表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/134

22.魔王候補

 翌朝、良く食って良く寝たを見事に体現した竜将ドラグノフ。

 朝食も遠慮無くペロリと平らげて、腹ごなしにとドラゴン討伐へと向かう。

 先日出会ったクロノキアの警備兵に先導され、問題の洞穴へと向かう。


「我々としても協力を申し出たいのですが、既に我が方の警備隊はほぼ壊滅状態でして……」

「あー良いよそういうの、余計な奴が居ても邪魔なだけだしさ」


 それに……と、付け足すように呟き、満面の笑顔を浮かべるドラグノフ。

 昨夜の夕食に有り付いた時とは比べ物にならない程の輝かしい表情である。


「タイマンじゃないと、面白くないじゃん!」


 殺し合いと喧嘩の差異が本当に解っているのか、不安である。

 その答えに対し、警備兵は引き攣った笑い顔を浮かべる他無かった。



 問題の穴の前へ辿り付き、自分の持ち場へと戻る警備兵。

 穴の大きさは直径5mで、それなりに大きい規模の洞窟である。

 しかし周囲を薮で覆われており、洞穴の前に丁度入り口を覆い隠すように木が生えており、

 今まで人目に付かなかった理由も納得である。


「んー……駄目だ、狭くて入れないや」


 恐らく先遣隊がここに入った時は、木と穴の隙間を縫う様に滑り込んだのだろう。

 しかしドラグノフは背中に生やした持ち前の翼や羽織っている衣のせいで身体がつっかえてしまう。


「面倒臭いしこうしちゃえ!」


 意を決したようにポツリと呟かれた言葉と共に、ドラグノフは手にした槍を横に一閃する。

 ドラグノフの周りに突風が吹き荒れ、振り抜いた槍の切っ先が薮を両断し宙に舞う。

 それに続き、幹を真っ二つにされた樹木はゆっくりと悲鳴を上げながら地に倒れ込む。


「うわー、中暗いなー。まぁ慣れりゃ大丈夫だろ」


 やーりを持つ手がみーぎーてー。口ずさみながら闇が支配する洞穴の奥へ進んで行くドラグノフ。

 その歌が気に入ったのだろうか。



 墨汁を溶かしたかのような黒い世界、奥に進む都度濃くなっていく生臭さ。

 息遣いのような風の流れから、奥に居る何者かの気配が伝わってくる。

 ゴキリ、と何かを踏み折った音が不意にドラグノフの足元に響く。


 白骨化した腕が、その音の正体であった。


 近くにその腕が握り締めていたであろう剣の残骸が転がっていた。

 主を守る為に奮闘したその剣は中程から先が折れて欠損している。

 しかし周囲に胴体は見当たらない、不慮の事故で片腕だけここに落としてしまったのか、

 はたまた『腕だけが難を逃れた』のか。真相は周囲同様闇の中である。


 洞穴に潜り込んでどれ程経っただろうか、

 奥に居る何者かの気配を感じ取ったドラグノフは、浮かべた笑顔こそ崩していないが、

 所持している槍を静かに持ち直した。

 歩調を崩さず歩み続けると、大きな空間に出る。

 相変わらず暗いが、反響する足音の具合からして相当な広さの空間である。

 魔王城の中庭位の大きさは十分にありそうである。


「貴様、同族か。こんな場所にわざわざ何をしに来た、小さき者よ」


 頭上から空気を震わせつつ、威圧感の篭った言葉が木霊する。

 不気味で重苦しい声だ。並みの者であれば恐れを成して逃げ帰ってしまう程に。


「んー? いやさぁ、ここにドラゴンが居るからとっちめて来いってまおーに言われたからさぁー」


 しかし、ここに居る者は並みの者などではない。

 魔族最強の称号、魔王の名を持つ者が認める程の有力者。

 四天王が一人、竜将ドラグノフである。


「魔王だと……!」


 魔王という単語を耳にした途端、語調が怒気を帯びる。

 闇の底に潜んだ者が怒りで身体を震わせているのか、洞窟内が僅かに揺れる。


「貴様、あの亜人の小賢しい魔王の使いか! 仮にも誇り高きドラゴンの血を引く者でありながら、あんな卑怯者の軍門に下りおって! 恥を知れ!!」


 轟く雷鳴の如き怒鳴り声が洞窟内を駆け、その怒声から発せられた突風がドラグノフの身体を切り裂くように吹き抜けて行く。


「何言ってんのか良く分かんないからさ、何でも良いから喧嘩しようぜ喧嘩! お前強いんだろ? ちびっこといいやっとあたいが楽しめそうな相手が出て来たな!」


 極上の獲物を前に飛び掛かる寸前の猫のように、低く腰を落とし両腕で槍を構えるドラグノフ。

 何も考えてないようだが、姿も見えない闇の奥底へ無策で突撃する程馬鹿では無いようだ。


 出方を伺うドラグノフに対し、巨大な影が闇の奥から疾風のように空を裂きつつ伸ばされる。

 その影の正体は、腕であった。

 鋼鉄すら引き裂きそうな鋭利で強靭な爪、刃を通さぬ強靭な鱗、大木程はあろう太く大きい巨腕が、ドラグノフ目掛け襲い掛かる。

 咄嗟に槍を身体の前に構え、攻撃を受け止めるが元々の体躯の差故にその重い攻撃を受け止め切れず岩肌にドラグノフが叩き付けられる。

 舞い上がる土埃に、ドラグノフが飲み込まれる。


「強い? 楽しめそう? 笑わせてくれる、我を誰だと思っている」


 大地が震え、引き摺るような地鳴りが轟く。

 巨腕に続き、闇の奥底から血溜まりのようなドス黒い赤に染まった両眼が浮かぶ。


「我はノワール。黒竜王ノワールだ! そしていずれ魔王となるこの私に啖呵を切った事、後悔させてくれるわ!」


 吠え猛る獣の如き怒声が飛ぶ。

 その開かれた口元からは、槍の穂先のように鋭く研ぎ澄まされた牙が、びっしりと生え揃っている。

 全体像は未だ闇に溶け込んだままだが、既にそこいらの魔族では太刀打ち出来ない風格と覇気を放っている。


「んー、流石に直撃食らうと踏ん張り切れねぇな。ま、当たらなきゃ良いだけだな!」


 岩壁に叩き付けられたばかりだと言うのに、意に介さず土埃を払うドラグノフ。

 竜人族の血を引く者だけあり、この程度ではダメージにもなっていない様子だ。


「直ぐに倒れちまう情け無い相手じゃねぇみたいだし、こりゃ楽しい喧嘩になりそうだぜ!」


 槍を一薙ぎし、舞い上がった土埃を振り払う。

 視界が開けたのを確認し、闇に輝く眼光目掛けドラグノフは突っ込んで行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ