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25.魔王継承

 ドラグノフの傷の具合を流し目で確かめる。

 ノワールの放った魔法矢は心臓には当たっていないようだ。

 戦闘不能の深手だがドラゴンの持つ生命力を使い回復に集中させれば命に別状は無いだろう。


「ドラグノフ、お前は下がって傷を治すのに専念していろ。こいつは私の相手だ」


 先程ノワール目掛け放った魔法攻撃による傷は、既にあらかた回復しているようだ。

 詠唱破棄した魔法と速度重視の魔法では所詮こんな物だろう。

 傷が癒えて落ち着いたのか、こちらに視線を向けてくるノワール。

 露骨な敵意に満ちた、殺気を隠し切れない目だ。


「く、くはははは……! 良くも私の前にのこのこと顔を出せた物だな……小僧」

「魔王であるこの我を小僧呼ばわりか。笑わせてくれる……今度は確実にその首()ね飛ばしてくれよう」

「ぬかせ! (しかばね)を晒すのは貴様の方よ!」

「相変わらず威勢だけは良いようだな、弱い犬程良く吠えると言うが」

「この私が、犬畜生と同じだと……!」

「まぁ、そんな事はどうでも良い」


 私は闇に紛れたままのノワールの様子を注視する。

 報告書通り、ノワールの左目の下部に傷がある。

 あの傷は以前、私がティルフィングを用いて付けた物だ。

 刃の入り方が浅かった為、掠り傷程度にしかならなかった。

 ましてや相手は魔物や魔族の中でも随一の生命力を持つドラゴンである、そんな傷は掠り傷以下である。

 一息深呼吸している間に完治してしまうだろう。


 しかしその傷は数十年経った今でも、塞がっていない。

 例え相手がドラゴンであろうと、魔剣ティルフィングに宿った力がそれを上回り、身体を蝕むからだ。

 ティルフィングの力は例えあのノワール相手でも有効、だからこそ一つ不可解な点がある。


「――貴様、何故あの深手で生きていられる? あの時左腕に刻んだ傷は、お前を殺すに足る物だった筈だが」


 昔、魔王の座を賭して、当時ドラゴンを統べる王であった黒竜王ノワールとの最終決戦に臨んだ。

 その戦いの最中、私は実質最後であるティルフィングの二度目の力を解放し、その黄金色の刃でノワールの左腕を深々と一閃した。

 ティルフィングの真の力に恐れを成したノワールは戦場から逃亡、これにより魔王の座を賭した戦いは幕を下ろした。


 あの時与えた傷も、残っている筈なのだ。それは目元にある傷が証明している。

 いかにドラゴンといえど、あれだけの深手を負い、挙句傷口がティルフィングの力で塞げないとなれば失血死を免れる事は出来ない。


「……私は、あの戦いの後この地に落ち延び、闇の奥底へ身を潜めた」


 ノワールが、静かに語り出す。

 さながら、当時の戦いの日々を振り返り懐かしむような口調だ。


「貴様の与えてくれたこの傷は、それはもう屈辱の極みだったぞ?

 常に傷口を火で炙られているような激痛が延々と続くのだからな。

 この呪いの刻印を拭い去るのは、高い代償を支払う羽目になった」


 洞窟が、揺れる。

 頭上の岩肌に亀裂が入り、土埃が舞い落ちる。

 ノワールの内から噴出する怒気と呼応するかのように、洞窟内が崩落を始める。

 眼前の敵から意識を切らぬよう警戒しつつ、ドラグノフへ視線を寄せる。

 流石に相当な深手で、まだ回復には程遠いようだ。

 このままではドラグノフが崩落に巻き込まれ生き埋めになる、抱えて背を向けて逃げるという訳にも行かないだろう。

 一歩後ろに下がり、ドラグノフを守れる位置取りをする。


 私は仲間である魔族を見捨てない、またそうでなくてはならない。

 私がかつて憧れた、先代魔王陛下の目指した未来の為に。


 巨大な岩が土砂と共に降り注ぐ。

 生憎、私は防御魔法は得意ではない。

 だからこの降り注ぐ岩塊は全て――打ち砕く!


「死を振り撒く赤き光、今この場に顕現(けんげん)せよ! 爆ぜろ赫焔(かくえん)、エクスプロージョンスフィア!」


 自らを中心として、逆巻く波濤(はとう)の如き紋様を示す球体が展開される。

 その球体に触れる土砂は全て焼け果て、塵と化す。

 塞き止めた堤防が決壊するように、球体が爆ぜる。

 鼓膜が破れそうな程の轟音と共に、四方八方灰燼と帰す破滅の咆哮が轟いた。

ルビ振りテスト

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