦でしっかりと舗装されており、

 道同様、煉瓦で組み上げられた建物の数々が大通りの脇を固めるように並び立っている。

 その建物の前で無数の露天商が品物を広げており、

 買い付けようとせわしなく往来する魔族が何十何百と闊歩している。

 その喧騒は目を瞑っていても活気を感じさせる。


「わー……」


 アーニャも初めて見る城下町の様子に、言葉が出ずに意味の無い声が漏れるだけである。


「これが、魔王の治める地……レオパルド……」

「どう? 人間達の間で聞かされてたのと大分違うでしょう?」


 アレクサンドラに視線を向けながら、得意気に胸を張るカーミラ。

 確かに、魔族の住まう地は荒廃し、毒沼や瘴気が立ち込める邪な地と聞かされていたが。

 ここに来てからその話は全くのデタラメだったという事が分かった。


「何を言う! この町は確かに豊かかもしれないが、道中の荒れ果てようは酷かったぞ! 野蛮な魔族が治める地など所詮はこんな――むぐっ」

「はい、ちょっと声のボリューム落としてね。何の為にアンタ達にフード被せてるのか意味が分からなくなるから」


 アレクサンドラの口を手で押さえ付けながら言葉を制するカーミラ。

 以前訪れたカーミラの居城跡は酷い荒れ方だったが、人の手が入らなくなった廃墟なんてあんな物だろう。

 城内だけはカーミラが片付けていたのだろう、結構綺麗だったが。


「城内の者にはとっくにバレてるのですが、一応秘密なのですよね?」

「そうよ、城内の魔族は魔王に直接仕える誇り有るエリート集団で意識も高いから秘密は漏洩しないでしょうけど、他は違うからね」


 魔王直属の部下、私達でいうファーレンハイト王家に仕える近衛兵みたいな物だろうか?

 確かにその位の者達なら口は堅そうではある。


「……それを私が吹聴したらどうなる?」

「そうしようってんなら、気が乗らないし残念だけど。喋り終わる前にその首と頭をオサラバさせるしかないわね」


 何時もの軽口を言う調子ではあるが、真剣な表情で言い切るカーミラ。

 まるで刃物を押し付けるかのように、その指をアレクサンドラの首筋に当てる。

 その迫力にアレクサンドラは低く唸り声を上げて押し黙る。


 恐らく……いや、カーミラは本気で言っているのだろう。

 そしてそれは私も例外では無い。

 私がそのような真似をすれば、私の命も無いのだ。


 街中は相変わらず騒がしいが、先の十字路を曲がった先辺りから一際大きな物音が聞こえる。

 これは、怒鳴り声のようにも聞こえる。

 何かが倒れるなり壊れるなりする音も聞こえて来る、どうやら穏やかな雰囲気では無さそうだ。 


「……あら? 何か向こうが騒がしいわね、行ってみましょうか」

「あの、カーミラさん? バレたら不味いってさっき言ってませんでしたか?」


 トラブルは避けた方が無難だと思うのですが、何故そこに行こうとするのか。


「厄介事はノーサンキューだけど、騒ぎには首突っ込む事にしてるのよ私。何故なら、その方が楽しいから!」


 満面の笑顔で言ってのけるカーミラ。

 間違いなくこれは彼女の本音だろう。

 ここ数ヶ月彼女と過ごして段々性格が分かって来た、

 多分彼女は祭りや高みの見物が大好物なんだ。

31日は5日間隔の中に入らないのデス

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