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122.謎の男

次で123話

ゾロ目とか連番って何故か見掛けるとテンション上がる

「カーミラさん、丁度今アレクサンドラさんが洞窟の中に入っていきました」


 先程、まぁ、その。

 カーミラに強引に口付けされたせいか、どういう原理かカーミラと離れていても会話が出来るようになった。

 そういった事情で、今は洞窟から離れた位置に陣取り、監視と報告を行っている。

 足手纏いだから付いて来るなと暗に言われているような気もしなくはないが、

 真正面から切った張ったの立ち回りが出来るのかと言われれば足手纏いは甘んじて受けるしかないので、現状不満など無い。

 一応、魔王達が中へ入った後に袋のネズミにするべく入り口をどうこうされる可能性も無きにしも非ずなので、

 その監視という名目で待機しているこの現状に文句は無い。


 無いのだが……返答が無い。

 もしかして戦闘中なのだろうか? 返事が無いのが少々不安だが、聞こえているという仮定で行動する。

 しかし、見渡す限り白ばかり、やや標高が高い為かまだまだ雪の溶け残りが多々あり、照り返しの日光で目を傷めそうになる。

 目を守ろうと精一杯の抵抗で目を細めながら、山を監視する。

 昼間に比べれば夕暮れ時となった今大分マシにはなったが、それでも銀雪の輝きはまだまだ強い。

 だがこれだけ周囲が白ければ、白装束にでも身を包んでいない限りはすぐに分かりそうな物である。 


「ん……?」


 不意に視界に入った、この場に似つかわしくない姿。

 一見男の人に見えるが、その肌は病的な程に白い。

 残雪と見比べても大差無い程に白く、生気を感じない。

 比較的軽装であり、私と比べても大差無い機動性重視の服装であるが、

 魔族の地であるレオパルド領で、人間がそんな華奢な格好で来るとは思えない。

 という事は、クレイスなどと同じような人間に非常に近い姿をしているエルフ族なのだろうか?

 だとすれば、耳が尖っているのか?

 注視すべく頭部に視線を向ける。

 緑の柔らかそうな髪を肩に掛かる長さで切り揃えてあり、生憎耳元はその髪で覆われており窺い知る事は出来ない。

 こんな場所に一体、何の用だろうか?

 そう考えてその直後、答えに至る。


 こんな何も無い場所で、しかも単独行動している時点で怪しさは十分である。

 ではその目的はといえば、十中八九魔王絡みに間違いないだろう。

 視線は外さず、カーミラに報告しようとしたその時。

 男の口元が何か呟くように動き、その姿が消える。

 猛スピードで移動したといったそういう訳ではなく、本当に一瞬で消えたのだ。

 まるで、世界から切り取られたかのように。


 そんな光景を見て一瞬の動揺、僅かな間が生まれる。

 直後、魔王達が潜っていた山々に埋もれた遺跡があった場所が、山崩れのような音と地響きと共に崩壊を始めた!



―――――――――――――――――――――――



 サクリフを討ち取ったその直後、遺跡が轟音と共に崩壊を始める!

 しかし不思議な事に、崩れ落ちる天井、土砂は魔王達を押し潰す事無く、次々に消えて行く。

 やがて徐々に崩壊を終えた土砂の合間から夕日が差し込み、やかて頭上に完全な夕焼け空が広がる。

 魔王達が立っていた足場だけを残し、頭上や側面、そこにあった遺跡や山々の全てが削り取られたかのように消え去る。


「いやはやお見事でしたぁ。これでこのレオパルドの地にも平和が戻り、めでたしめでたしという訳ですねぇ」


 ねっとりとした若い男の声、その声の飛んで来た方を見やる。

 そこにはとても賞賛してるとは思えない、投げやりな間隔の長い拍手を送る一人の男。

 男はその糸目で魔王一行を確認し、そこに居た勇者の姿を視認した後に続ける。


「しかし魔王だけのつもりがオマケで勇者も釣れるとは。これは散々苦心し骨折りを続けた事へのご褒美というやつですかねぇ?」

「何者だ!?」

「覚えて貰う程の者ではありませんよ、覚えて貰う必要もありませんし……ですが敢えて名乗るのであらば、ヒュレル……とでも名乗らせて頂きましょうか?」

「ヒュレル……?」


 その名が頭に引っ掛かり、表情を曇らせるクレイス。

 その名を何処かで聞いたはずとばかりに、懸命に思い出そうと記憶を辿り始めた。

 そんなクレイスを横目に、ヒュレルと名乗った男は状況を大衆に語るかのように大袈裟な動作で語り始める。


「こうしてレオパルドの地に争乱をもたらした元凶は敗れた。しかしその戦いの最中、魔王もまた無事では済まなかった。造反の首謀者の致命傷が原因で遺跡の崩壊に巻き込まれ、その生涯を終える……うん、我ながら後腐れの無い締め方だ」

「貴様、一体何を言っている……?」


 不穏な言動を聞き逃せず、ヒュレルに問う魔王。

 しかしヒュレルは魔王の問いに答える事無く、自分勝手に自らの胸中を語り続ける。


「確かクレイス……とか言いましたか? 残念ですよ、貴方がもっと真面目に仕事をしてくれれば私自ら動く事も無かったんですがね」

「見知らぬ顔が随分な上から目線ですね」


 ヒュレルはクレイスに水を向ける、それを受けて一旦考えを止め、

 クレイスは随分と馴れ馴れしく話し掛けるヒュレルに高圧的に当たる。

 そんな様子を気にも留めずヒュレルは続ける。


「貴方は知らずとも、私は知っていますとも。貴方と私は一度逢っていますからねぇ」

「逢った?」

「まぁ、覚えていないのも無理はないでしょう。そう『認識』させましたからね」


 ヒュレルは愉快な笑いを堪え切れず、その表情に歪んだ笑みを浮かべながら、

 噛み殺した笑い声を漏らす。


「――狂人か何かでしょうか?」

「捨て置け。あの男はまるで魔力を感じん雑魚だ、こんな場所で武器も持たずに一人でいるような馬鹿はじきに魔物の腹の中だ」


 クレイスの問いに無視するよう促す魔王。

 事実、ヒュレルと名乗った男からは魔力が感じられず、武器らしい物も持っている様子もない。

 では力があるのかと聞かれれば、あんな線の細い優男に筋力などという物があるとは到底思えない。

 魔力も無いのに、そんな細身の男が仮にこちらに敵意を向けた所で、この面々相手に傷一つ付けられる訳が無い。

 当然そんな事は勇者含む他の四天王も全員分かっている為、その答えに異論は無い。

 魔王が踵を返そうとしたその様子を見て、咄嗟に口を出すヒュレル。


「おっと、何も知らずに消えられても困りますからね。一度周囲を魔力探知する事をオススメしますよ、今すぐ消えたくないならば、ね」


 今までと違い、特におどけた様子も無く淡々と述べるヒュレル。

 そんな今までと違う口調に何か違和感を感じたのか、カーミラが一度周囲を確認する。


「……何、これ? 周囲に結界みたいな膜が出来てる」


 魔王一行と勇者の四方を取り囲むように、薄い境界線が存在するのを感じ取るカーミラ。

 正確にはその境界線自体を感じ取った訳ではないのだが、

 その規則正しい境界線に触れた、空気中を漂う魔力や塵、そういった諸々が不自然にそこで断絶しているのだ。

 まるで、世界が切り取られたかのように。


「ま、今の私は気分が良い。どうせすぐ消えるのですから、冥土の土産に教えてあげましょうか」


 カーミラが現状を把握したのを確認し、邪な満面の笑顔でヒュレルは続ける。


抹消結界(イレイズサークル)、私自ら手掛けた術式です。もう逃がしませんよ?」

「――業魔緋炎刃(ごうまひえんじん)


 まるで羽虫を追い払うかのように、淀み無い反射的な動きで魔王はティルフィングを抜き、

 振り抜いた剣閃が緋色の弧となりヒュレル目掛け飛来していく!

 ある程度進んだ後に着弾。

 眼前の視野を覆い隠す程の爆炎が上がり、ヒュレルの姿が炎へと溶ける。


「時間の無駄だ、さっさと戻るぞ。城下の早急な現状把握と建て直しで奔走せねばならんのだからな」

「まぁまぁそう言わず、ゆっくりしていって下さいよ。クッククク……」


 魔王の放った一撃は、ヒュレルに届く事は無かった。

 さも当然といった様子で、腹の底から含み笑いをあげるヒュレル。


「アンタ、手抜いたんじゃ……違うの?」

「どういう事だ――!? 何故破れん!?」


 魔王の表情を見て、咄嗟に最後を言い換えるカーミラ。

 まるで信じられない、そう言いたげな困惑に満ちた表情が魔王に浮かび上がる。


「言ったでしょう、もう逃がさないと! 高々魔族の王如きが、神の御業に傷でも付けられると思っているのですか?」


 一行に向けられた明確な敵意。


 魔王と勇者、双方にとっての最大の危機がそこに存在した。

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