130.はかいしん、ゆうしゃ、まおうのものがたり
むかしむかし、とおいとおい、ここではないどこかから。
このせかいに、すべてをほろぼそうとした、わるいわるいかみさまがやってきました。
わるいかみさまは、このせかいでみたことがないような、おそろしいいきものをたくさんつれてきました。
そのおそろしいいきものは、にんげんたちをつぎつぎにおそい、たべてしまいました。
とつぜんあらわれた、そのおそろしいいきものに、にんげんたちはおびえて、にげるばかりになってしまいました。
さらに、わるいかみさまは、じぶんのちからをみっつにわけて、それをけらいとしてはたらかせることで、せかいをほろぼそうとしました。
しかし、わるいかみさまのちからは、とてもおおきくて。
きれいにみっつにわけられず、よっつにわかれてしまいました。
よっつめのちからは、ほかのみっつとちがい、わるいかみさまのめいれいには、したがいませんでした。
なぜならかれは、とあるくにのおひめさまとであい、そのやさしいこころにふれて、せかいをほろぼすことは、わるいことだとしったからです。
かれは、このせかいとおひめさまをまもるため、わるいかみさまたちにたたかいをいどみました。
たったひとりだけなら、かれはさいごまでたたかえなかったでしょう。
だけど、かれはひとりではありませんでした。
そのそばにはいつもおひめさまと、いっしょにたたかってくれる、たいせつななかまがたくさんいました。
だけどそのわるいかみさまと、のこりのさんにんのけらいはとってもつよくて。
ちからがたりなくて、しんでしまったなかまもたくさんいました。
それでもかれは、がんばりました。
ひとり、ふたり、さんにん。
なかまがしんでしまっても、いさましくたたかいました。
よにん、ごにん、ろくにん。
なかまがどんどんしんでしまい、かれのなかまは、どんどんいなくなっていきました。
そしてさいごには、いちばんたいせつな、おひめさまもしんでしまいました。
かれは、ひとりぼっちになってしまいました。
それでも、たったひとりになってしまっても、かれはこわがらずに、わるいかみさまにたたかいをいどみました。
たたかいはとても、とてもながいあいだつづきました。
じぶんをしんじて、たたかってしんだなかまのために、かれはくじけずにさいごまでたたかいつづけました。
そして、ながいながいたたかいがおわり、わるいかみさまはたおされました。
だけど、さいごまでたたかったかれも、さいごにはしんでしまいました。
そんなかれを、ひとびとはほめたたえました。
なんとゆうかんなひとだろう、まさにかれこそが――
―――――――――――――――――――――――
「――勇者。彼、初代勇者レインの偉業と、感謝を忘れる事が無いよう、そう称えられるようになったわ。これが人々の間に伝わる、勇者の英雄譚の始まり」
反芻するように、伝記を諳んじる。
これがこの世界に伝わる、勇者と破壊神、引いては勇者と魔王の物語。
人々の間では破壊神の成そうとした事を魔王が引き継ぎ成そうとしているとも言われているけれど、そんなの事実無根。
確かに破壊神はこの世界を滅ぼそうとした者だが、魔族からすればこの世界に自らを産み落としてくれた生みの親でもある。
過去の功罪鑑みれば、人間達からすれば敵対要素しかないのでその気持ちは分からないでもないが、
魔族からすれば生んでくれた感謝とその後の所業でどっちつかずといった所か。
「そして、破壊神がその配下と自らの力を失った事で、支配が切れた魔物の各々が意思を持ち、自由に動くようになった。これが魔族の始まりと言われているわ。更に、破壊神とその配下の存在に習い生まれたのが、この世界における魔王と四天王の生い立ちとも言われているわね」
その生んでくれた生みの親に倣って始まったのが、魔王と四天王という頂点の構図。
過去、世界を滅ぼそうとした罪は消えないけれど、それでも生んでくれた感謝という思いがこの社会の形態という形で残り続けたのだろう。
「だけど、破壊神の配下は滅んだはずだというのに、再びこの世界に現れたわ」
あの時出遭ってしまった出来事、あの戦い。
今まで生きてきた中で一番強く感じた、命の危機。
この身体になった原因の出来事と思い比べても、やはりあの時の事の方が強く感じる。
明らかに目の前にいたのは、生物では無かった。
殺せば死ぬ相手と殺しても死なない相手、比べるのは土台無理な話だろう。
「あの男には、ありとあらゆる魔法が通用しなかった。中途半端な魔法なんかじゃないわ、今の世にも伝わる、魔王や四天王、更には勇者までもが使った大魔法や魔法剣の数々が、そいつには通用しなかった。間近で否応無しに味わった私だからこそ、断言出来るわ。自らが振るう力を神の力と自称したあれこそが、この世界にかつて存在したっていう破壊神の力だってね」
一呼吸、ゆっくりと息継ぎをする。
あの時見た醜悪な笑顔、人も魔族も関係なく、下卑たモノを見るかのような冷徹な目。
今でも目を閉じれば、あの日の夜の出来事は何時でも思い出せる。
「人だとか、魔族だとか、あの男からしたら関係無いのかもしれないわね。等しく生きる命であり、等しく殺戮対象なのでしょうね。私が生き延びられたのは、ただの偶然にしか過ぎないわ。その偶然に助けられなければ、私はこの世にいなかったでしょうね」
そう、ただの偶然。
あの黒衣の大男、ルードヴィッツが間に合ったのは偶然でしかない。
ルードヴィッツは別に、ナイアルから私達を庇う為に戦い始めた訳では無い。
事実、その戦い方には何かを守ろうとかそういう素振りが一切見られなかった。
だからこそ、流れ弾という魔法効力の余波が飛んで来た訳なんだけど。
あの夜の出来事を一通り、回想を交えて語り終える。
「――ま、この話は魔王や勇者の伝聞には残されて無いわ。だから、証拠なんて無い。私の作り話かもしれないわね」
私の、私達のお話は一先ずこれでおしまい。
話の種になったかしら?
めでたしめでたし。
もうちょっとだけ続くんじゃ




