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38.魔王と勇者

 広大な面積を誇る魔王城のエントランス。

 その中央には真紅の絨毯が真っ直ぐに伸びており、その先が正門へと繋がっている。

 以前ドラグノフが壊した正門は修繕が施され、城の主を出迎えるべく音を立てて開け放たれた。

 城内へ向けて悠然と闊歩する四つの影。

 一つは巨大な翼を携えた、竜族の四天王、ドラグノフ。

 その片手には自慢の愛槍、ガジャルグが握られている。

 二つ目は褐色の肌にすらりと伸びた手足。下手すれば女性と見間違えてしまいそうな、

 エルフ族特有の美貌を持ち、魔王の頭脳として働く四天王の一人、クレイス。

 私達の村を襲った張本人でもある。

 三つ目はこの城の主にして人類最大の敵。

 身の丈2メートル近い体躯で、真紅の髪をなびかせ堂々たる歩みを見せる。

 不気味な黒い鎧を全身にまとい、何度も顔を合わせた筈なのに未だ恐怖心が心の底から抜け切らない。

 第54代魔王、サミュエル。

 そして最後は彼等の前を先導するかのように、小さな歩幅を存分に使い小走りで私に駆け寄る小さな影。


「おとーさーん。ただいま!」

「おかえりアーニャ」


 私の大切な一人娘、アーニャ。

 その身に『邪神』と呼ばれる、得体の知れない存在を宿した我が子である。


「おかえりサミュエル。アンタが留守の間に賊が忍び込んでたからとっ捕まえて置いたわよ」

「賊? まだ魔王様に逆らおうという輩が居たとは。魔王様のお強さを理解出来ないとはどうやら随分可哀想な頭の持ち主のようですね」

「捕らえるなどと手緩い、その場で叩き殺してしまえば良かった物を」


 賊。

 先日カーミラが捕らえた勇者の事だろう。

 やはり報告するんですね、当然と言えば当然ですが。


「――って、言われてるけど?」

「こいつが、魔王――! 私達の最大の敵……!」

「! 何故人間がここに居る! 誰だ貴様は!」


 私も人間ですが、という冗談はさて置き。

 帯刀している柄に手を伸ばし構えるクレイス。

 魔王を守るようにその前に立ちはだかり、件の彼女を睨み付ける。


「あぁ、コイツ無力化したから身構えなくて良いわよ。勇者だってさ、今代の」

「勇者だと!?」

「だから身構えなくても良いって言ってるでしょうが」

「貴様何故勇者と行動を共にしている! 裏切る気か!?」

「だから落ち着けって言ってんでしょうが!」


 カーミラの言葉も空しく、騒ぎ立つクレイスとサミュエル。


「もうこの子は私達に手出し出来ないから。さっきから無力化したって言ってるでしょうが」

「カーミラ、どういうつもりか聞かせて貰おうか。何故勇者と共に居る?」


 魔王であるサミュエルの質問もご尤もである。

 自らに剣を突き立てる存在を生かして置くカーミラの行動は理解不能であろう。

 私としては勇者に生きていて欲しいのだが、魔族からすればそういう訳にも行かないだろう。


「サミュエル、貴方には以前言った事があったわね。私はまだ見ぬ世界を見たいと。ここで勇者を殺すのは簡単よ、でもどうせ彼女を殺した所で、人間達は新たな勇者を送ってくるだけ」

「また来るなら人間共が理解するまで殺し続けるだけです、魔王様に敵う者など、この世に存在しないという事を」

「クレイス、アンタ黙ってなさい」


 横槍を入れてきたクレイスを一喝し黙らせるカーミラ。

 今まで見てきた何処か飄々とした態度のカーミラと違い、今は表情も、口調も真面目で真剣な様子である。


「だから私は彼女を殺さず無力化したのよ。どう彼女を使うかはまだ考えてないけど、折角だし彼女を使って何か前向きな事でもしようかなと思ってさ」

「成る程、勇者を懐柔しようという訳か。中々悪く無い案だな」


 あっさりカーミラの提示した案を受け入れるサミュエル。

 魔王がこの中で一番即座に処刑しろ、など言うと思っていた私からすれば少々意外である。

 何せ勇者が狙うのは魔王の命、即ち自分自身の命だ。

 そんな危険な存在を生かして置く理由が無い。

 それともその危険性を考慮しても、勇者である彼女を生かしておいた方が良い利点でもあるのだろうか。


「流石サミュエル、話が分かるわね」

「その拘束具で無力化しているのだな、だがそれだけでは少々不安が残るな。最低でも更に四六時中監視を付けさせろ、それがお前の案を許可する条件だ」

「あぁ、それなら大丈夫よ。その位はしないとアンタが不安だものね、監視は私が直接するわ。勇者を破った私が直接監視に付くなら文句無いでしょ?」

「確かに問題無いな。まぁ……いかに勇者であろうと、こんな小娘相手に寝首を掻かれる程私は落ちぶれたつもりは無いがな」

「何だと……!」


 勇者の風貌を上から下まで流し見て、あざ笑うかのように嘲笑するサミュエル。

 驕りにも見えるが、まかり間違っても魔族最強である魔王という存在が油断などする訳が無い。

 これは単に自信の表れなのだろう。


「はい、アレクサンドラちゃんは口答えしない。私に勝てなかったアンタがサミュエルに勝てる訳無いでしょうが」

「ちゃん付けで呼ぶな!」

「だが、お前の城とゲートの守りはどうする。そこの警備はお前の担当だろう」

「大丈夫大丈夫、この子は私の城で管理するから。それなら兼任出来るから問題無いでしょ?」

「それで本業の警備が疎かになったら承知せんぞ」

「あんな廃墟に忍び込む輩なんてそもそも全然居ないし、問題無し!」


 余裕と言わんばかりにサムズアップするカーミラ。

 良い笑顔だ、というかカーミラの四天王としての役割って警備だったんですね。

 確かにあんな廃墟みたいな城からいきなり魔王城の懐に潜り込める重要拠点、信頼の置ける人員を配置するのは当然か。


 あの城はカーミラの居城、そこを警備するのがカーミラの役目。

 普段は特に誰か侵入する事も無いので悠々自適に生活。

 ……自宅警備員。

 あれ、何処かで聞いた事あるな。確かそういう人って巷ではニー……

 これ以上は考えちゃ駄目な気がする。


「良かろう、クレイスもそれで良いな?」

「魔王様がそう仰るなら……カーミラ、絶対この人間から目を離すなよ」

「うっさいわねぇ、言われなくても分かってるからクレイスはさっさと事務作業で引き篭もってなさい」


 羽虫を追い払うような仕草で手を振るカーミラ。

 クレイスの事本当に嫌いなんですね、私も大嫌いですが。


「好きで引き篭もってる訳ではありません! 全く、暇ならカーミラも書類作業を手伝って頂きたいですね」

「あー私そういうチマチマした作業無理、性に合わないわ」

「あぁ……また書類の山に埋もれるのか……」

「頑張りましょう、魔王様」


 うなだれる魔王を励ますクレイス。

 普段どんな仕事をしているのかは私には見当も付かないが、

 ずっと机に向き合っている仕事なんてさぞや苦痛なのだろう。

 そのまま過労で倒れてしまえ。

 口には絶対に出さないけれど。


5日置き間隔の投下、何処まで続くかな。

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