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36.帰還

「すみませ……魔王、様……」

「クレーイス! しっかりしろー!! 傷は浅いぞ!?」

「何だおめー、随分ボロボロだなー!」



 邪神の小娘の乱入によりノワールとの決着は付かず、取り逃がす結果に終わった。

 しかしノワールが逃亡しようと飛んで行った先はどうやら人間達の領土のようだ。

 我等魔族の住まう地からはノワールは去り、一先ずこれ以上魔族に被害が及ぶ危機は当面去ったと言えよう。

 人間の領土でノワールは暴れ回るかもしれんが、それはそれでこちらに都合が良い。

 人間達を疲弊させてくれるならこちらとしても大いに結構。

 だがもしノワールが再び人間の地から戻って来るような事があれば、その時がノワールとの決戦の時だ。


 何の断りも無しに城を抜け出したという理由で、邪神の手で執拗な折檻を受けた後。

 城に戻ろうと重い足取りで歩を進めるとそこには行き倒れた一人の姿があった。

 何処か見覚えのある姿に、何者かと思いその姿を確認する。

 それは城に居る筈のクレイスの姿であった。

 顔半分が腫れ上がり、エルフ族の持つ美貌が見るも無残な姿になっていた。


 ――そして、冒頭の会話に繋がる。


「あの邪神の質問攻めに耐え続けたのですが、アーニャに報告書が見付かってしまって……」

「もう良い! 喋るなクレイス! 傷口が広がる!」

「おーちびっこ。やっぱお前強いなー! あのノワールの奴が子供みたいだったぜー」

「静かにしてろドラグノフ! 回復魔法は専門外で苦手なんだから少しは協力しろ!」

「協力って言ってもさー、あたい魔法は良くわかんねーし」

「黙ってろと言っているんだ!」


 クレイスの容態を一切意に介さず、暢気に邪神と談笑するドラグノフ。

 どうやら傷は完治し後遺症も無いようだが、元気になったせいか再び周囲構わず大声で喋りだしている。

 相変わらず邪神は一体何がしたいのか分からない。

 このクレイスも、そして私も。恐らく邪神は殺そうと思えば何時でも殺せるのだろう。

 だがそれをしない。このクレイスも酷い怪我を負っているが命に関わるような傷は何処にも無い。

 この邪神問題も放置する訳には行かないだろう、先送りにしてばかりだが好い加減対処を考えなければ。

 しかし現状どうやったらこの状態を解決出来るのか手掛かりが無い。

 正直、詰んでる状態だ。


「どうだ、立てるかクレイス?」

「はい、大分楽になりました。この御恩は忘れません」

「お前の普段の貢献を考えればこの程度」


 重傷な場所だけは不得手ながらも治療を終えた、これで傷跡が残るような事は無いだろう。

 こんな道端で何時までも立ち往生していても何も進展は見込めない、

 何はともあれ、一先ず我が居城へ戻る事にする。

 


―――――――――――――――――――――――



「やはり魔王様は我々を見捨てなかった!」

「これでもうドラゴンに怯えずに済むんだな」

「魔王様、万歳!」


 現状の報告と馬車の拝借を請いにクロノキアへと戻る。

 我々を出迎えたのはクロノキアに住まう魔族達であった。

 2~300人程だろうか、非作業員の全員、いやもしかしたら作業員の一部も居るかもしれない。

 早くもノワール撃退の報が届いていたようだ、撃退したのは邪神の小娘だが。

 馬車を拝借するのは、ドラグノフ一人なら飛んで行けば良いだけの話だが、私とクレイスはそうも行かない。

 私は飛行魔法を使用できるが、とても長時間の長旅に使えるような物ではない。

 クレイスに至っては習得していない。帰るには必要な物だろう。


 幸いクロノキアの住人は二つ返事で馬車を貸し出してくれた。

 城とクロノキア間はとても徒歩で行ける距離ではないので有難くこの好意に甘える事にする。

 魔王城に魔王不在というのはあの地に住む他の魔族から見れば余り宜しくない。

 カーミラが残っていてくれてる筈だが、私の不在を良い事に不穏分子が良からぬ事をしないとも限らない。

 さっさと戻るに越した事は無いだろう。


「やはり魔王様は我々にとって無くてはならない存在でした。クロノキアの一同を代表してお礼を言わせて下さい」

「手に負えないような事態が起こったなら何時でも報告を寄越せ、魔王の名に恥じぬよう取り計らってみせよう」


 犬面をした、コボルト族の者であろう兵士が深々と頭を下げている。

 こうしている間にも城に仕事の山が溜まっている。

 カーミラは一切事務他城の業務に関わろうとしない、ドラグノフも同じだ。

 溜まった仕事は全て私とクレイスで片付けなければならない。

 早急に戻る為に、クロノキアの者とは簡単な挨拶だけ済ませ、馬車へと乗り込んだ。



―――――――――――――――――――――――



 クロノキアの街から沸き立っていた歓声も遠く小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 車窓からは岩肌を露出させた起伏に富んだ地形と、遠くには頂上に薄っすらと雲が掛かった山嶺が見渡せる。


「はぁ……」


 戻ったらまたあの書類の山に押し潰される日々が始まるのか。

 その光景を考えると、無意識に溜め息が漏れる。


「魔王様、無事にノワールを撃退できたのですね」

「ん? そ、そうだな」


 馬車に同席しているクレイスの言葉に取り繕うように答える。

 小娘の横槍のせいで決着が着かなかったが、な。

 正直な感想を述べれば、私とノワール、どちらが優勢だったかは判断し難い。

 あの邪魔立てが無かったなら、どちらが最後に立っていたかは分からないだろう。


「――今回ばかりは、あの邪神に助けられたのかもしれないな」

「何を馬鹿な事を。その冗談は笑えませんよ魔王様」

「そうか、冗談のセンスは私には無いようだな」


 御者席に視線を向ける。

 馬に視線を向け、無邪気に笑顔を浮かべる邪神の小娘が映り込む。

 人の皮を被った悪魔め!

 魔王城へ辿り着くにはまだ時間が掛かる、少し考えてみるとするか。


 邪神とは、何だ?

 古文書には、邪神を復活させ、この世に混迷と滅びをもたらす力と記されていた。

 確かに、混迷はしているな。こやつのせいであらゆる今後の計画に破綻がもたらされた。

 人間領へのあらゆる進攻計画は現状ストップしている。

 邪神というからには、破壊と殺戮を好む者だと思い込んでいたがどうやら違うようだ。

 いや、好んでるか。城を散々破壊してくれて、私やクレイスを思う存分痛め付けているか。

 書いてある通りではあるな。

 その力を利用しようと目論んだのだが、魔王の力を以ってしても利用は叶わないようだ。

 ではもう一つの謎だ。

 邪神は、何故こんなにも強いのだ?

 私は歴代魔王最強などと驕り高ぶった思考は持っていないが、

 少なくともその気概が無ければ魔王は勤まらない。

 その私がまるで赤子同然だ、まるで意味が分からない。

 唐突に性格が変わるのも良く分からない、分からない尽くしだ。

 とはいえ、私やクレイス程の力と地位を持ってしても分からないとなれば、

 最早この地に邪神に関する文献は残っていないのではないかと思えてくる。


 ――となれば、残る可能性は人間領か。

 人間領にも古い文献は多数残されているだろう。

 だが見せて下さい、はいどうぞとは行く訳があるまい。

 何か方法を見出さなければな。

 この邪神がいる限り、人間の支配進行はままならぬであろうからな。

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