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27.受け継がれる遺志

 以前、ノワールと戦った時。

 その巨躯と力を抑え込む事は私の力不足により叶わなかった。

 已む無くノワールを討つ事にした私は、二度目のティルフィングの魔力解放を行った。

 致命傷を与えた事で逃亡を図ったノワールを捨て置いたのは、今考えれば単に私の驕りであり、落ち度である。

 そのツケが回りに回って今、こうして私に再び牙を剥いている。

 ノワールの行動方針は、旧来体制の魔王の有り方そのものである。

 人も魔族も問わず、圧倒的な暴力と恐怖心によって統一、支配しようと試みた者である。

 それを実現し得るに足る力は充分に兼ね備えており、私がノワールと対峙した時には既に配下であるドラゴン達を全て力で屈服させていた。

 ノワールもまた、魔王としての資質は持ち合わせていたのだろう。


 ――だが私は、彼の目指す魔王像に賛同は出来ない。


 その道は、先代魔王達が幾度と無く歩み、失敗に終わった道。

 志半ばに倒れた数は、一人や二人ではない。

 時に人間の立てた『勇者』に討たれ、時に魔族の叛乱分子に討たれた。

 力と恐怖だけでは、我等魔族の平和を勝ち取る事は不可能なのだろう。

 だから私はノワールを討たねばならないのだ。

 ノワールの目指す世界に、私の思い描く理想は存在しないから。




 かつて私が幼い頃、私は当時の魔王陛下にお会いした事があった。

 彼は今までの魔王とは違い、好き好んで戦乱の火を広げようとはしない方であった。

 勿論、人間達が攻め込んでくるような時は前線に立って勇猛に剣を振るったが、自ら人間達の地に攻め入る事は無かった。

 旧来体制の魔王の有り方を良しとしていた者からは、穏健派であるこの魔王は散々悪態を突かれていたが、

 長年人と魔族による争いで疲弊していた魔族の民には、彼の魔王としての有り方は賛同された。

 彼は魔王に足る力を、壊し殺める事にではなく、守り生かす為に使い続けた。

 虐げられていた弱小部族に救いの手を差し伸べ、圧政や差別を行う者には容赦しなかった。


 今までに無いその行動は、未だに魔族達の間でも賛否両論となっているが、私は彼の魔王としての功績を評価している。

 幼いながらも、当時の彼の背は雄大で。王の貫禄を携えた素晴らしい方だと認識していた。


 だからこそ。

 彼――先代魔王が、人間達が送り込んだ勇者によって討たれたという事実が、理解出来なかった。

 当時の魔王は穏健派であり、反撃や報復だけは行ったが自ら攻め込むような事は一度も行わなかった。

 人間達に討たれる理由など、無いではないか。

 それ以前に、あれ程の強い魔力を有していた魔王陛下が……敗れた?


 勇者という存在を、否応無しに意識せざるを得なかった。

 魔王が我々魔族にとっての希望の光なら、勇者は人々にとっての希望の光なのだろう。

 そしてそれはそっくりそのまま、我々にとっての破滅の象徴となり得るものだ。


 魔王が勇者によって討たれた報が全土に知れ渡った頃には、再び我等の地は力が支配する乱世の世となった。

 新たな魔族が魔王として名乗りを上げ、その者同士が殺し合う。

 その都度血は流れ、魔族達は傷付いていった。


 彼が胸の内で一体何を考えていたのかは、私に知る余地は無い。

 だが、彼の目指していた『魔族間で無駄な血が流れない』世界。

 それはとても暖かくて、素敵な世界なのだろう。

 私はその世界を見てみたい。


 その為に、私は彼の遺志を継いだ。


 彼の遺志を継ぎ、私は『魔王』の名を名乗り上げた。

 空席となった魔王の座を狙う輩と、日夜殺し合う激闘の日々に自ら身を投じた。

 私はその戦いで勝ち続けた、勝ち続けねばならなかった。

 他の魔王候補は、皆が皆揃い示したように暴力こそ正義の血が流れ続ける未来を見据えていた。

 あの優しい先代魔王の遺志を継ごうという気概を見せる者は、誰も居なかった。

 誰も彼の有り方に賛同する者は居なかった。

 いや、もしかしたら居たのかもしれない。

 だが彼が手を差し伸べ助け上げられた者は皆、力の無い非力で虐げられ続けた者達である。

 そんな彼らに、遺志を継ぎ魔王の座に辿り付けるような力は無かった。そもそも、そんな力があったなら虐げられる事も無かっただろう。


 私が魔王となって、証明せねばならなかった。

 彼の魔王としての生き方は、決して間違いでは無かった事を。

 私が倒れれば、彼の築いた道が途絶えてしまうのだ。


 我武者羅に私は戦い続けた。

 新たな仲間を得る事もあった。

 私に賛同し、支援してくれる者も居た。

 大切な同胞の命を失う事もあった。

 心無い罵声を浴びせる者も居た。

 それでも私は魔王としての道を目指し続けた。


 何時しか、私が魔王を自称する事に異議を唱える者は居なくなった。

 最大の障害であった黒竜王ノワールが敗走し、私は新たな魔王としてその玉座に収まった。

 私は魔王として、かつて私が憧れた先代魔王の夢を実現に導こう。

 先代の悲願、真の魔族の平和の為に。



 ――だからこそ、私はお前を今度こそ討ち取る必要があるのだ。

 過去の亡霊(ノワール)よ、消え去るが良い。

 私の、私達の悲願の為に!

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