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24.真の竜、真の魔王

 闇の奥底から、無数の魔法攻撃が飛来する。

 風の斬撃が岩肌を裂き、雷の衝撃が地盤を打ち砕く。

 鋭い氷の柱がドラグノフの身体を貫かんと四方八方から飛来し、

 その多彩な攻撃を時に避け、時に槍で打ち払う。

 手を替え品を替え、ドラグノフを攻めに転じさせない多彩な魔法による物量攻撃。

 この嵐のような魔法攻撃を前に、体捌きと槍の力により上手く攻撃をいなしてはいるが、

 時折掠める攻撃により身体を裂かれ、血を流す。

 致命傷では無い為傷口は徐々に塞がるが、傷が癒えるのと反比例して体力は徐々に失われていく。

 外光が射さないこの闇の底では外の様子を窺い知る事すら出来ない。

 この洞窟に入り、一体何時間が経過しただろうか。

 規格外の力を持つ四天王である竜将ドラグノフと言えども、

 強敵を相手に続く長期戦で流石に息も上がってきている。


「……ったく……姿を隠したまま、遠くからチマチマチマチマと。お前の方がよっぽど姑息じゃねぇか」

「相手に合わせて戦い方を変えるのは常套手段だ、これは戦略と言うのだ」


 愚か者には理解出来んだろうがな。と、鼻で笑う。

 ドラグノフの持つ槍自体は魔法によって傷付けられる事は無い、

 だが彼女自身が魔法に対し無敵という訳ではないのだ。

 呪文詠唱すら無しに押し寄せる波濤の如き魔法の数々により、ドラグノフの体力は徐々に奪われていく。


「しっかし、魔法ってのも良くわかんねーな。何でお前は独り言喋らないで使えるんだ?」

「頭の悪い貴様に説明した所で分からんだろう、さっさと死ぬがよい」


 ドラグノフの居た空間を削り取るような光の斬撃、空中を翔ける術を奪おうと荒れ狂う乱気流。

 硬軟織り交ぜた多彩な魔法攻撃により、激流に揉まれる岩のようにじわじわと力を削り取られていく。



 ドラゴンやヴァンパイアを始めとした、生命力が非常に高い者同士の戦いは泥沼の消耗戦になりがちである。

 勿論弱点を叩けば一瞬で勝負は付くが、相手も自分の弱点を守る事だけは徹底しているだろうからそう簡単には行かない。

 致命傷でなければ大丈夫な身体となればその考え方は尚の事顕著に現れるだろう。

 消耗戦、しかも今回のように1対1となれば総合力で勝る方が勝つ。

 知識、魔法、装備品……等々、条件はあるがその総合力でドラグノフは押されていた。

 何も身に付けている様子が無い闇に潜むドラゴンより、

 コートを羽織って槍を所持しているドラグノフの方が装備的には優位に立っているのは間違い無い。

 だが彼女には無い魔法という武器が。一歩、また一歩と追い詰めていく。

 魔法による攻撃が続く中、不意に伸ばされた巨腕がドラグノフを襲う。

 魔法攻撃ばかりが脅威ではない、この巨躯から放たれる物理攻撃も十分に殺傷性を誇っている。

 しかし目の前にようやく晒された身体を前にドラグノフは引く事はしない。

 今が好機とばかりにその腕を力任せに槍で切り裂き、突き貫く。

 その都度鮮血が舞い、ドラグノフの身体は赤く染まっていく。

 しかし、その攻勢は長くは続かなかった。


「――かっ……!?」


 掌への攻撃の為、接近した事でドラグノフの視界には一部死角が出来ていた。

 一時的に視界を奪われていたドラグノフの目には何も映らなかっただろう。

 しかし、気付いた時にはドラグノフの腹部を深々と光の矢が貫いていた。

 その矢は開かれた巨大な掌の中心から伸びていた。

 この状況が示すの事はただ一つである。


 ――自らの掌ごと、ドラグノフを魔法で打ち抜いたのだ。


 ドラグノフの動きが止まったこの瞬間を逃さず、

 即座にその手でドラグノフを地面に叩き付け、押し付ける。


「て、めぇ……」

「分かったか小娘、これが貴様と私の差だ。こんな攻撃もかわせんとは、所詮はひよっこよ」


 ドラゴンは、致命傷でなければ傷は徐々に塞がる。

 だから、自らの身体を犠牲にした自爆攻撃のような物も戦法として十分通用する。

 敵がこのような行動に出る事を想定出来なかったが故、ドラグノフは追い詰められる。


「鬼ごっこは終わりだ、後は貴様の頭を噛み砕いて仕舞い……遺言があれば聞いてやらんでも無いぞ」

「遺言だ……ごほっ、ごほっ!」


 咳き込むドラグノフの口元から、血が溢れ出す。

 急所は外れているが、傷は深い。

 勝利を確信し、完全な上から目線で話し掛ける黒き竜。

 辞世の句でもあれば聞くだけは聞いてやろうという腹積もりらしい。


 だからこそ、反応が遅れた。


 大木のような腕に鎧の如く張り重ねられたドラゴンの鱗。

 その竜鱗を易々と貫通する紫光を宿す魔法の槍。

 音も無く飛来したその攻撃に、身を縮ませ苦痛の叫びを響かせる。


「嵐よ、矢となり薙ぎ払え! ストームアロー!」


 洞窟内に木霊する悲鳴に紛れ、怒気を孕んだ口調で詠唱が終わる。

 闇の奥底に潜む本体を、空気の矢が一切の情け容赦無く刺し貫く。


「ぐおおおぉぉぉぉ!」

「遺言を用意するのは貴様の方だろう? 黒竜王ノワール!」


 その影は、地に臥したドラグノフを庇うように前に現れる。

 薄闇の洞窟よりも遥かに深い黒を湛えたマントを靡かせ、

 携えた剣を鞘から引き抜き、正面へ構える。


「決着も付いていないのに気を緩めるからそうなるのだ。こんな攻撃もかわせんとは、所詮はひよっこだな!」


 低く力強い声が、先程黒き竜、ノワールが投げ掛けた言葉をそのまま返す。

 その影の正体は、ドラグノフも良く知っている人物……


「よぉ……まおー。何でこんな所に居るんだ……?」

「まさかと思ったが、どうやら悪い予感は当たったらしい。事情が変わった、このドラゴンは私が討つべき相手だ!」


 ――第54代『炎獄の支配者』魔王サミュエルである。

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