34.不死の四天王
「我が名はアレクサンドラ・フォン・ロンバルディア! 人々の希望を託された勇者として! 我等人類の安寧と未来の為、貴様を討つ!」
「私を倒して、魔王を倒す……か。それで本当に平和が訪れると思ってるなら、とんだお笑い種ね」
戦いの口火を切ったのは、カーミラであった。
自らの手を振り下ろし、その動きに追従するように空から稲妻が一閃する。
魔力反応を感知したアレクサンドラは咄嗟に前へ出て一撃を避ける。
直後、アレクサンドラが居た位置の地面が爆ぜる。
袈裟懸け切りにするように剣を振りかぶり、カーミラ目掛け猛進する。
それを迎撃するように手を振り払い、振り抜いた空間から風の刃がアレクサンドラ目掛け飛来する。
しかし既にアレクサンドラとカーミラの間合いは近い。
振り下ろした剣が風の刃を打ち払い、諸共カーミラを切り捨てようと刃を光らせる。
迎撃が間に合わないと判断したカーミラは即座に後ろへ飛び退き、距離を離す。
「汝は槍、穿つは紫電の閃光! ライトニングスピア!」
矢継ぎ早に詠唱を終え、次の魔法を繰り出すカーミラ。
火花を散らしつつアレクサンドラ目掛け真っ直ぐに紫電の槍が飛び込む。
アレクサンドラの持つ剣が雷の槍と衝突し、槍の勢いを押し退け打ち払う。
「持ち主が未熟とは言え、流石聖剣の力ね。この程度の魔法、難無く薙ぎ払っちゃうか」
「私が未熟だと……!」
「えぇ。先代勇者と比べて、貴女は何もかも軽い。太刀筋も、掲げる信念も。おまけに頭も悪いと来たから始末に置けないわね」
「言わせて置けば!」
激昂し、カーミラの頭上目掛け剣を振り下ろすアレクサンドラ。
その単調な動きを読まれたのか、その剣を両手で挟み込み防御する。
真剣白刃取りである。
「嵐よ、矢となり薙ぎ払え! ストームアロー!」
カーミラの詠唱を察知したアレクサンドラは咄嗟に後ろへ飛び退く。
しかし一瞬早く詠唱が完了したカーミラの風の矢がアレクサンドラの腕や脇腹を掠める。
「ま、ちょっとしたオシオキ位はするけど命までは取らないであげるわ。私は別にそこまで非情で冷酷無比なキャラじゃないしー」
「ハアッ!」
再びカーミラの懐へ潜り込み、息も付かせぬ斬撃をカーミラに見舞うアレクサンドラ。
魔力を宿した腕でその攻撃を二度三度といなし、時折隙を見てはアレクサンドラへ攻撃を加える。
しかしその攻撃を見切られているのか、決定打にはならず掠り傷を増やすのみである。
必死の形相で立て続けに攻撃し続けるアレクサンドラに対し、様子を見ているのか余裕の表情を崩さないカーミラ。
その余裕は実力の伴った自信なのか、それとも油断や慢心なのか。
「そんなに焦ってがっついちゃってぇ……女の子にはもっと優しくしないと駄目じゃない。あ、貴女も女の子だったわね」
「無駄口ばかり叩いていると死ぬぞ!」
「――それはご忠告どうも。でも貴女に私を殺せるとはやっぱり思えないのよね」
「なら――これはどうだ!」
カーミラから再び距離を離すアレクサンドラ。
しかし今回は様子が違う、回避が目的では無いようだ。
「聖剣よ、その力を解き放ち邪を浄化せよ!」
アレクサンドラの言葉に従うかのように、手にした剣に優しくも力強い、白い光が宿る。
「! それは――」
「聖天斬!」
瞬き一瞬の出来事であった。
爆発的な光が爆ぜ、刹那を白で染め上げる。
眩い閃光が止むと、剣を振り抜きカーミラの背後に立つアレクサンドラの姿があった。
立ち尽くすカーミラの掲げた右腕と共に、頭部が地面へと転がる。
力無く地に伏すカーミラ。誰の目から見ても決着は明らかであった。
「――光の精霊様の加護を受けた一撃だ、貴様等みたいな悪に染まった者であらば防御すら許されん」
首を刎ねられ、物言わぬ亡骸と化したカーミラを横目で見やりながら呟くアレクサンドラ。
「残りの四天王はこの城に居るのだろうか……?」
アレクサンドラは城の入り口へ向けて歩みだそうとしたその刹那、背後から漂う有り得ぬ気配に気付き足を止める。
気配の元を振り向くと、そこには妖美さを黒衣で包んだ女性がたたずんでいた。
「あー、ちょっと油断してたわね。貴女がその技を会得してるとはねぇ。勇者の名は伊達じゃないって事だけは認めてあげるわ」
「な――何で……確かに貴様は私が――」
「なーに首落とした位で勝った気になってんのよ。そんな程度で私が死ねる訳無いじゃない」
「何故だ、何故首を刎ねられて吸血鬼が生きていられるんだ!?」
「何故? そんなの決まってるじゃない」
切り落とされた筈の右手で、同じく地面に転がっていた筈の頭髪をかき上げるカーミラ。
「私は四天王の一人、『吸血姫カーミラ』。『不死の姫』、絶対に死なないのよ。そんな攻撃で倒した気になられちゃ困るわね」
「絶対に、死なない――!?」
「さぁ、続きと行きましょうか? 貴女がヘトヘトの腰砕けになるまで、たっぷり可愛がってあげるわ……ふふっ」
不敵な笑みを浮かべ、カーミラは笑う。
死という終わりが存在しない彼女の戦いは、終わらない。




